心配でたまらないのに「帰ってくるのは困る!」と言われた娘
先週の火曜日、遅れた父の日のプレゼントを持って帰省した。
その時の記事はこちら⇩
いつもなら、少し長居して、手のまわらない家事をする。
デイケアへ通所する日がふえている母の帰りを待ち、一緒に料理をしたり、
作り置きを増やしたり……。
そうして、両親と3人で夕食を食べ、また自分の住まいへと帰る。
父との関係は変わらず微妙だが、これが定番になりつつあった。
春ごろからだろうか、母の様子に心配な面が見え隠れするように……。
ここにすべては書けないが、折り合いの悪い長兄が関与していた。
その心配ごとを直接母から聞くのは、娘の仕事。
それを次兄と病院の先生に伝えるか迷っていると、
義姉から連絡が来た。
「あなたが長居すると疲れると、お義母さんがおっしゃるから」
(は?)
さらにこう続いた。
「本当はわたしが言うのではなく、
お義母さんが直接あなたに言えるようになってもらわないと。
誰だって、自分の身は自分で守らないといけないから」
母は、双極性障害と、レビー小体型認知症と診断を受けている。
だから、たまに支離滅裂になることを見越しても……
なんとも納得いかない言葉だ。
長年の医療職経験があるからだろうか……。
自分の親にでもそういえるのか?
そんな風にしか思えなかった。
(はーーーー、そうですか)
そう言ってしまいそうな自分を必死に飲み込んで
「帰省するときは手短かに、用事だけ済ませて帰るようにします。
申し訳ありませんでした」
とだけ返信しておいた。
だから、遅れた父の日も、
電車での往復時間と変わらないくらいの滞在で済ませた。
デイケアから帰る母を迎え入れ、出かけていた父の顔を見て、
少しだけ話して、慌てて帰ろうとする。
「さっききたばかりなのに……」
と言われながら。
その日も、たしかに気になることがあった。
食事を作る気力が落ちていること。
足の筋肉が、思っていたよりも細くなっていたこと。
そろそろ、心身ともに調子を崩しそうな予兆……。
それでもわたしは、どこかで思っていた。
なんとか持ちこたえている。
まだ、大丈夫。
いや……そう思いたかっただけなのかもしれない。
数日前から、実家まわりの連絡が急にざわつき始めた。
わたしは、きょうだいのLINEグループを抜けている。
だから、抜粋したものを義姉がコピペして転送してくる。
誰かの文章を見るだけで、体の奥がざわつく。
怒りなのか、あきらめなのか、軽蔑なのか、自分でもよくわからない。
ただ、自分の心を削りながらそこに居続ける必要はないと思い、
自分の手術の前に「きょうだいLINE」から退会した。
家族は、きれいごとだけではできていない。
血がつながっているからといって、すべてを許せるわけでもない。
むしろ、血がつながっているからこそ、許せないことがある。
同じ家で育ったからこそ、見たくないものまで見えてしまうことがある。
昨日は、久しぶりに本当にしんどかった。
睡眠不足の限界と、無理やり詰め込んだ夕飯。
食べなきゃもたない!と思ったそれが、かえって具合を悪くした。
食べた直後に横になるのは避けている。
牛だか豚だか知らないけど、とにかく太る気がして。
怠惰な生き物に成り下がる気がして。
それでも、横にならないと耐えられなかった。
母の調子が悪い。
緊急で病院に行く。
場合によっては、入院になるかもしれない。
そう聞いただけで、体の奥がざわつく。
つい数時間前、父と少し話した。
折り合いの悪い父は、もうすぐ九十に手が届く年齢だ。
これまでの父は、過去のnoteに散々ひどい姿を綴ってきたが、
怒ることと威嚇することだけは得意な人だった。
怖くて。
言葉が強すぎて。
いちいち面倒くさいし。
自分の正しさを絶対に曲げない。
わたしはそんな父を見て、心底嫌だと思いながら育った。
だから、父の言葉にはいまだに身構える。
父に認められなかったことも、たぶんずっと心のどこかに残っている。
けれど今回は、少し違った。
父が弱々しくつぶやいたのだ。
「夜中にお母さんに何かあったとき、ひとりで助ける自信がない」
その言葉を聞いたとき……少しだけ息が止まった。
ああ。
この人が「できない」と言う日がくるなんて。
そう思った。
腹が立つ相手であり、
認めてほしかった相手でもあり、
母にいろいろ背負わせてきた人でもある。
その父が、はじめて
「自分には無理かもしれない」
と認めた。
わたしは父に、ひとつだけ確認した。
「今回の入院は、お父さんだけの意思じゃないよね?
