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製造業向け|小さな決め事を守れない職場は、大きな改善も続かない

「使ったら戻してください」

職場で何度も聞く言葉だと思う。

工場に限らない。
事務所でも、倉庫でも、学校でも、家庭でも似たようなことはある。

ハサミを使った人が元の場所に戻さない。
共用の道具が、なぜか毎回違うところにある。
棚に貼った表示が、気づいたら意味を失っている。
片づけたはずの場所が、数日後にはまた元に戻っている。

一つ一つは小さい。

だから、強く言うほどのことでもない気がする。
言う側も、何だか細かい人みたいになる。

ただ、こういう小さな崩れ方は、職場の状態をよく表していると思う。

5Sは、きれいに見せるためだけのものではない

製造業では、5Sという言葉がよく使われる。

整理、整頓、清掃、清潔、しつけ。

言葉だけ見ると、少し堅い。
ポスターに書いてある標語のようにも見える。

でも中身は、そこまで難しい話ではない。

いらない物を置きっぱなしにしない。
必要な物を、必要な場所に置く。
汚れや異常に気づける状態にする。
その状態を保つ。
決めたことを、気分で崩さない。

要するに、毎日働く場所を、迷わず使える状態にしておくということだと思う。

工場見学や来客前だけきれいにする職場もある。

もちろん、見られる前に整えること自体は悪くない。
ただ、普段は乱れていて、見られる時だけ慌てて片づけるなら、それは少し違う。

見せるための5Sではなく、毎日働く人が困らないための5Sであるはずだ。

小さな決め事ほど、言い訳しやすい

道具を戻す。
床に物を置きっぱなしにしない。
使った場所を整える。
夕方に少しだけ集まって、今日の困りごとを話す。

こういう決め事は、どれも難しくない。

難しくないからこそ、崩れた時に言い訳もしやすい。

今日は忙しかった。
あとで戻すつもりだった。
今使っている途中だった。
急ぎの仕事が入った。
誰かが使うと思った。

言っていることは分かる。

現場は予定通りにはいかない。
毎日きれいに終わるわけでもない。
急ぎの仕事が入れば、片づけより作業を優先することもある。

だから、できなかった日があること自体を責めたいわけではない。

問題は、できなかったことが当たり前になっていくことだ。

一度崩れた置き場が、そのままになる。
一回休んだ短い共有が、いつの間にか消える。
「あとでやる」が何日も続く。
誰かが注意しても、「忙しいから」で流れる。

こうなると、決め事はだんだん軽くなる。

最初は「守ること」だったはずなのに、いつの間にか「できたらやること」になる。

ルールで縛りたいわけではない

現場をルールだらけにすると、たしかに動きにくくなる。

何をするにも確認。
少し変えるにも許可。
作業より手続きが増える。

そういう職場は息苦しい。

だから、「あまりルールで縛りたくない」という考え方は分かる。

ただ、その言葉が、何も決めないための逃げ道になっていることもある。

やる前から、続かないと言う。
始める前から、意味がないと言う。
決める前から、縛りたくないと言う。

それは本当に現場のためなのか。
それとも、やらない理由を先に用意しているだけなのか。

ここは分けて考えたい。

小さな決め事は、現場を縛るためではなく、迷わず動くためにある。

置き場が決まっているから、探さなくて済む。
使った物を戻すから、次の人が困らない。
短い共有があるから、困りごとが放置されにくい。
片づいた状態があるから、異常に気づきやすい。

これを全部「縛り」と呼んでしまうと、現場を楽にするための最低限の線まで消えてしまう。

改善は、地面がないと残らない

改善活動では、工数削減や不良低減のような大きな話が目立ちやすい。

数字になる。
資料になる。
会議で説明しやすい。

それはそれで大事だと思う。

ただ、大きな改善を残すには、普段の小さな決め事が守られる土台がいる。

置き場を変えても、戻す習慣がなければ崩れる。
表示を貼っても、誰も見なければただの飾りになる。
確認表を作っても、忙しい時に使われなければ形だけになる。

改善は、出した瞬間だけ良くなっても意味が薄い。

次の日も続く。
来月も残る。
人が変わっても同じようにできる。

そこまで行って、ようやく現場に根づいたと言えるのだと思う。

だから、小さな決め事を軽く見ている職場では、大きな改善も続きにくい。

改善案が悪いのではない。
改善を受け止める地面が、まだ柔らかすぎるのだと思う。

職場は、小さいところから崩れる

職場が急に悪くなることは少ない。

最初は、道具が一つ戻らない。
次に、棚の前に物が置かれる。
そのうち、通路が少し狭くなる。
決めた共有の時間が飛ぶ。
誰も言わなくなる。

一つ一つは小さい。

だから見逃される。

でも、小さい崩れ方は癖になる。

「まあいいか」が続くと、決めたことの重さがなくなる。
一度軽くなった決め事を戻すのは、意外と大変だ。

強く言えば反発が出る。
放っておけば崩れる。
何度も言うと、言う側だけがうるさい人になる。

だからこそ、最初から大げさにしすぎない方がいいのかもしれない。

まずは、使った物を戻す。
毎日ではなくても、短く話す時間を作る。
崩れたら、誰か一人のせいにする前に元に戻す。
来客前だけではなく、普段から見られても困らない状態に近づける。

それくらいの小ささでいい。

小さいからこそ、続けられるかどうかが見える。

5Sは、改善の前にある職場の姿勢

5Sは、きれい好きの人がやる活動ではないと思う。

職場を整えるということは、次に使う人のことを考えることでもある。

自分だけ分かればいい。
今だけ間に合えばいい。
あとで誰かが片づければいい。

そういう状態が積み重なると、現場は少しずつ荒れる。

逆に、使った物を戻す。
置き場を守る。
崩れたら戻す。
困ったことを共有する。

こういう小さなことが続く職場では、改善も残りやすい。

大きな改善を出す前に、まず小さな決め事を軽く扱わないこと。

そこができていないまま、立派な改善資料だけが増えても、現場はまた元に戻ってしまう。

改善は、特別なことを思いつく力だけでは続かない。

毎日同じことを、昨日と同じように守れる力も必要になる。

地味すぎて、会議ではあまり目立たないかもしれない。
でも、現場を本当に支えているのは、案外そういう地味な部分だと思う。

大きな改善が続く職場は、たぶん小さな決め事を軽く見ていない。

その差は、資料よりも、普段の作業場に出る。


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