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Daft PunkのThomas Bangalterが帰ってきた夜 - Fred again..のコンサートツアー"USB002"最終日のフル映像が公開

「80歳の自分が、ケアホームで看護師に「もう一回再生して」と頼んでいる」Fred again..が、今回紹介する映像のYouTube概要欄に書いた夢の話です。原文はこう。

"I was 80, sat in a like a care home, and I kept saying to the nurses 'jus play it again pls'"

Fred again.. & Thomas Bangalter (USB002, Alexandra Palace, London 27 February 2026)

2021年に世界ずつ惜しまれつつ解散したDaft Punkの片割れ、Thomas Bangalterが、Fred again..のライブにサプライズ登場した夜の全記録、約2時間。

「One More Time」が2回鳴り、Thomasの息子がステージ脇で父の全曲を歌い、Fredが「人生でいちばん穏やかだった」と振り返る冒頭3分間がある。音楽を愛するすべての人に観てほしい映像だなと思いました。

それでは早速、紹介していきます。


この映像について

2026年2月27日、ロンドンのAlexandra Palace。
Fred again..によるUSB002ツアーの4夜レジデンシー、その最終夜の記録です。全公演ソールドアウト。各夜ごとに異なるゲストが登場し、Nia Archives、Underworld、D Double E、The StreetsのMike Skinnerなど錚々たる名前が並んだこのレジデンシーの、最後の最後に現れたのがThomas Bangalterでした。

元Daft Punk。16年以上ぶりのロンドンでのDJセット。

Fredは事前にInstagramでこう告げています。「この4夜を締めくくる唯一の方法」だと。二人は一週間ロンドンのスタジオにこもり、このワンオフのb2bセットを準備したそうです。その映像が3月28日、YouTubeでプレミア公開されたというわけです。

なお、USB002はアルバムとしてもリリースされています。このセットの文脈を掴むには、アルバムを聴いておくと理解が深まるはずです。



私がFred again..のライブで見たもの

実は去年、私自身もFred again..のライブに2回足を運ぶことができました。フジロックフェスティバルと、USB002ツアーのフランス公演です。

言葉も文化も違う場所で、音だけが全員を同じ感情に揃える。あの体験は、「一体感」なんて一言では済まないものでした。

Fred again..のライブの空間演出はミニマルで有機的です。Boris Acketによる巨大な布のインスタレーションが観客の頭上でうねり、音と光と人の熱が同期していく(USB002ツアーの空間演出についてはSet Design Magazineの記事が詳しい)。派手なステージセットに頼らず、あくまで音楽と観客の関係性で場を作る。まさに「全員で音楽を浴びている」ような空間。


彼自身、Billboardのインタビュー「自分の精神を守ること。毎日気持ちよく音楽を作れる状態を維持すること。すべてはそこに集約される」と語っています。USB002のライブはその哲学の延長線上にあるものだと感じます。

あの体験を身体で知っているからこそ、この映像に映っているものの意味がわかる気がします。画面越しでも伝わる空気の密度。観客が歌っている声の質感。それは「撮影された記録」ではなく、あの場にいた全員の体験そのものです。

(フランス遠征の話はこちらに詳しく書きました:Fred again..(推し)を追いかけ欧州へ。また、彼のライブの原点に触れるなら、2022年のBoiler Roomでのセットも必見です。)



Daft Punk、そしてThomas Bangalterという存在

この映像の意味を理解するには、Daft Punkのことを少し丁寧に振り返っておく必要があります。

Thomas BangalterGuy-Manuel de Homem-Christoがパリで結成したDaft Punk。1997年のデビューアルバム『Homework』で「Da Funk」「Around the World」を世に放ち、2001年の『Discovery』では「One More Time」「Harder, Better, Faster, Stronger」「Digital Love」といった楽曲でエレクトロニック・ミュージックの歴史を塗り替えました。


ロボットのヘルメットをかぶり、素顔を隠し、音楽だけで語る。その姿勢はAvicii、Skrillex、Disclosure、Porter Robinsonなど、後のシーンを牽引するアーティストたちに決定的な影響を与えたとされています


2007年には伝説的なAlive 2007ツアーを敢行。ピラミッド型のステージから放たれるライブは、エレクトロニックミュージックにおけるライブ体験の基準を書き換えたと言われています。

2013年の『Random Access Memories』ではグラミー賞5部門を受賞。「Get Lucky」は誰もが一度は耳にしたはずです。

そのDaft Punkが2021年2月、「Epilogue」と題された約8分間の映像で解散を発表しました。

その後、Thomas Bangalterはヘルメットを脱ぎました。文字通り。バレエ音楽『Mythologies』(2023年)を作曲し、映画のサウンドトラックに取り組んだ。2025年にはフランスの人気ラッパーOrelsanのアルバムに楽曲「Yoroï」で参加し、2026年にはパリ・ポンヌフ橋でのアートインスタレーションの音楽制作も予定されています。エレクトロニック・ミュージックのアイコンとはまったく異なる道。クラブやDJブースからの、静かな離脱でした。

転機は2025年10月。パリのポンピドゥーセンターで開かれたBecause Music設立20周年のイベント。改修のため長期閉館を控えた最後の催しで、Bangalterは約16年ぶりのDJセットを披露します。

