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神のデス・ギフト 第11話「神との決戦」—東京篇完結へ—神の決める人生だけでいいのか!初めて抗ったあの日

「風が止まった。神が次の獲物を選ぶ音が、まだ耳の奥に残っていた。」

大家からの即退去の紙を見て俺は固まっていた。
凍っていた発酵の酵母がプツプツを音を立てているのがわかった。

俺は急ぎ部屋へ入った。
駆け込んだ。

眠いし疲れているが、それが俺を狂わせるのには合っていた。
冷静だった。

問題を整理した。
・彼女の妊娠
・新しい会社のスタート前
・アパートの倒壊

一瞬で理解した。
俺が悪くないと100%言える項目はアパートの倒壊だ。

しかも大家が悪いような気がする。

10日しか時間がない俺は、ブチ切れることにした。
正しく切れることを選んだのだ。

俺は部屋のボロパソコンを起動しWordを開いて2秒で読める文章を書いた。

『大家の張り紙見ましたか?明日日曜日に住民集会をしましょう。10時に駅前ルノアールで。301号室俺』

俺は笑った。神がまたペンを動かしている音がした。
俺「神よ、飽きねぇな。俺の人生で遊ぶの、そんなに楽しいか?」

全ての部屋の分の10枚を印刷し、玄関の扉に挟んだ。

ここまで、紙を見て15分だった。


大天使ラファエル:住民集会と大家との戦い

翌朝、俺は最初にルノアールに着くべく9時に家を出た。

俺「時間がない。何人来るか?集まった人だけでも話し、闘おう」

心「くそっ、俺はリーダー肌じゃなく、社畜の発酵物なのに」

世界中のレジスタンスのリーダーはやりたくてやっているわけではないのを身を持って痛感した。
立ち上がるしかないのだ。

俺はルノアールの10人入ることができる個室を抑え、LLのアイスコーヒーを頼んで待った。

10時になった。

なんと、全ての部屋の代表が集まったのだ!
—老人、サラリーマン、主婦、学生、無職。全員が「被害者」で、同時に「人生の傍観者」。
俺も多分、同じ種類の被害者。神の気まぐれに巻き込まれた会社員型人間。

挨拶をして、連絡先を交換する。
そして、俺はこの会の趣旨を改めて説明した。

紙が貼ってあった時の事、このアパートの思い出、これからの事。
お互いに順番に話、共有した。

そして、引越し全体にかかるお金も50万円から70万円はかかるという現実。
このアパートの住民で払えそうな人は誰一人いなかった。

俺は皆の思いをノートに書きまくった。メモりまくった。
この思いを大家にぶつけてやる。
ぶつけてどうだということはないだろうが、泣き寝入りはしたくないと強く思っていた。

相手は神じゃない、人間だ。

そしてわかったことに屋上塔屋が崩れた理由は、「建設時の欠陥工事と捏造」だったらしい。
壊れた当時、現場にいた人が人が聞いていたのだ。
確かに天井が低く手が届いたり、斜めになっている床。
理解できた。

心「闘ええる」

俺「明日、とにかく大家を探して歩き回ります。ありがとうございました!」

2時間の長時間の熱の入った10人の酵母を集め、俺は完全に熟成された。

住民の熱い思いをノートの綴り闘う気持ちを引き締めた俺

決戦へ向け…大家探し

皆午後は用事があるということでルノアールで丁重に挨拶し別れた。
俺は早速名前も連絡先もわからない大家を探すことにした。

俺「今日中に見つける」

まず俺は、自分がこのアパートに入居する時の不動産屋に向かった。
小さい地元のおじいちゃんがやっている不動産屋だ。

心「チェーン店より、こういう小さな都会の不動産屋が一番怖い」

俺は、心を引き締め直して店に入った。

色々話したが、面倒なことがわかった。
要点を話すと、
この不動産屋の物件ではない、友達の不動産屋の物件だった。
俺が契約した時は、この不動産屋が友達の不動産屋に回しただけだったようだ。

心「そんな事できんのかよ!?」

不動産「話しておくよ」

俺「直接行きたいんです。教えてください」

不動産「ダメだよ。俺言っとくよ。」

これでは10日過ぎてしまう。
こいつも大家の仲間か?

