馬祖ビエンナーレ 番外編 ② 東引編
ハーパースバザーのレビューに書ききれなかった、個人目線での馬祖ビエンナーレについて、全2回の番外編の2回目。1回目はこちら。
先月の馬祖ビエンナーレのプレスツアーは2泊3日だったのだが、朝は一番早くて6時半集合で夜9〜10時までノンストップという猛烈スケジュールにもかかわらず、残念なことに、五つの島のうちのひとつ、東引(ドンイン)に行けなかった。東引だけちょっと遠い(2時間かかる)のと、行き帰りとも朝のフェリーしかないので、行ったら一泊するしかないらしい。
東引の作品 林美玲(リン・メイリン)
東引にはいくつか見たい作品があった。
ひとつは、この記事のヘッダーにしている東引出身の林美玲(リン・メイリン)の作品。(林美玲 Lin Mei-Lin 《微光·記憶 Glimmering Memory》Photo courtesy of Matsu Biennial)
この東引は、馬祖の中でも最も前線にあったので、夜中に砲撃の対象になることを恐れて、かなり長い間、夜の点灯を禁じられていたのだそうだ。
林は中学校に上がる30年ほど前にこの島を離れたらしい。それでも、軍事管制下にあった島の様子は、子どもながらによく覚えていて、前回の参加作品もそういった記憶を元に制作していた。ハーパースバザーでのレビューでも書いたが、今回のインスタレーションの、柔らかで温かな雰囲気の作品の裏には、そんな厳しい日常を生きた記憶がある。作品中の、海の向こうに浮かぶ、漁に出ている人たちを待つような優しい光の家々は、実際には長い間存在しなかった夢の風景なのだと思うと、心がギュッとなる。そして、世界のあちこちで起こっている戦争と、暗い夜について考えてみる。命が奪われなかったらそれでいいわけではない。強制的な暗闇の中で、多くの人の暮らしと自由が、奪われ続けていることを思う。
東引の作品 張立人(ヂャン・リーレン)
それから、隣の空間に展示されている、張立人(ヂャン・リーレン)という台湾アーティストの映像三部作《島嶼敘事三則 2024 - 2025 Three Island Narratives 2024 - 2025》も、現地で見てみたかった。
張立人は、去年、ちょっとした時の人になったアーティストだ。というのも、台北の北師美術館での、14年間かけて制作した、ミニチュアを使ったストップモーションの映像作品シリーズ「戰鬥之城 (Battle City) 」の最終個展「戰鬥之城・終」が、ローカルアーティストによる現代美術展としては異例のヒットになり、(展覧会の記録とインタビュー映像はこちら。英語字幕あり)2024年5月4日 から7月21日までの3か月で12万3000人という記録的な観客動員数を記録し、今年の台新芸術賞*の大賞を受賞したからだ。
行列現象自体は、SNS時代の申し子でもあって、インフルエンサーがミニチュアの街の前でセルフィーを撮るなどして拡散しなければ起きなかったことかもしれない。とはいえ、私自身、長い間見てきたプロジェクトがこうやって大団円を迎えたのは嬉しかったし、間違いなく歴史に残る作品だと思った。(この作品シリーズについては、また機会があれば書こうと思う)
その彼の新作ということで、東引には行けなかったけど、ビエンナーレのPR担当者に頼み込んで、資料と映像を見せてもらった。作品は、東引の風景や、馬祖出身の詩人で画家の劉梅玉(リウ・メイユー)の詩、林美玲の前回の作品の制作プロセスが交錯する詩的な映像だったり、最近話題のAI技術で古い家族写真を動かすものだったりして、張らしいロマンチシズムに溢れていた。

東引じゃないけど台新芸術賞繋がりで 倪祥(ニー・シャン)
張は前回も参加していて、北竿にも作品が展示されている。(ただこちらも時間の関係で、見ることは出来なかった)さらに、北竿の同じ場所では、同じ今年の台新繋がりの倪祥(ニー・シャン)の作品も展示されているとのこと。倪は、台湾の老人の介護や彼らがモノを溜め込む習慣などをテーマに、ありえないほど積み込まれたモノと言葉と映像とアイデアが溢れる個展を台北市立美術館で発表して、今年の台新芸術賞視覚芸術部門を受賞した。(*台新芸術賞:台新銀行文化芸術基金会によって2002年から毎年行われている芸術賞。何度か制度を改定しつつ現在は、前年一番良かった国内の展覧会と、パフォーミングアーツの公演を表彰し、さらに大賞を授与している)