24年ぶりにマスクなしでDJブースに立ち、そこにFred again..もいたのでした。Bangalter自身が「この建物で初めてエレクトロニック・ミュージックに恋をしたのは1992年だった」と語ったその場所で、二人の接点が生まれます。そこから4ヶ月後のAlexandra Palaceへ。

この映像のセットが「Sarabande × Mythologies: X. L'Accouchement」つまりBangalter自身のバレエ音楽から始まる事実は、偶然ではないでしょう。Daft Punk解散後の5年間で彼が歩んだ道のりが、最初の3分間に凝縮されています。



映像で追体験する: セットのハイライト

約2時間のセット全体を語るのは無理があるので、ここでは映像を観る際の「入口」になりそうな場面をいくつか紹介します。FredがYouTubeのコメント欄にトラックリストとともに書き残したコメント(以下、引用はすべてこのコメントから)が、ちょっとした副音声のような役割を果たしているので、あわせて参照すると体験が深まります。


冒頭3分間の静けさ(0:01〜)

バレエ音楽「Sarabande」から始まり、「Loaded」「My House」へとゆっくり溶けていくオープニング。Fredはこの瞬間についてこう書いています。

"i've never felt calmer in my life, knowing that what was about to happen was…." (人生でこれほど穏やかだったことはない。これから何が起こるか、わかっていたから—)

これから何が起こるか知っていたからこその静けさ。映像にはAlexandra Palaceの巨大な空間と、まだ何も知らない観客の姿が映っています。嵐の前の凪。


「One More Time」の爆発(3:16〜)

そしてあのイントロが鳴る。「One More Time × we've lost dancing × Ain't no Mountain High Enough」。2001年の『Discovery』収録、Daft Punkの最も有名な曲のひとつが、セットの冒頭近くで惜しみなく投入されます。この映像で最初に鳥肌が立つ瞬間は、おそらくここです。そして後で気づくのですが、「One More Time」はセットの最後(1:46:06〜)にもう一度鳴ります。文字通り、one more time。


Technologicの3連発 (20:00〜)

Fred曰く、

"We made about 20 versions of technologic mashed up wit different things"—Technologicを別の曲とマッシュアップしたバージョンを20種類作った

そうです。そのうち3つが立て続けに投入される場面。
20種類の準備と、その場で3つを選んだ判断。ライブの即興性と入念な準備が同居している瞬間。


「Touch」から「Giorgio by Moroder」へ (45:25〜)

Daft Punkのアルバム『Random Access Memories』から2曲が続きます。Fredは「Touch」について、

"this is OUR daft punk record I think ❤"——「これが"私たちの"Daft Punk曲だと思う」

と書いています。
そこから「Giorgio by Moroder」へ。ディスコの始祖に捧げられた曲を、その系譜の先端にいる二人が一緒にかける。音楽の歴史がひとつの夜に折り重なる瞬間。


Thomasの息子の歌声(1:34:00〜)

個人的に、この映像でいちばん心を動かされた場面です。

Thomasの息子が12歳のときに作った曲「Never the End」。それにThomasが「Can't Do Without You」を重ねる。Fredはこう書いています。

"This was maybe the most beautiful thing ive ever seen happen. Thats Thomas's son singing in a song he made when he was 12, blended with Thomas playing (saying?) i cant do without u"

背景を補足すると、Daft Punkが最後にライブを行ったAlive 2007ツアーの年、彼の息子はまだ1歳でした。それが今、父親のすべての曲を歌える年齢になっている。
50:20付近では、その息子がステージ脇で全曲を口ずさんでいる姿にFredが「言葉にできない喜びを感じた」と書き残しています。



ドラムマシンとDJセットの境界

ひとつ特筆しておきたい点があります。39:00付近のFredのコメントです。

"The drum machine was synced to the decks so for the whole set Thomas was making these mad sounds in the moment on it"

つまりこれは、二台のターンテーブルの間で曲をつなぐだけのDJセットではない。Bangalterはドラムマシンを使い、その場で音を加え続けていた。DJセットと即興演奏の境界が溶けているわけです。

映像のカメラワークもこの「境界のなさ」を捉えています。DJブースの手元と観客の表情を行き来しながら、「演奏する側」と「受け取る側」の境界も曖昧にしていく。

9人の撮影クルーによって収められたこの映像は、ライブの「記録」を超えて、ひとつの独立した映像作品になっています。



おわりに

Fredは概要欄でこう書いています。

"I usually have a rule that I don't watch anything back (...) like I've still never watched our Glastonbury set. Or most things tbh, but yeah with this, I justtttt. Can't. Stop."
普段は自分のライブ映像を観返さない。Glastonburyのセットもまだ観ていない。でもこれだけは止められない。

"just a fan more proud of a sort of human moment than anything else"——ただ一人のファンとして、ひとつの「人間的な瞬間」を誇りに思えるのだと。


Daft Punkが最後にライブをした2007年から19年。Thomasの息子が1歳から父親の全曲を歌える年齢に育つまでの時間。Fred again..がベッドルームからAlexandra Palaceのヘッドライナーになるまでの時間。この映像には、その全部が圧縮されています。

みなさんはこの映像のどの瞬間に心が動くでしょうか?
ぜひ再生ボタンを押してみてください。


出典・関連リンク

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報道・レビュー

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