俺「まずは一回、電話俺の前でかけてくださいよ!」

俺にはふと社畜時代に培った能力が使えると思った。

不動産屋「わかったよ。つながらないよ多分ね」

ピポピポポポピ

不動産屋「やっぱりつながりません」

俺「わかりました。帰ります。失礼します」

俺は店を出た。
もうこの不動産屋は来ることはない。
用がなくなった。

建物の外に出た瞬間、風が止まっていた。
都会の騒音の中に、“神の無音”がある。

俺は小さく笑った。

俺「ここの勝負は俺の勝ちだな」

俺は実は先ほど不動産屋が電話をかけている時に、一瞬で電話番号を記憶したのだ。

次はコンビニだ。
今の地区のできるだけ詳しい地図を買う。細かく載っている物だ。
次に思いつく近くからの不動産屋に丸をつけていく。
最後は、NTTの電話番号を聞くサービス104(2025現在は無い)で丸を付けた不動産屋の電話番号を聞きまくる。
最初に不動産屋で記憶した電話番号と一致したらその不動産屋だ。

得意な分野だった。
前職の地獄のテーマパークでは常にやっていた俺の人探しの裏技だ。ゾンビたちに無理やり叩き込まれた。

俺は人の嘘も、回線の裏側も、全部見通せる気がした。神の視点だ。だが、この力は誰も幸せにしない。

心「神よ、もう驚かないぞ。お前の“試練”って、だいたい同じ味がする」
心「最初は甘くて、最後は鉄の味、俺は初体験じゃない」

必死で今日を走り切った。
ここまで2時間。上出来だ。

大家に関する不動産屋の場所を突き止め満足する俺

大家に最も近い不動産屋との一騎打ち。負けられない貧乏の土俵際

俺は、見つけた本当の不動産屋の店の前にたった。
ここもおじいさんが一人でやっている都会の実は強い不動産だった。

俺「こんにちわ」

迷ってなんていられない。
タイムリミットの退去まで240時間切ってるんだぞ。
新しい住居の内見や引越し作業入れたら100時間切ってるんじゃないか!

じじ「はーい」

福の神の様な優しい顔のおじいさんが出てきた。
土間にあるストーブ。椅子の上にある座布団。
50年は使っているだろう年輪の美しい木のテーブル。
緑茶の香りと、タバコの香り。

俺「俺は実はあの壊れたアパートの住民です」
俺「大家さんから10日以内に出る様紙が貼られていましたが、不可能なので意見言いにきました。大家さんに会わせてください」

俺は言い終わり、おじいさんへ視線を軽く送った。
しかし、俺は寒く凍る様なおじいさんの目を見て背筋が凍った。

心「なんだ、この蔑んだ目は」

じじ「教えられません。無理に聞く様なら弁護士を雇っていいと大家さんに言われていますから。帰ってください」

俺「……なるほど。守秘義務ってやつですね。俺も昔、会社のトイレで先輩の浮気を見た時、黙ってたんで気持ちはわかります」

それでも俺は食い下がらなかった。

俺「無理なものは無理です。お金もないのにどうやって出てくんですか?」
俺「そもそも耐震強度違反の建物なんですよね?」

おじいさんは「そうだ」とは言わず、俺の目から目を離さず無言を貫く。

心「これじゃ、間が持たない。俺がいっぱい話してしまいそうだ」

俺「今日住民会議をしたんです。皆の気持ちをこのノートに記してきました」

ノートは神の聖書より安いが、書いた人間の命はだいぶ削られる。

心「このノート、発酵しすぎて酸っぱくなっているが、伝わるだろうか?」

俺「ストライキをする気もあります。どうしますか」

今度は俺もあえて沈黙する。
おじいさんも沈黙を破らない。
悪魔の様な空気がその場を支配していた。

俺「話になりません。明日またきますので大家さんと話しておいてください。

じじ「はいはい。わかりました」

このおじいさんは俺が20代の若造だという事を見透かして適当にあしらえると思っている。
ただ俺も、ただの若造ではない。
今まで、俺の中では地獄を乗り越えた腐り切った酵母と闘志がある事をおじいさんは知らない。

