純文学|情愛と呼んでほしい。
あれは恋愛ではなかった。
そう気づくのに、2年半必要だった。
初めて、
彼の歳の離れた子どもを見た時、
ショックと同時に、
まだ仲がいいんだ。
そうはっきり認識した。
派遣で入った職場で出会った彼。
初めから何かを感じた。
でもその時彼は、
社内の女性と、
そういう関係だった。
不倫なんて、と思っていた。
彼女に嫌悪感を抱いていた。
自分が彼女に、
敵意を向けられるまでは。
彼女は確信には触れず、
ただ親切だった。
やましいのは、私だけだった。
のちに彼から聞かされた。
彼女とはちゃんと別れたよって。
時期が重なっていた。
背徳感にまみれた関係は、
中毒性が強すぎて、
私は終始クラクラしていた。
完全に毒されてしまった。
彼との約束。
奥さんを愛してる。
それは変わらない、ごめん。
でも〇〇ちゃんのことも、
愛してるよ。
残酷な愛の言葉でさえも、
私を狂わせた。
体だけの関係のはずが、
互いに毒されていった。
転勤しても、何か理由をつけて、
毎週私のもとに帰ってきた。
旅行にも行った。
私は奥様と呼ばれて、
すっかり酔ってしまっていた。
彼は私のもの。
その勘違いから目が覚めるのに、
2年半もかかってしまった。
はっきりとした目覚めではなかった。
眠くて、
まだ彼に包まれていたいような、
そんな寝起きだった。
それでも私は、
好きな人ができたわけでもなく、
ただ何となく、そろそろかなと、思った。
ふいに連絡を絶った。
彼への仕返しのつもりで。
拍子抜けするほど、
彼は引き止めなかった。
彼から去ったあと、
私は5年も彼氏ができなかった。
誰に触れられても、
安全すぎて退屈だった。
普通の男に触れるたび、
思い出す。
あの夜の体温を。
奥様と呼ばれた声を。
冷たいシーツの中で、
自分が溶けていくみたいだった。
私はずっと、
愛されていたかったんじゃない。
壊れていたかったのかもしれない。
これは恋愛ではなかった。
情愛と呼んでほしい。
▶︎ 愛の見え方が歪んでいた頃
OSの断片|愛のなかに見えていた
▶︎ それでも誰かと生きる話
あなたの不完全さの隣にいる。
▶︎ はじめて来てくれた方へ
全部、繋がっている。
