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連載【ぬくもり(1)】なんとなく生きてる青年が出会った~!︎ペットボトルのキャップ🌟ナンセンスコメディ︎🌟ショートショート︎🌟不思議な物語︎🌟

【ぬくもり(1)】



帰り道、生田川は足元に転がっているペットボトルのキャップを蹴った。

とくに理由はなかった。アスファルトの上に落ちていて、スニーカーの先に当たったから蹴った。
それだけの話だ。

一直線に進んでいくキャップを目で追って、さらに、カツン!
思ったより軽い音がして、キャップはまた数メートル先へ滑っていった。生田川はまた蹴った。

カッツン。
また滑っていく。信号待ちで一度見失ったが、青に変わって歩き出せば、また足元にめぐってきた。

こうした一つひとつの動作に、なんの深い意味もない。
ただ、そんな調子で、家まで蹴り続けた。
かばんから鍵を出して、生田川自身がホイっと家のなかに入るころには、キャップの存在がどうなったかなんて、生田川の意識の外だった。

いつものようにドアの鍵を閉め、靴を脱ぎ、冷蔵庫を開けて、麦茶のペットボトルを直飲みで、乾いた喉へと流し込んだ。

キャップのことは忘れた。
床に座ってスマホをいじり、レトルトカレーを食べ、歯を磨かずに寝た。いつものことだった。
最初は、耳鳴りかと思った。

翌日の夜、生田川がソファに転がってスマホを見ていると、どこからともなく小さな音がした。
高くもなく低くもなく、ただそこにあるような音だった。テレビを消して聞いてみたが、よくわからなかった。疲れているせいかと思って、そのまま寝た。

次の夜にも、聞こえた。
今度は、昨夜の音とは少し違った。音というより、声に近かった。何か言っているようだったが、内容がわからなかった。

生田川は部屋を見回した。窓は閉まっていた。隣の声にしては方向が違った。スマホをいじる手を止めて、じっと耳をそばだてた。

聞こえるような、聞こえないような。
気のせいかもしれなかった。
3日目の夜、はっきり聞こえた。
「・・・あっついな」

生田川は飛び起きた。
部屋を見回した。誰もいなかった。
窓も閉まっていたし、鍵もかかっていた。

生田川はしばらく立ったまま、部屋の隅々を見た。
何もなかった。ペットボトルと読みかけの本、カップ麺、脱ぎ捨てられた服など、いつもの雑然とした部屋だった。
また横になった。
しばらくして、また聞こえた。

「腹減ったよな、ったく・・・」
どうやら声は床の方から来てるんじゃ?
生田川は這うようにしてベッド下を覗きこんだりした。しかし、何もそれらしきものはなく、今度は恐る恐る玄関の方へと向かった。
そこには、青いペットボトルのキャップが一個あった。

あ、昨日、蹴ってたやつ。
生田川はそれを拾い上げた。
ただのキャップだった。道路に擦られて何のドリンクだか、わからなくなっているが、ただのキャップだった。

生田川は自分の手の中のキャップを見た。
それから部屋を見た。
それからまたキャップを見た。

ヤバい、と思った。
本格的にヤバいやつかもしれない、と思った。
仕事のストレスか?
ついに幻聴が出始めたのかもしれない、と思った。

こういうのは、放置していたら、ますます病識がなくなっていくらしいから、早めに病院に行った方がいい。そういう知識を、じつは生田川は持っている。
彼の元職場で、本当にこじれた同僚がいたことを思い出したりしていた。

キャップを床に置いた。
少し離れたところに座って、じっと見た。何も起きなかった。ただのキャップだった。

生田川は息を吐いた。そうだ、気のせいだ。疲れているだけだ。
「腹減ったって言っただろが!」
キャップが、切れていた。
「Are you hungry?」
生田川は、自分でもわからないが、動転して英語で声をかけてしまった。
ふつうの日本語では太刀打ちできない、とでもいうような特異な感覚があった。
「そりゃ、そうだろ、アイム、ハングリーじゃ!」
 

*(2)へ つづく *

お読みいただき、ありがとうございます。


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