カエル問答
私がこっそりと夜中にどらやきを食べていると、急にカエルが言った。
「あなた、ぼくのことを怒らせないように気をつかっているでしょう。 言いたいことを我慢しているでしょう。 そんなことはお見通しなのです 。それはあなたにとってとっても良くないことなのです」と。
仕方ないので 私は どら焼きを食べるのをやめて、ええまあ、と答えた。
「だってあなた、私が何か言うとちょっと機嫌悪くするでしょう?いやな顔するでしょう?特に話をさえぎると」 と言うとカエルは嫌な顔をしたので(ほら)と私は思ったが、思っただけでなく声が出てしまった。「ほら」
すると意外にもカエルは嬉しそうにしてこう言った。
「そうです!その調子です!今みたいなツッコミですよ。 言いたいことは我慢しないで 言った方がいいんです 。ちょっと練習してみましょう。今からぼくと話す間 、怒るかな?と思ってしゃべるのをやめたりしないで何でも思ったことを言ってみるという 練習をしてみてください。 できるかどうかではなくて 練習なのでやってみるしかないのです」
えー、練習なんてめんどくさいな。だって今は至福の夜中のどらやきタイムなのに。私は思ったとおりを口にした。
カエルは嫌な顔したけれど 嫌な顔してもしゃべり続けろと言われたので 私はそのまま続けた。
「どうしてその至福の時間をじゃまするのよ」
「あなたのためです」
カエルは言った。
「あなたは至福と言いながらも、罪悪感を持ちながらこの夜中に甘くて高カロリーなどらやきを食べている。知っていますか?どらやきのカロリーを。どらやき一個のカロリーは標準で…」
「あー!言わないで!絶対言わないで!ほんとは知ってるから言わないで!」
カエルがそれでも言いかけたので私はどらやきをちぎってカエルの口につっこんだ。カエルがどらやきを食べるかどうか考えるヒマはなかった。
カエルはどらやきをあっというまに飲み込んで、カロリーを言うことはやめたが続きをしゃべりだした。
「いつもそんな風に思ったことをちゃんと言えばいいのです。そうすれば夜中にどらやきを食べなくても毎日が至福です」
カエルの言葉はしんとした真夜中の部屋に小さくおごそかに響いた。
「あなたはいつも出かかった言葉を出さずに飲みこんでいるから夜中にこんな風にどらやきを食べてしまうのです」
「いや、それは違うから。ただどらやきが好きなの。朝も昼も夜も食べたいの」
ふん、とカエルは鼻を鳴らした。でもこう言った。
「そうですね。このどらやき、おいしかったです」
でしょ?私は得意になって、もうちょっと、さっきより大きめにどらやきをちぎってカエルの前においた。
「ほら、これはね、あなたのゼリーみたいにすぐ売り切れてしまう どら焼き なのよ。 お茶も飲む?」
カエルが良いですねというので 私はお茶をいれに行った。
戻ってくるとカエルはもう どら焼き なんて食べていなくて 、いつものようにすました 顔だった。前においたどらやきはもうなかった。
私は小さな小さな器にいれてきたお茶を、そっとカエルの前においた。
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