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第四話 義経伝説時を超えた殺意

 翌日、九条先生の車に乗せてもらい先生の実家に向かっていた。
 先生の実家は盛岡市にあり、平泉から2時間程走った所にある。
 天気は晴れていて一見ドライブ日和なのだが、思ったよりも風が強く、たまに横風に車が揺れていた。
 ゆっくりとした速度で高速道路を走っていると、目の前に岩手山が見えてきた所で、俺の携帯が鳴った。
「あの、すみません」先生に一言断って、電話に出てみると相手は斎藤館長だった。
「はい小鳥遊です。はい・・・ええ・・わかりました、大丈夫です。では明日伺います・・」
「あの、先生。今、館長からの電話で、明日博物館の展示室の掃除をするのを手伝ってほしいって」
「そうか、他にも手伝う人が来るのかな?」
「あっいえ、片付けられるのが展示室だけらしいのと、なるべく事件に無関係の人が関わるのを避けようと思うって。なので、俺だけらしいです」
「そうか・・・実は今朝、肇から連絡がきたんだが。一度、現状分かっているところまでの報告をしようと。他の人がいないのなら、博物館に来てもらって、そこで話すのが都合がいいかもしれない。もちろん掃除も手伝うよ」
 正直、その申し出はとてもありがたかった。
 今、館長と二人にされても、何を話せばいいのか・・・いや、いっそ事件には触れない方がいいのか?
 とにかく二人きりは、気まずいと思っていたのだ。
「斎藤館長には、私から話を通しておくよ」
「はい、よろしくお願いします。」
 話をしていると、車はあっという間に先生の実家に到着した。

 車を降りて目に入ったのは、家というより立派なお屋敷だった
「あの、先生のご実家は、とても立派なんですね・・・」。
 田舎の祖母ちゃんの家に行く位のテンションで来てしまったので、目に映るスケールの大きさに、思わず下世話な質問をしてしまう
「やっぱり、執事さんとかいるんですか?」
 セバスチャンと言いかけて、その言葉は飲み込んだ・・危なかった。
「ああ、昔から働いてくれてる人がいるよ。今日はお使いをお願いしているから留守にしているけどね。」
 玄関先で話をしていると、目の前の引き戸が開いて美幸さんが顔をだした
「お兄ちゃん、お帰り!小鳥遊さんいらっしゃい」
「お、おじゃまします」
 俺は、先生の後ろについて家に上がった。
 それにしても、大きなお屋敷だけあって、廊下がとても長い。
 途中に生花が飾ってあったり、縁側の外には立派な日本庭園が広がっていた。
 まるで、どこかの料亭に来た気分だ。ま、料亭なんて行った事ないのだけどね・・・
「ここで待っていて」
 と、案内された客室の中には、立派な掛け軸や、床の間には何か高そうな壺が飾ってある。
 これは、間違っても壊したら大変な事になる!絶対変な所を触らないようにしようと、強く心に誓い、出された座布団に正座をした。
 緊張している俺を見た先生が
「足を崩して楽にしてて、今ばあさん呼んでくるから」と言った。
 先生が出ていくと、入れ替わるように美幸さんが入ってきた。
「お茶をどうぞ、今日暑かったから冷たい麦茶にしたんだけど、良かった?アイスコーヒーとかの方がいいか、迷ったんだけど・・」
「いえ、喉が渇いていたので、麦茶がありがたいです」
 なんて、美人が入れてくれたお茶なら、麦茶だろうが、コーヒーだろうが、なんだったら、ただの冷水でもいいけどね!
 俺が美幸さんと楽しいひと時を過ごしていると「失礼します」と声とともに、スッと障子があいた。
 そこには、膝を折って座る上品な佇まいの、おばあさんがいた。
 その整った顔立ちを見ると、間違いなく先生のお身内だと思う。
 俺は、一度崩していた足を、再度正座しなおして
「おじゃましています。初めまして小鳥遊です」と、なるべく丁寧にあいさつをした。
 やっぱり挨拶って初めが肝心だよね・・ほら、印象って大事だろ?
「どうぞ、足を崩して楽にしてらして」
 おばあさんは、言いながら俺の前に来てスッと座った。
「初めまして翔馬と美幸の祖母の君子です」
 座り姿も、背筋がピンっと伸びて、とても美しかった。
「あの、つまらない物ですが・・」
 一応、手土産を用意していたのを思い出し、袋から出す。
 県内という事もあって、何を持っていくか悩んだ結果、手作りのシフォンケーキを持っていくことにした。
 昔から、よくお菓子を手作りをしていたが、その中でもシフォンケーキは得い料理なんだ。
「凄い!これ手作りなんだ」
 弾んだ声を掛けてくれたのは、美幸さんだった。
 しかし俺は、先生の一瞬曇った表情を見逃さなかった・・・
 しまった。初めての家に手作りの物はまずかったか?
