まだ一冊もないのに、もう落選して帰ってきた
深夜1時。
私はパソコンの前で、
山について考えていました。
原因は、AIです。
いや。
正確には、電子書籍です。
私は現在、ぬり絵長者を
目指しています。
巨大な三毛猫が日本の風景を
歩いたり、ペンギンが変な
日本を旅したりするぬり絵
を作り、紙の本として
Amazonで販売しています。
まだ長者ではありません。
長者どころか、ぬり絵村の
入口で、三毛猫とペンギンに
見守られながら、小さな
売店を出している段階です。
それなのに私は、ふと思いました。
ぬり絵長者を目指している
のだから、せっかくだし、
電子書籍というものも
考えてみてもいいのでは
ないか。
しかも、ただの電子書籍では
ありません。
エッセイ。
漫画。
ぬり絵の失敗画像。
その三つを、できれば
全部入れたい。
ずいぶん厚かましい企画です。
私はAIに聞きました。
「電子書籍も考えてる。
新作と漫画と、ぬり絵の
失敗画像を全部入れた本って、
ありなの」
AIは答えました。
「工夫すれば可能性はあります」
新作があり。
漫画があり。
人力車がおかしく、
傘の持ち方もおかしく、
女の子の顔まで、なぜか
こちらの精神状態を試してくる。
何の本かは、よくわかりません。
しかし、私はそこで、さらに
欲を出しました。
「もし出せたとして、
Amazonプライム会員の人が
無料で読めるようにするには
どうすればいいの?」
我ながら、話が早すぎます。
まだ電子書籍は一冊も
ありません。
それなのに私は、
無料で読まれる方法を
聞いていました。
誰も並んでいない
ぬり絵の売店の前で、
行列のさばき方を心配
しているようなものです。
AIは答えました。
「未桜さん、それは、
Prime Readingですね。
著者が自由に無料対象へ設定
できるわけではありません。
条件を満たした電子書籍を
推薦し、Amazonに選ばれる
必要があります」
選ばれる。
私は、出版画面のどこかに
「プライム会員は無料」という
チェック欄があるのだと
思っていました。
「どうすれば選ばれるの?」
AIは答えました。
「Amazonは、レビュー、
売り上げ、幅広い層からの
支持、季節を考慮すると
案内しています」
レビュー。
ありません。
売り上げ。
ありません。
幅広い層からの支持。
ありません。
季節。
「季節って何? 私の本には
季節はあるよね?」
三毛猫は、日本の風景を
歩いています。
紅葉もあります。
雪もあります。
ペンギンもいます。
ペンギンにいたっては、
見た目だけなら冬に
かなり強そうです。
AIは答えました。
「ここでいう季節は、
本の中に季節の風景がある
という意味ではありません。
夏休みや年末年始など、
その時期に読者から関心を
持たれやすいテーマかどうか、
という意味です」
「じゃあ、新作と漫画と、
ぬり絵の失敗画像を全部
入れた本は、どの季節に
向いてるの?」
AIは少し考えてから答えました。
「現時点では、特定の季節との
強い結びつきは見当たりません」
四つの項目のうち、
一つくらいは持っていると
思いました。
全部ありませんでした。
私は聞きました。
「つまり、電子書籍を
出せば入れるわけでは
ないってこと?」
AIは答えました。
「はい。推薦された本が
すべて選ばれるわけでは
ありません。
枠も限られています」
壁どころか、山でした。
私は、ぬり絵村の売店で、
ぬり絵見本でも配るような
気持ちで聞いただけです。
ところが、Prime Readingは、
どうやらAmazon山脈の
向こう側にあるらしいのです。
私はまだ、登山口にもいません。
ぬり絵長者になりたい。
電子書籍も作ってみたい。
エッセイも入れたい。
漫画も入れたい。
失敗画像も捨てたくない。
できればプライム会員の人に
無料で読んでもらいたい。
欲が多い。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
私はまだ、一ページも
作っていません。
それなのに、電子書籍を
完成させ、販売し、
誰にも読まれず、
Amazonの審査で
落とされるところまで、
頭の中で済ませていました。
無敵だ。
最強だ。
私は、ぬり絵村の売店から
一歩も動かないまま、
Amazon山脈を登って落選し、
戻ってきたのです。