俺「では、失礼します」

ガラガラ。俺は半分開けて振り返った。

俺「あ!言い忘れてました。俺、以前耐震強度偽造問題で社会的に問題になった物件の調査の仕事をしていました。その時仲良くなった⚪︎⚪︎テレビ局の記者ともよく飲みます」

俺「その記者、今も建築担当で最近ネタがないって言ってました」
俺「ではまた明日きます。失礼します」

心「これで動き出すか大家?」

なんとか戦って引き分け以上の手応えはあった。
話始めて3時間以上。
外は暗くなっていた。

心「くそ!あさっては新しい会社の初実務。どうして俺の人生は進まない!」

食いしばりすぎて歯茎から血が出てきた。
寒い風の中、古いコインランドリーで暖かいコーヒーを飲んで途方に暮れた。

寒い中コインランドリーで缶コーヒーを飲んで途方にくれる俺

不動産屋との再戦。伝えるべきは俺たちの想い。運命は自分で掴むものだ

俺は約束した翌日10時に不動産屋の前に来た。
どっちに転ぶにしても、今日足掻いてみよう。足掻いてダメなら自分でなんとかしよう。
ただ、被害者の俺たちの気持ちは受け取って欲しい。

ガラガラガラ
ドアを開けて中に入った。

中にはおじいさんがすでに畏って俺を待っていた。

俺「こんにちわ。どうでしょうか」

おじいさんは何も言わず奥のテーブルに来る様に手招きをした。
俺はそのテーブルに近づき、焦らない様ゆっくり座った。

じじ「で、あんたは何がしたいの?」

昨日の無言のおじいさんじゃない。
商人になって俺を睨みつけている。

俺「出て行くにも、新しいアパートの敷金礼金も無い、引越し業者の資金もない。どんなに探しても50万円〜70万円はかかって、貧乏な俺は引っ越したくても出れなせん。それは皆同じです」

じじ「大家にはこう言われてるんだ。出ていってもらえるなら、裁量は俺に任せるってよ」

俺「なんのことですか?」

じじ「お前若いのにすごいよ。気に入った」

なんだこの謎のストーリーは。
俺より先に発酵してるんじゃねーか?

じじ「大家もニュース沙汰にはしたくないらしい。だから歩み寄るよ」
じじ「次住む予定のアパート決めてこい。その敷金礼金と1ヶ月分の家賃、引越し費用。それらを俺が払う。領収書の写しをもってこい」

じじ「皆に言えよ。それからタイムリミットは倒壊した日から10日。つまり後9日だ。これでいいだろう?」

じじ「文句ないなら、大人の優しさだって思ってお前も探せよ」

裏でどんな話が一夜でされたのかわからない。
どんな力が働いているのかわからない。
しかし、あえて聞き返してこの話を無かったことにするのは俺にとっても良くないことだ。
相手からも、これ以上聞くなよという空気が流れていた。

腑に落ちない気持ちと、救われた気持ちで、俺は感謝を述べ店を出た。

ガラガラガラ。

心「ありがたいが、なんだったんだろう。でもみんな喜ぶぞ!」

俺は家に戻り皆の部屋にチラシを作って入れて近くの綺麗な不動産屋に向かった。

少し妊娠の興奮が治まってきた彼女を連れ立って物件探しを始めた。
新しい家を見つける楽しさと、一ヶ月分の家賃も払ってくれるということで彼女も機嫌が良かった。

オープンテラスでコーヒーを飲みながら久々に楽しく会話ができた。

少し厚手のブルゾンを着てちょうどいいくらいの肌寒い気温だった。

引越し終わり彼女とカフェでコーヒーを飲む俺たち。どこか悲しい気持ちになっている

大天使ウリエル:引越し準備の中、彼女の様子の変化に竦む

全ての引越しの準備が完了した。
人間焦るとちゃんと休まずドンドン仕事は進む。
アパートも契約し、引越し業者も間に合った。粗大ゴミも業者を呼んだ。
あとは数日待って移るだけ。