お父さんが病院に入れようと思ってるわけじゃないよね?」
それだけは、聞いておきたかった。
母の意思がそこにあるのか。
母自身が、どう思っているのか。
父は言った。
「今回は、お母さんが自分で言った」
と。
家にいると、心配事が増える。
横になっても眠れない。
眠れないから、少し動こうとする。
でも、体がふわふわする。
雲の上を歩いているみたいで怖い。
もし転んで怪我をしたら、また家族に迷惑をかけてしまう。
だから、横になっているしかない。
母は、そんなふうに言っているらしい。
電話を代わってもらった。
「この前、なにか言い忘れたことなかった?」
そう聞いた。
こんなにきついんだよ、とか。
ちょっとしんどいんだよ、とか。
本当は言いたかったことはなかったのか?
わたしが、聞きそびれたことはなかったのか……。
母は言った。
「迷惑かけてごめんね」
「心配かけてごめんね」
そんなこと、言わなくていいのに。
わたしは離れて暮らしているから。できることは限られている。
だからこそ、何かできることがあるならしたいと思う。
買い物でも、話し相手でも、ただ顔を見に行くことでも。
でも、母の口から出てきたのは……
「助けて」ではなく「ごめん」だった。
それが、ものすごく悲しくて。
明日の公休日、やらなければいけないことは山ほどある。
クライアントワークの締め切り。
提出したい創作作品。
きょうちょの原稿。
東京でレッスンを控えている、歌の練習。
書きかけの本……。
それでも、明日、実家に帰ろうかと考えた。
母がデイケアから帰ってくる時間を狙って。
「明日、わたし帰ってこようか?」
そう聞いた。
「いるものがあるなら、買ってくるよ」
母は、すぐには答えられなかった。
何が必要なのか、母自身にもよくわからないようだった。
入院に必要なものなのか。
家を空けるあいだ、父が困らないためのものなのか。
食べ物なのか。
日用品なのか。
少しずつ聞いていくと、母はようやく言った。
「下着を新しくしたい」
パンツのサイズや形を聞いた。
すると母は、こんなことを言った。
「あんまりでっかいおばちゃんパンツは嫌よ」
思わず力が抜けた。
弱っている。
少し先だけど、入院が決まってしまった。
それまで家で過ごすことに、不安を感じている。
それでも
「あんまりでっかいおばちゃんパンツは嫌」
まだそこは譲らないんだ。
その言葉に、わたしは少し救われた。
全部はそろえられないかもしれない。
足りないものは、後から買い足せばいい。
それでも、買って持っていくという口実があれば、
少し動きやすい気がした。
ところが、母は言った。
「明日はデイにも行かないかもしれないから、
あなたが帰ってくるのはちょっと困る」
きついのだと。
少し、一人でゆっくりしたいのだと言う。
こんなに心配しているのに……。
一瞬、そう思った。
帰ってくることを拒否された娘。
そんなタイトルが浮かぶくらいには、少し傷ついた。
でも同時に、少しほっとした。
母が、自分のしんどさをちゃんと言えたから。
娘に気を遣って、無理に迎えようとしなかったから。
「来てくれたらうれしい」と言う代わりに、
今はしんどいと伝えてくれたから。
心配している側は、つい動きたくなる。
行った方がいいんじゃないか。
顔を見た方がいいんじゃないか。
わたしが行けば、少しは安心するんじゃないか。
けれど、弱っている人にとっては、
家族が来ることすら負担になることがある。
迎える準備。
話す気力。
心配されることへの申し訳なさ。
何かをしてもらうことへの気疲れ。
それら全部が、重くなる日がある。
母は、わたしを拒否したわけではない。
今の自分を守ったのだと思う。
だから明日は、わたしは帰らない。
やるべきことをやる。
入院前に、一度帰れたらいい。
母が必要だと言った下着も、そのときに見繕えばいい。
あんまりでっかいおばちゃんパンツは嫌らしいから、
そこはちゃんと気をつけよう。
家族のことは、いつもきれいには書けない。
心配もある。
怒りもある。
許せないこともある。
情けなさもある。
それでも今日、母の声を聞いてよかったと思っている。
そしてわたしは「明日は帰らない」という形で、
母の希望をひとつ叶えることにした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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