 気分的に田舎のばあちゃんの家に行く感じで、お土産決めちゃったんだよね。今までも友達の家に行く時、たまに作っていくと喜ばれたし・・・
 俺は、ちょっと焦って
「すみません、やっぱり何か買って来れば良かったです!あの、無理に食べなくても大丈夫なんで、ほんとすいません・・・」
 と一度出した、シフォンケーキを引っ込めようとした所を、横から美幸さんに取られてしまった。
「美味しそうだよ、みんなでいただこうよ。」
 そう言って、俺に笑顔を向けてくれる
「そうね、私もいただきたいわ、美幸分けてきてくれる?」
「はい!」美幸さんは返事をすると、すぐにケーキを持って行ってしまった。
 少しの間気まずい空気が流れたが、すぐに美幸さんが戻ってくると、切り分けたケーキをみんなの前に置く。
「すごく、ふわふわで美味しそうなのよ、いただきます!」
 そう言って、大きめの一口でケーキをほうばった。
「うわぁ、すごく美味しい!ね、おばあちゃんも食べてみて?」
 今度は君子さんが上品に口にケーキを運ぶ。
「・・・あら、本当!すごく美味しいわ。小鳥遊さんってお菓子作りが本当にお上手なのね」
 よかった・・その言葉を聞いて少しホッと胸をなでおろしたが。
「あの先生、甘い物が苦手なら無理に食べないで下さい」
 と、先生に声をかけたのと同時に、意を決したように、先生がケーキを口に運んでいた。
 食べちゃった・・・苦手なものを無理させしまったんじゃないかと思い、心配そうに先生を見守っていると、切れ長の目が一瞬大きく開き
「・・・甘い・・・」
 と一言。
 しかし、それからパクパクと食べ始め、あっという間に完食した。
「あの、大丈夫ですか?」
 俺が心配そうに声を掛けると
「凄いね小鳥遊君!本当に美味しかったよ、ありがとう」
 お世辞でも、褒められると嬉しい・・・
 思ったより皆に好評で、和やか気分になっている所で、おもむろに君子さんが口を開いた
「さて、翔馬達が今日来たのは、勾玉の事を知りたいからよね?」
 先生は頷くと、古文書に書かれていた内容などを、君子さんに説明し始めた。
 君子さんは、静かに先生の話に耳を傾けていた。
「だいたいの事情は分かりました。しかし、本来あの勾玉は、おいそれと他人様に見せられる物ではないのです。」
「しかし、ばあさん・・」
 先生が口を挟もうとしている所を、君子さんは手で制し
「小鳥遊さん、あなたの家にも、勾玉があるかもしれないと聞いているのだけと、本当かしら?」
「はい、とは言っても、家にあるのは、お守りなのですが・・・一応、今日持ってきました。まだ、中は確認してないのですが・・・」
 話しながら、持ってきたお守りを先生に手渡した。 
「周りの布は、かなりの年季を感じるね。開けてみてもいいかな?」
 俺は頷くと「はい、大丈夫です」と答えた。
 それから、少し緊張気味に先生の手元を注視していた。
 先生は丁寧にお守り袋を開けると、中から和紙に包まれた何かを取り出した。
 包まれていた和紙を丁寧にはがしていくと、中から直径4cm程の綺麗な勾玉が姿を現した。
「やっぱり勾玉だった!」
 俺は、驚きと興奮を隠せず、思わず声を張り上げてしまった。
 そんな俺たちの様子を静かに見守っていた君子さんも、懐から小さな和紙を出した。
「翔馬、開けてみて」
 一言、先生に言うと、先生は、君子さんから預かった和紙も慎重にはがしていった。 
「同じ勾玉が入っている!」
 と、今度は美幸さんが興奮気味に口を開く。
 先生は、興味深げに勾玉が包まれていた和紙を見ていた。
 和紙には、何か文字が書かれている。
「先生、読めるんですか?」
「ああ、二つの勾玉が揃うとき、新しい扉が開くだろうと書いてある」
 すると、君子さんはもう一通古い手紙を出しながら、静かに言葉を紡いでいく。
「これは、我が家に伝わる武蔵坊弁慶の手紙です。」
「弁慶・・・」
「もちろん、そう伝わっているだけで、正式な鑑定などはしていないわ。」
「でもね、この中には、この勾玉は義経公との信頼関係の証なのだと記されているわ。だから、義経公と弁慶と一対の勾玉を持っていたのかもしれないわね。それと、ここからが重要なのだけど、これが世に出してはいけないと言われる理由なのだと思うのだけど・・・」
 そこで一瞬言葉を切ると、君子さんは俺たちをしっかりと見つめ
「この勾玉は、伝説のヒヒイロカネで作られていると記されているのよ」
 ヒヒイロカネって確か竹内文書に出てくる伝説の金属だったな?
