【小説】「君と見上げた、夏空のその先へ」第10章「感動の告白」
第10章「感動の告白」
三月の終わり。
町を流れる川沿いの桜並木は、淡い桃色に染まり始めていた。
一年前。
この桜の下で、悠真は美咲と初めて出会った。
あの日は風に舞う花びらを追いかけるだけだった。
けれど今は、その一枚一枚に思い出が重なって見える。
春休み。
青葉高校野球部は、新年度へ向けた強化練習の真っ最中だった。
「ラスト十本!」
監督の声がグラウンドに響く。
倒れたあとも懸命にリハビリを続け、黒田監督は再びグラウンドへ戻ってきていた。
以前より少し痩せた姿だったが、その目には変わらない情熱が宿っていた。
「キャプテン!」
「はい!」
「いい顔になったな。」
悠真は少し照れながら笑う。
「仲間のおかげです。」
監督は静かにうなずいた。
「それがお前の一番の強さだ。」
その日の夕方。
一本のメッセージが届く。
『明日、あの河川敷で会えますか? 美咲』
悠真は画面を見つめたまま、思わず笑みをこぼした。
「来た……。」
待ち続けた約束の日。
胸が高鳴る。
眠れない夜になった。

翌日。
桜は満開だった。
柔らかな春風が花びらを舞い上げる。
河川敷には、一年前と変わらない景色が広がっていた。
先に来ていた美咲は、桜を見上げながら立っていた。
以前より少し大人びた表情。
けれど、振り向いた瞬間の笑顔は、あの日のままだった。
「久しぶり。」
「うん。」
ほんの数歩の距離。
それが一年にも感じられた。
「お母さんは?」
悠真が尋ねる。
美咲は空を見上げて微笑む。
「少しずつ回復してる。」
その言葉に、悠真は胸をなで下ろした。
「よかった。」
「まだ通院は続くけどね。」
「それでも、本当に良かった。」
二人はしばらく桜を眺めていた。
風が吹く。
花びらが二人の肩へ舞い降りる。
美咲がゆっくり口を開いた。
「覚えてる?」
「何を?」
「約束。」
悠真は静かにうなずく。
「もちろん。」
「春になったら、返事をするって。」
「うん。」
美咲は深く息を吸う。
少し震えている。
それでも、まっすぐ悠真を見つめた。
「高橋くん。」
「私は……。」
瞳に涙が浮かぶ。
「あなたが好き。」
その一言に、一年間の想いがすべて込められていた。
「つらいときも。」
「泣きたいときも。」
「一番会いたかったのは、高橋くんだった。」
涙がこぼれる。
悠真も笑いながら涙をぬぐった。
「僕も。」
「ずっと好きだった。」
「これからも、ずっと。」
二人はゆっくりと手をつないだ。
温かい。
離れていた時間を埋めるように、そのぬくもりを確かめ合う。
「付き合ってください。」
悠真が照れくさそうに言う。
美咲は涙を流しながら笑った。
「はい。」
その返事と同時に、桜吹雪が二人を包み込んだ。
まるで春そのものが祝福してくれているようだった。
少し離れた土手の上。
健太と蓮が並んで座っていた。
「うまくいったな。」
健太が笑う。
蓮も穏やかに微笑んだ。
「ああ。」
「ちょっと悔しいけど。」
「でも、それ以上にうれしい。」
健太は蓮の肩を軽く叩く。
「お前、本当にいいやつだな。」
蓮は照れくさそうに笑い、満開の桜を見上げた。
「青春だな。」
夕暮れ。
二人は手をつないだまま、川沿いをゆっくり歩く。
「今年の夏。」
悠真が言う。
「絶対に甲子園へ行く。」
美咲は力強くうなずく。
「スタンドで一番大きな声で応援する。」
「約束。」
「約束。」
二人の小指が、春風の中で静かに結ばれた。
しかし、青春は恋が叶って終わりではない。
高校生活は残り一年。
甲子園という大きな夢。
卒業という別れの日。
そして、それぞれの未来。
二人には、まだ乗り越えるべき時間が待っていた。
桜の花びらが空へ舞い上がる。
その先には、涙よりも温かい未来が広がっていると信じながら——。