古い家から新しい家までも実は徒歩15分。
ほぼ同じ生活圏なので、生活の心配は全く無かった。
買い物するスーパーも変えずに済む。

一呼吸をしながらタバコを吸っていた。
近くの喫茶店で焼いているホットドックとブラックコーヒーを味わいながら。

実はこの個人経営の喫茶店は倒壊するアパートの目の前。
家から雨が降っていても傘無しで行ける大好きな喫茶店だった。
結構安いため、やることがない時はここで本を読んで過ごすのが多かった。
そのため、今日もこの場所にいてアパートを眺めながら哀愁に浸っていたところだった。

そんな俺の目に、それが写った。

井の頭線の踏切を下を向いてトボトボと歩く俺の彼女。
元々明るい性格が最大のチャームポイントなのに、どうしたんだ。
俺は声をかけるどころか、吸った息を吐くことができないまま彼女がアパートに入る姿を目で追っていた。

心「俺のことも見えていなかったな。話聞きにいってみるか」

この話が俺の血液を凍らせる。
そう、神が久々に俺に送った本格的なデスギフトなのだから。

アパートにすぐ入り、彼女の様子を見たが、やはりさっきの観察通り暗い様子だ。
見たこともないほど沈んでいる。

俺「どうしたの?」

できるだけ優しいトーンで話しかけた。

彼女「今、産婦人科に行ってきたの。今週中までに堕ろさないと産むしかなくなる。」
彼女「今は仕事が一番で、結婚はしたくない。中絶したい」

俺「・・・・・・・・!」

彼女「明日、中絶手術の予約してきたから。ごめんね」

俺は、何もわからない。床に膝まで埋まったんではないかというくらい体が重い。
天井も床もグラグラ回っては歪み、歪んでは回るを繰り返す。
自律神経が暴走してしまていた。

俺「そ、そ、そうなんだあ。俺は父向きじゃないし、仕事楽しそうだしね」
俺「せめて手術中付き添わせて」

彼女は言葉なく「うん」と頷いた。ように見えた。

その夜は記憶なく過ぎ、翌朝一緒に病院に行った。

この日は強風だった。
まるで神が笑っている様な気がした。

俺は病院で紙とペンをもらったが、強風で上手く紙が広がらない。
外で書いてほしいと言われたのだ。
堕す相手と産婦人科に入りたくなんだろう。

乱れる紙を押さえながら震えるペンで父の欄に名前を書いた。
これから亡くなる子の父として。

心「涙が出るのはなんでだ!ごめんね。俺が父じゃなければ」

その紙を持って彼女は病院へ入っていった。
何時間待ったかは覚えていない。でも長い時間だった。

彼女が病院から出てきて近くに来た時、また俺は申し訳ない気持ちで死にたくなった。
彼女から猛烈な消毒液の香りがするのだ。
外に出ても風が吹いても強く香るのだ。
どれほど体と心を傷つけたのだろう。本当にすまない。

俺は、多くのことがたった1週間で起きたことに脳のオーバーフロー状態になり、ここで記憶が消えている。

今できることは、新しいアパートで、彼女のために新しい仕事に慣れ、信頼される人になること。

そうなる様に俺は、心をスタート地点に持ってきた再スタートする事を決意した。
今度こそ、普通の幸せを捕まえに行く。

神様ってやつは、人間の希望を調理するのが本当に上手い。
焦がす寸前が一番うまいんだ。
俺は拳を人知れず握りしめた。

神は手に余るギフトをすでに用意していたのかも知れない。
いや、遊ぶために罠を仕掛けていたのかも知れない。
俺という、単純な男が簡単に抜けられなくなる蟻地獄の様な罠を。

風が止んだ。
神がまた俺を見ていた。
俺は笑った。声じゃなく、顔だけで。
その瞬間、神がほんの少しだけ黙った気がした。

第11話完
この物語はほぼ実話です。

次回予告

新会社で実務を始めて楽しく仕事をする俺とセブンが親友関係に。
セブンは俺の良き理解者で話していて楽しい。
彼女も最近機嫌が良くてよく笑う。
会社もすこぶる皆機嫌が良くて天国だ。
こんな幸せな毎日があっていいのか?
神は有頂天にしてから落とすと人間が壊れる事を熟知している様だった。
まるで、子どもが積み木を壊して笑うみたいに。

病院の前で無力な自分を嘆いている俺

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