 確か、その性質は、ダイヤモンドよりも硬く、永久不滅で絶対に錆びないとか、ある噂では、三種の神器にもヒヒイロカネが使われていいるらしいとか・・・現代では、その原料も加工技術も失われており、まさに伝説の金属であると、昔何かで読んだことがあるな?
 俺がヒヒイロカネについて必死に思い出していると
「確かに、この勾玉凄く綺麗だけど、ヒヒイロカネってそんなに凄いの?」
 美幸さんが、不思議そうに俺に視線を送ってきた。
「えっと、ゲームとか小説なんかだと、伝説の金属や聖剣として〔オリハルコン)が出てくるけど、聞いた事ない?」
「うん、オリハルコンなら聞いた事あるよ!」
「それの、日本版みたいな?」
「それって、伝説じゃない!本当にあるとしたら凄いよ!!」
 そう、もしこれが本当だったら、もの凄い大発見になるんじゃ・・・
 想像以上の話に、俺と美幸さんが浮足だっていると
「だからこそ、慎重にならないといけない。歴史が変わってしまうかもしれないからね」
 と先生が冷静に話し始める。
「そうね、もし義経公の時代に伝説の金属が見つかっていて、それを周囲に知られていたら朝廷に献上しなければいけなかったでしょうし、門外不出にした理由は、恐らくそこにあるんじゃないかしら?
 あくまで、義経公と弁慶の二人だけの秘密だったのかもしれないわね。
 だから、外には絶対に出さなかったのだけど、同じ勾玉をもつ者が来たらその時は、渡してほしいと書いてあるのよ。私が生きている内に二つの勾玉がそろうなんて思ってもみなかった」
 そう言いながら、君子さんは感慨深げに遠い目をしていた。
 俺は、目の前の二つの勾玉を、何気に合わせてみる。
 そうすると、二つの勾玉が元から一つだったように、ピッタリとはまり綺麗な円形になった。そして中心に、何かの模様が浮かび上がってきた。
「何か模様が見えます・・・なんだろう?鳥みたいな?」
 そこにいた全員が俺の手元を覗き込んでくる。
「これは、足が三本あるね。八咫烏じゃないかな?」
「八咫烏って、サッカー日本代表のマークに使われている鳥ですね?」
「ああ、起源は古く日本神話に登場する鳥だよ。神武天皇を道案内したとされているね」
「じゃぁ、今回は財宝までの道案内をしてくれるんじゃないですか?」
 伝説の金属と伝説の生き物とで、伝説が大渋滞だ!つい目を輝かせて声を弾ませてしまった所で、俺一人興奮してるんじゃないかと気づき、急に恥ずかしくなって周りを見渡すと、同じく目を輝かせている美幸さんと目が合った。
 よかった、興奮してるの俺だけじゃなかった・・・
「では、この勾玉は翔馬に預けるわ。二つの勾玉が今揃った事には、きっと意味があると思うの。勾玉の謎が解けるのを、私も楽しみにしているわ」
 そう言った君子さんは、満面の笑みを浮かべていた。
「私にも、何か協力できる事があったら、協力させて!」
 美幸さんの力強い眼差しが俺たちに向けられる。
「わかったよ。しかし、危ない事は絶対になしだ!小鳥遊君もね」
 俺は頷きながら手の中の勾玉を眺めていた。
 850年以上も前の物とは思えないほど、色あせる事もなく輝き続ける勾玉は、俺に何かを伝えようとしているようだった。

 そろそろお暇しようと思って、立ち上がろうとした時、足の感覚が全くなくなり、めちゃめちゃ痺れていることに気づく。
 俺は、情けなくもその場で体制を崩し倒れるところだった。が、俺が倒れる寸前、先生の逞しい腕が俺を支えてくれていた。
「すみません・・・」
 色々恥ずかしくなり、視線を彷徨わせていると、何故か潤んだ瞳で見つめていた美幸さんと、ガッチリ視線がかみあった・・・


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