先生、元気でね。
このコンテストを見たとき、真っ先に浮かんだのは、この日のことでした。
四月生まれのそうちゃんは、
一歳児クラスで一番お兄さんだった。
話し始めるのも早い。
何でもよくできた。
先生たちは自然と、
「そうちゃんだから大丈夫。」
と言っていた。
発表会の日。
手遊びが始まる直前、
そうちゃんは私の後ろに回った。
小さな手で、服をぎゅっとつかむ。
「そうちゃん。」
声をかけても、首を横に振る。
音楽が流れても、離さなかった。
私はその小さな手を握った。
一年が過ぎ、私は園を離れることになった。
子どもたちには何も伝えていない。
そうちゃんも、きっと知らない。
そうちゃんは、
私に一番懐いている子ではない。
私は、ずっとそう思っていた。
だから、そのまま帰るはずだった。
園庭の向こうから、
小さな足音が聞こえるまでは。
振り返ると、そうちゃんが走ってきた。
息を切らしながら私の前で止まる。
「先生、今日で終わりなんでしょ。」
そう言うと、私をぎゅっと抱きしめた。
「元気でね。」
それだけ伝えると、
何事もなかったように園庭へ戻っていった。
私は、その後ろ姿を見送った。
一年後。
保育実習で母園へ戻った。
教室の隅で遊んでいた
そうちゃんを見つけて声をかける。
「覚えてる?中田先生だよ。」
そうちゃんは少し首をかしげた。
「忘れちゃったかな。」
私は笑って、他の子どものところへ向かった。
その時だった。
小さな手が、私の手を引いた。
振り返ると、そうちゃんがいた。
私を自分の遊んでいる場所まで連れていく。
去年は高く積むだけだったブロックを、
今は何かの形にしようとしていた。
「これはね。」
そうちゃんは夢中でブロックを並べていた。
私は、その横にしゃがんだ。
※オカムラ×note投稿コンテスト「#子どもの成長を感じるとき」の応募作品です。
この話のあとに、私がずっと書き続けていることです。
