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第三話 義経伝説時を超えた殺意

 翌日、俺は約束通り大学の九条先生の研究室に向かった。
 予定より少し早い時間に着いてしまったのは、事件の事が頭から離れず昨夜全然眠れなかったせいだ。
 自分は図太い神経をしていると思っていたのに、案外そうでもなかった事に少々驚いた。以外にも繊細な部分があったらしい・・。
 深呼吸をすると研究室のドアをノックした。
 コン・コン・・・
 すぐに「はーい」と言う返事とともにドアが開いた。 
 中から、パッチリとした目が印象的な黒髪ロングの女の子が出てきた。
「えっ・・・」
「んっ?」
 !バタン!!!
 正直、先生しかいないと思っていたので、いきなりの美少女に心の準備ができておらず、思わず開いた扉を閉めてしまった。
 あれ?部屋間違えた?いや、あってる・・・
 ドアの前で一瞬躊躇していると、さっき閉めたドアが開き
「もぉ、なんで閉めちゃうの!」
 可愛らしい声とともに、先ほどの美少女が姿を現した。
 その奥で、肩を揺らして笑い声を堪えている先生と目が合った。
「どうぞ、入って!」
 俺は美少女の招きに応じて部屋へ入った。
 九条先生の研究室には、様々な資料や本が所狭しと置いてあるが、物が多い割にきちんと整理されており、几帳面な性格がにじみ出ている。
「どうぞ、ここに座って」
 少女に促されるまま椅子に腰を下ろしながら、つい目線は少女にいってしまう自分に気づき、慌てて目線を逸らしてみる・・・
 女性との付き合いに慣れてなさ過ぎて物凄く挙動不審になってしまった。
 俺、キモイな・・・
 それにしても、この少女は誰なんだろう?と考えていると
「初めまして。私、九条 美幸です」
 俺の視線に気づき、素敵な笑顔を向けて挨拶をしてくれた。
「天使・・・」
「ん?何か言った?」
 やばい心の声がだだ漏れていたらしい
「えっと九条 美幸さん。初めまして。小鳥遊 渚です」
 とあいさつすませてから、九条?あれ?どこかで聞いた事があるような・・・あっ先生と同じ苗字?!
「あっ先生と苗字一緒なんですね」
 そうか、一緒の苗字という事は・・
「もしかして、奥様ですか?」
 その瞬間、たまりかねたように先生が吹いた。
「美幸は妹なんだ」
「兄がいつもお世話になってます」
 二人に笑われ、思わず赤面してしまう。
 イケメンの兄に美女の妹、完璧な仕事を成し遂げたDNAに心の中でそっと称賛をおくった。
 俺がくだらない事に考えを巡らせていると
「美幸、これから小鳥遊君と大事な話があるんだ、外してくれないか?」
 あっそうだった。これから事件の事を聞くんだったと思い出し、背筋を伸ばす。
 言われた美幸さんは、少し考える仕草をすると
「大事な話って、昨日の事件の事でしょう?私も聞きたい!ね、いいでしょ?きっと役に立つと思うなぁ」
 言いながら、小悪魔っぽい仕草で期待の眼差しで先生を見上げる美幸さんが、ちょっと可愛らしく、思わずドキッとときめいてしまった。
「美幸、遊びじゃないんだ!実際に人が亡くなっている。そう言う無神経な言動は慎みなさい。」
 しかし先生は冷静に少しきつめの口調で美幸さんに注意をした。
 その言葉を聞いて、思わず俺も「ごめんなさい」とあやまってしまいそうになる。
 普段温厚な人が怒ると迫力あるよね?
「ごめんなさい・・・小鳥遊君もごめんね。じゃあ私帰るね。」
 美幸さんは、自分のかばんを持つとドアから出て行った。
 その後ろ姿が寂しそうで、少しかわいそうに思いながら美幸さんを見送った。

 美幸さんの姿を見届けると、先生はおもむろに手帳を出し
「まずは事件の概要から話そうか」と説明をはじめた。
 事件がおきたのは、8月2日午前2時38分
 警報音がなり、警備員の橋本さんがモニターを確認すると、展示室のモニターは黒く塗りつぶされており、何も見えない状態だった。
 すぐに展示室に向かおう廊下に出たところで、今度は叫び声を聞いた。
 そこで、もう一人の警備員松木さんと二手に別れて、展示室と資料室へと向かった。
 展示室と資料室は、部屋自体は隣同士なのだが、入り口の方向がそれぞれわかれている。
 まずは、資料室に向かった橋本さんが、ノックしながら声を掛けても反応がなかったのでドアを開けると、中から藤堂さんの遺体を発見した。
「あの、発見した時にはすでに藤堂さんが亡くなっていたって事ですか?」
「藤堂さんの体には矢が胸に突き刺さっていたらしい」
「矢が・・・・」
「それとこの時、丁度、館長が駆け付けて来て、そのまま藤堂さんの脈を診て死んでる事を確認したらしいね」
「じゃあ、死因は刺殺なんですね・・・」
 思わず言葉を詰まらせると、先生は少し眉間にしわを寄せて
「いや実は・・・本当の死因は毒殺らしい。矢の先に即効性の毒が塗ってあった事がわかったんだ。ただこの事は公にはしていないので絶対に口外しないでほしい」
「わかりました。毒殺なんて・・・えっと、叫び声が聞こえた時に殺されたって事でしょうか?」
「ああ、死亡推定時刻は昨夜2時から3時の間で、叫び声が2時30分頃だとすると、今のところその可能性が高いと警察もみているらしい。」
 そこまで聞いて、あの時の叫び声がまた頭の中で響いた気がした

