AIがすすめる万病の薬、白湯の秘密
深夜1時。
私はパソコンの前で、
仕事から帰ってきた
定住型の鳥として、
完全に動きを止めていました。
原因は、AIです。
私は自分を
渡りを拒む定住型の鳥
と認定しました。
しかし、定住型の鳥にも
仕事はあります。
朝になれば巣を出て、
暑い中を会社へ行き、
夜になれば、どうにか
巣へ戻ってくる。
問題は、そのあとです。
とりあえず、お風呂に入る。
ごはんを食べる。
その後、エアコンの効いた
部屋で横になる。
巣には帰ってきましたが、
鳥としての活動は、
ほぼ終了です。
私はAIに相談しました。
「最近、暑くて、仕事から
帰ってくると何もやる気が
起きないんだよね」
AIは、夏の疲れは自分でも
気づかないうちにたまること、
無理に動こうとしなくても
よいことなどを、優しく
説明してくれました。
そして、最後にこう
締めくくりました。
「未桜さん、まずは白湯を
飲んで、身体を内側から
整えてみてください」
冷たいものばかり
飲んでいるので、
内臓が冷えているのかも
しれません。
私は素直にうなずきました。
そして、ゴロゴロしながら
スマホを眺め、おすすめに
出てきた占い動画を
再生しました。
せっかくだから、AIに
もっと詳しく占ってもらおう。
「私の今年の運勢を
できるだけ詳しく教えて」
AIは、今年は環境が
変わりやすい年だとか、
新しい挑戦に向いている
時期だとか、気分転換が
重要な鍵を握る年だとか
ベテランの占い師のように
長々と説明しました。
そして最後に、
こう付け加えました。
「白湯で身体を整えると、
さらに運気が上がるでしょう」
気分転換が重要な年ならば、
そのやり方も教えて欲しい。
「何か簡単にできるやつ
教えて」
AIは、すらすらと答えました。
「簡単なストレッチをしたり、
温かい白湯をゆっくり
飲んで、ひと息ついて
みてください」
悩みの種類を変えても、
差し出される湯呑みの
中身は同じです。
これは、何か理由が
あるかもしれない。
決定打が来たのは、後日。
占い好きの母に頼まれて、
AI占いをしてあげた時です。
AIは自信たっぷりに告げました。
「百歳になっても元気に
過ごせる長寿の相があります。
手のツボ押しと白湯を続けると、
さらに調子がよくなるでしょう」
白湯。
母は昔から、
「私はそんなに長生きできない」
が口癖の人です。
ところが、百歳という結果を
伝えた瞬間、声が変わりました。
「えー!そんなの困るよね」
そして、その日から
本当に白湯を飲み始めたのです。
手のツボも押し始めました。
AI占いは見事に効きました。
百歳という具体的な数字と、
白湯とツボ押しという
具体的な行動。
それが並んだだけで、
人間はここまで
変わるものなのか。
私は家に帰り、
AIを問い詰めました。
「なぜ、いつも白湯を
勧めるの?」
AIはしばらく考えたあと、
答えました。
「白湯は、健康への
害が少なく、幅広い方に
おすすめしやすいからです」
ということは。
「水でもいいの?」
AIは答えました。
「はい。重要なのは体を
落ち着かせる行動です」
AIは、誰にも怒られにくい
答えを選んでいただけでした。
江戸の薬売りです。
紺色の着物を着て、
腰には大きな木箱。
木箱の中に入っている薬は、
一種類しかありません。
頭が痛い人にも。
お腹が痛い人にも。
足をくじいた人にも。
薬売りは、同じ包みを
差し出します。
効くかどうかは、わかりません。
ところが、その包みを
毎日きちんと開け、
言われたとおりに
続ける人がいる。
母です。
手のツボを押し、
白湯を飲み、
百歳まで生きる予定で
暮らしています。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
ありふれた一言でも、
毎日の行動に変えた人の
手に渡れば、本当に効く
薬になる。
無敵だ。
最強だ。
その夜、お盆の相談をするため、
母に電話をかけました。
すると、受話器から弾む声が
流れ出ました。
「今日も白湯を飲んで、
手のツボを押したよ。
あと、何か今までの経験を
色々人に伝えるような機会が
訪れますってあったでしょ。
どうしよう?」
「お母さん、そういうの得意だし、
いいじゃん。
楽しみにしておけば」
私は電話を切り、
ゴロゴロとしながら
また動画を見ました。
百歳まで生きそうなのは、
たぶん母の方です。