馬祖での作品(上↑)は、好き嫌いはあると思うけど(というか倪祥の作品にいつも存在する過剰な美学、キッチュなところや、若者の内輪ウケっぽいノリは、好き嫌いがはっきり分かれるだろうなとは思う)、オーディオガイドで彼が話していた言葉の、馬祖の人々に犠牲を強いてきたことに、本島人として向き合おうとする誠実さは、結構好きだ。
東引で夜だけ展示される作品 謝佑承(シエ・ヨウチェン)と馬維元(マー・ウェイユェン)
話は東引に戻るが、夜しか見られない作品もある。謝佑承(シエ・ヨウチェン)と馬維元(マー・ウェイユェン)の二人が前回制作し、今回も続けて展示している《群星 (Astrtism) 》だ。東引の歴史や伝説などを元に、八つの星座に関する物語を書き、ライト・キネティック・インスタレーションを制作している。

展示場所はかつてダンスホールだった建物の、屋根がなくなった一階部分で、中央にミラーボールを使ったオブジェが設置され、オブジェはスイッチが入ると、回りながら、周りに設置された48個のライトからの光を反射して、周囲の壁に映し出す。48個のライトは、二人が東引中から集めてきた中古のライトだとのこと。土地の歴史を丁寧に拾った上で、ロマンチックに昇華しているところがいいと思う。(あ、今気がついたけれど、この作品にも番外編①で書いた、光を介したエネルギーの循環があるね!)
東引 「スローシティ」に選ばれた スローライフが素敵な島
二人は時々、作品のメンテのために東引に通っているらしいのだが、この島がとても好きなんだそうだ。東引はなんと今年、イタリア発のグローバル組織「スローシティ」に選ばれ、9月初頭には、台湾の年次総会も行われたとのこと。こんな素敵なウェブサイトも出来ている。

さらに、Uターンした若者がやっている鹹味島合作社 Salty Island Studio という名のコミュニティ・カフェもあって、ビエンナーレの時期に限らずいろんなイヴェント(ブックフェア兼アートウィークなども!)を主催しているそうで、もう次回は絶対に行ってみたいのだ。(「合作社」ってことは生協と同じシステムなはずで、そこも気になる!)
謝くんのおすすめ民宿も聞いておいたので、シェアしておこう。
小島上民宿(シャワーとトイレは共同。超オシャレでびっくり)
海悅樓(各部屋にシャワートイレあり。こちらも快適そう)
東引への交通指南
基隆からのフェリーは、 新臺馬輪という日本製のフェリーが新しくて快適らしい。複数日(12日、14日… など)は、東引に先に着くので結構早くて、夜22:30に出て、朝6:00に着く。運航時間は案外長いけど、寝てる時間が多いから、それほど気にならないと思う。(奇数日は先に南竿に行って、11:30にしか着かないので注意!)
船のチケット予約は、前はKK Dayもあったようだけど、今は中文のサイトのみのようだ。基隆→東引はフェリー新臺馬輪に乗り、次の日の朝に南竿という馬祖中心地の島へ臺馬之星という別のフェリーで移動して、最後は飛行機で台北に戻るのが良さそう。(船のチケットはエコノミーのベッド付きで基隆→東引は片道NT$1,000、東引→南竿は$400、台北松山→南竿の飛行機は片道NT$2,200前後のもよう)
ただ、濃霧が発生しやすい春や、東北季節風の影響を受けやすい冬は運休もあったりするので、時間に余裕を持って(もし日本から来るなら、帰国前に台北で1~2日多く取っておくなど)計画する必要はあるかもです。

Photo courtesy of Hsieh Yu-Cheng
というわけで、馬祖ビエンナーレ番外編② 東引編でした。
軍事的最前線だった島の文化を取り戻すための行動が、ここでは特に島民中心で進められている感じがとても好印象。ほんとに一度行ってみなければ!
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💎展覧会情報
第3回馬祖ビエンナーレ(馬祖国際芸術島):「拍楸(パーユー)— あなたの海、わたしの陸(Pha-jiu: Your Sea, My Land)」
2025年9月7日〜11月16日
連江県馬祖列島(南竿、北竿、東莒、西莒、東引の5つの島々)
入場無料(一部事前予約制。会期中には13回のパフォーミング・アーツの公演も予定)
