連載【ぬくもり(2)】心を病んだかと思った青年が出会った~ペットボトルのキャップ❣️シュールなやり取り全開🌟ナンセンスコメディ︎🌟じんわり人生が変わる物語☕
【ぬくもり(2)】
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生田川は、しばらく動けなかった。
それから、ペットボトルのキャップを見て、おそるおそる口を開いた。
「・・・お前、いま、しゃべったのか」
「そう、他に誰がいるんだよ?」
生田川は、自分が正気でいるのか、不安になった。
「他に、誰がいんのっ!」
キャップは、語気を荒らげた。
生田川は、真面目に部屋を見回した。もちろん、キャップの他に誰もいなかった。
「すまない。イライラしてるんだ、腹減ってて」
「あの、ペットボトルのキャップですよね? どこがお腹で、何をどこから食べたら、空腹が収まるんです?」
くくく、とキャップは笑っていた。
「そりゃ、わからなくて当然だよな。うん、じゃまず、ジュース、なんでもいいから持ってきて。で、このキャップを付けてくれたらいいよ。種類は、なんでもいい。でも、できれば、人工甘味料入りの香りがいいやつ」
生田川はそれを聞いて、慌てて食品庫を開けた。コーラやポカリが並んでいる。とにかくキャップを開けて、しゃべる青いキャップに付け替えてみた。
思いがけず、赤いコーラに、青いキャップが付けられることになった。
会期もとっくに終了して、いまさらだが、関西万博のミャクミャクみたいだ、と生田川は思った。
「あーっ、あーっ、うまいなー」
と気持ちよさそうな声を出すキャップに、生田川は返した。
「ペットボトルのキャップが、自分の守ってるはずのドリンクを飲んでいいんですか? こんな事実、知らなかったです」
「飲んでなどいないわ。失礼な!
質量を変えることは決してないんだ。空気を吸ってるのだ。」
「あはは、空気を吸ってるのだ!ですかー! なんかバカボンのパパみたいですね」
「おお、なかなかセンスの良い返しをするね!」
少しご機嫌になってきたキャップに、生田川もほっとして会話を続けていた。
「ドリンクの種類は何でもいいって言ったから、コーラにしたけど、本当は何が良かった? っていうか、元々なんの飲み物だったんすか?」
青いキャップは、ツーピースキャップと言って、二重構造。白いワンピースキャップに比べると、ちょっと頑丈に作られている。だから、主に強炭酸などに割り当てられる。
そんなウンチクを、つらつらと機嫌よく並べている。
生田川は、はぁ、と気の抜けた返事をする以外なかった。
「あー、ええ気分や。この空気、たまらん」
ときに関西弁を話すキャップが妙に新鮮で、生田川はすかさずそこに突っ込んだ。
「なんで、急に関西弁に?」
「ああ、これ、生まれなんだよ。普通には標準語だけど、生まれはたぶん関西工場なんだな。まぁ、その後は関東の倉庫なんだが」
「ペットボトル飲料は、全国で味は共通してるものなの?」
と生田川は素朴な疑問を投げかけた。
「そうだな。いい質問だ。ラーメンなどは、関東と関西との味の境界線があると言われている」
ふっふっと薄く笑いながら、心地よさそうにウンチクを披露し続けるキャップ。
生田川は、ハッとした。
じつに、普通の会話を交わしている。
これが、精神の何らかの異常、例えば幻聴なのだとすれば、こんなに拍子抜けするような会話でいいものか?
幻聴というのは、もっと重厚で異世界的な意味あるものだと生田川は思い込んでいた。それは、症状自体が、深層心理からのメッセージだとか、抑圧された感情の裏返しだとか、そういう密度の濃い概念ではないのか?
生田川は、いぶかしく思った。
こんなに他愛のない幻聴なんて、本当にあっていいものか?
「あっ!」
生田川は閃いた。
「キャップ! お前、ひょっとしてAIか何かなのか? 小型のスマートスピーカーとか? 頼む。本当のことを教えてくれないか」
生田川は閃きの勢いのまま、聞いてみた。こういう可能性も、ゼロではない、と生田川は思った。
「ちがーう!」
小坊主の生悟りを喝破する僧侶のように、キッパリとした大声を出した。
「じゃあ、一体何なんだって言うんだ!」
「アイ、アーム、ア、キャップ。ア ボットォ、ケャァッープ。ふっふっふ、どう発音は?」
うっ、と生田川は、喉が詰まった。
キャップの物言いに苛立ってもいた。
「お前こそ、何だ? キャップを蹴りまくって、下に見てるだろ、キャップごときに脳もなければ、精神もない、空腹を覚えることもない。そう、思い込んでなかったか?
人に名前を言えと言うなら、お前こそちゃんと名を名乗ればどうだ?」
「い、生田川・・・です」
「おう、イクやんか。俺の名はブルー。よろしくな」
クールを装ったキャップの口調に、生田川はプッと噴き出した。
*(3)へ つづく *
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