短編エッセイ|私は、彼女の何を知っていたんだろう
地元の幼馴染だった。
お互い大人になって、
私は都会へ出て、
彼女は結婚して母になった。
それでも縁は切れなかった。
里帰り出産で
地元へ戻ってきた時も、
私はよく彼女の家に遊びに行った。
彼女のお母さんも、
とてもよくしてくれた。
その後、
また都会で再会した。
彼女は、
昔と変わらず優しかった。
家はいつも綺麗だった。
子どもがいるのに、
生活感がない。
家政科出身の彼女。
テーブルには、
手の込んだ料理が何品も並んで、
どれもほんとに美味しい。
デザートまで手作り。
私はそれを、
彼女の日常なんだと思っていた。
「食べていきなよ」
その言葉に甘えて、
私は何度もご馳走になった。
旦那さんにも仕事の相談をした。
子どもたちも懐いてくれて、
私はもう、
親戚みたいな
距離感のつもりだった。
彼女は、
いつも私の話を聞いてくれた。
仕事のこと。
恋愛のこと。
将来の不安。
私はよく喋った。
今思うと、
図々しいほど、
自分の話ばかりしていた。
でも、
彼女の話を聞いた記憶がない。
もちろん、
会話はしていた。
旦那さんのこと、
子どものこと、
日常の話も聞いていたはずだ。
でも、
彼女自身の話を、
私は何か知っていただろうか。
何に疲れて、
何を我慢して、
本当は何を飲み込んでいたんだろう。
私は知らない。
ある日、
偶然彼女のブログを見つけた。
軽い気持ちで開いた。
そこには、
優しくすることに疲れる時がある、
みたいなことが書いてあった。
親切にしたい気持ちはある。
でも、
本当のことを言えない。
距離が近すぎる人が苦手。
断れない自分にも疲れる。
そんなようなことが、
置かれるように書かれていた。
名前はなかった。
でも、
私のことだと思った。
その時初めて知った。
彼女は、
片づけが得意な人じゃなかったらしい。
私が来るたび、
頑張って掃除していたこと。
料理は好きだったけど、
それ以外の家事は苦手だったこと。
私は何も気づかなかった。
何も知らなかった。
綺麗な部屋も、
並んだ料理も、
全部、彼女の“普通”だと思っていた。
いつも彼女は、
駅まで迎えに来てくれていた。
私はそれを、
当たり前みたいに待っていた。
今はもう、
あの駅の改札を出るのが
少し怖い。
私はどこまで
入ってしまっていたんだろう。
親密だと思っていた。
でもそれは、
彼女が頑張って作ってくれていた
距離感だったのかもしれない。
私は、
それを当たり前みたいに
受け取っていた。
それから、
連絡ができなくなった。
地元で偶然会うことはある。
彼女は今でも優しい。
「また戻ったら連絡するね」
そう言ってくれる。
でも、
連絡が来たことはない。
もっと、
彼女の話を聞けばよかった。
聞いてほしいことが、
本当はたくさんあったのかもしれない。
でも、
もうわからない。
私は結局、
彼女の何を知っていたんだろう。
▶︎ 別々だったはずの話が、最後に同じ場所へ戻っていった。
全部、繋がっている。
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