 次は同時刻展示室に向かった松木さんだが、展示室に着いたときはすでに犯人はおらず、剣が入っていたケースが割られていて盗まれた後だった。
 それから直ぐに資料室に行ったところで、橋本さんと斎藤館長に会ったそうだ。
 それから、橋本さんと二人で再度、展示室や廊下や駐車場なだを見回ったが、誰もいなかった。
 ただ、廊下の窓が割られていたので、恐らく犯人がそこから出入りした可能性がある。
「そして、さらに分かったことなんだが、藤堂さんが殺害されていた床に君の家から見つかった古文書が落ちていたのだが、その古文書の中から数ページ破られていたらしいんだ・・・」
「えっ破られて・・・」
 古文書は誰が破いたのだろう?犯人か、藤堂さんか・・・
「あの、斎藤館長も駆けつけたって事は、館長も博物館にいたんですね?」
「いや、実は館長は自宅に帰っていたらしいのだが、藤堂さんから凄いことが分かったからすぐに来てほしい。という内容のメールが届いて、急いで博物館に来たところ亡くなっている藤堂さんを発見したらしいんだ。」
「じゃぁ、すごい発見というのは古文書の内容に関する事ですか?」
「おそらく、そうだろう」
「でも、急ぎならなんで電話じゃなかったんだろう?」
「それに関しては、深夜だったから電話は遠慮したんじゃないかという事だった。できれば早く伝えたいが時間も遅いからね、もし起きていたら来てほしいと思ったんじゃないかって館長は言ってたよ。まぁ本人は亡くなってしまったので推測でしかないけどね。」
 今の話を聞く限り、古文書も事件に関係しているかもしない。
「先生、古文書って調べることはできませんか?残ってるページにも何か手がかりがあるかもしれないし!」
 そんな俺の言葉を聞くと、先生はおもむろにパソコンの画面を俺に見せながら
「実は、古文書はデータに保存してあるんだけど、昨日見返していて気になる所があるんだ」
 俺は興味深げに画面を覗き込むと、そこには絵が描かれたページが映し出されていた。
「これ、勾玉みたいですよね?文字は何て書いてるんでしょう?」
「どうやら、勾玉は義経に関係するらしい事と、世に出しては行けないと書いてある。それと勾玉は2つ存在するらしく、それらが揃うとき真の財宝のありかがわかるだろうと、書かれている」
 ・・・財宝?マジで!?
 さっきまで凄惨な殺人事件の話をしていたのに、いっきに財宝という言葉に目がくらんでしまった。
「えっ、財宝って、当時の平泉を考えると、金ですよね!!やばい、金の延べ棒とか想像するだけでワクワクしてきた!」
 と、何とも不謹慎な事を思って・・いや、口走ってしまった。
 さっき美幸さんが怒られたばかりなのに、自分てば情けないな・・・
 先生は、そんな俺を生暖かい目で見ながら
「実はね、私の家に昔から伝わる勾玉があるんだ。これも絶対に他人には知られてはいけないと昔から言われていて、この書物に書いてある勾玉と何か関係があるのかもしれないと思ってね。」
「へっ」
 なんとも予想外の話の流れに、ちょっと混乱していると
「殺人事件は一通り証拠が集まるまで警察にまかせて、僕たちは、この古文書の方を調べてみないかい?手始めに、僕の家にある勾玉を見に行こうじゃないか?」
 と、軽くウィンクしながら誘われてしまった。
 男の人にウィンクされたのも初めてだが悪い気分じゃない、いや、むしろちょっとドキッとしてしまった。
 そこまで話を聞いて、そう言えばと思い当たる事を口走っていた。
「あの、実は家にも、中を見てはいけないと言われて大事にされてきたお守りがあるんですが・・・もしかすると、それも勾玉だったりして・・」
 なんて、そんな都合のいい話ないか、と思っていると
「いや、実際、君のおじいさんの家から古文書が見つかっているのだから、そのお守りが勾玉の可能性もあるよ!よければ、家に来るときに一緒に持ってきてもらえるかな?」
 先生の目の奥が怪しげに光った気がした。
 何かスイッチを押してしまったらしい・・・
「わかりました。持っていきます!」
 俺はすかさず返事をした。
 じいさんが生きていたら絶対に外に持ち出すなんて出来なかっただろうけど、今はもう亡くなっているしね。


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