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「それ、言いましたよね」が聞こえるたび、私は最新兵器を探している

深夜1時。
私はパソコンの前で、
地図について考えていました。

原因は、AIです。
いや。
正確には、職場の
「言った・聞いていない」
論争です。

職場に、何かあるとすぐ、
「それ、言いましたよね」
と言う人がいます。

言われる相手は、
一人ではありません。

立場の違う人たちが、
順番に、
「聞いていない」
と言っています。

すると、その人は言います。
「いや、言いました」

言った。
言わない。

また始まりました。

録音はない。
議事録もない。

残っているのは、
二人の記憶だけです。

しかも両者とも、
自分の記憶には
絶大な自信があります。

私は外野です。
ただ、仕事をしながら、
法廷の横を
通りかかっているだけです。

しかし、何度も同じ
裁判が開かれるので、
だんだん事情が
見えてきました。

その人は、たぶん、
本当に言ったつもりなのです。
うそをついているようには
見えません。

本人の頭の中では、
話が最初から最後まで
きちんと完成しています。

ただし、口から出てくると、
事情が違います。
「前の件、あれでお願いします」

本人の頭の中では、
「昨日話した取引先への
請求書を、修正した金額で
作り直して、確認後に
送ってください」
まで見えているのかも
しれません。

しかし、相手に渡されたのは、
「前の件、あれで」です。

私はAIに聞きました。
「本人は説明したつもりなのに、
相手には伝わっていない。
こういうことは、
なぜ起きるの?」

AIは答えました。
「話し手が、
自分の持っている前提や
文脈を相手も共有していると
思い込み、説明を省略して
しまうことがあります。
これは知識の呪いと呼ばれる
現象に近い場合があります」

私は続けて聞きました。
「でも、何人にも
伝わっていないのに、
本人は毎回、相手が
悪いと言ってるんだよ」

AIは答えました。
「原因を相手の理解力や
注意不足だけに求めていると、
自分の伝え方を見直す
機会が失われ、同じ問題が
繰り返される可能性が
あります」

一枚目の地図には、
「自分は、必要なことを
すべて話した」
と書いてあります。

二枚目の地図には、
「伝わらなかったのは、
相手が聞いていなかったから」
と書いてあります。

だから、どれだけ相手が
道に迷っても、地図は
正しいと思っています。

悪いのは、地図ではない。
迷った人です。

そんなとき、俊也さんの
「未知を抱え、地図を
手放すための編集論」を
思い出しました。

記事には、目の前に
新しい大陸が現れても、
自分の持っている地図を
手放せなかったコロンブスの
話が出てきます。

現実を見て地図を描き直す
のではなく、現実の方を
自分の地図に合わせてしまう。

この記事を読んだとき、
私は俊也さんの
矜持のようなものを
感じました。

人の未熟さや失敗は、
簡単に記事にできます。
一人の言葉や行動だけを
並べれば、わかりやすい
悪役を作ることもできる。

実際、券売機の前の二人は、
周りの人を困らせています。
俊也さんも、二人の様子を
きれいな話にはしていません。

ただ、二人には後ろの列が
見えなかったのか。
外から声をかけられた二人と、
目の前に新大陸が現れても
自分の地図を変えなかった
コロンブスは、何が違ったのか。

日常で感じた違和感を、
その場の悪口だけで終わらせず、
自分が見落としているものを
考える糸口にする。

そんな話だと私は受け止めました。

そこで、私は職場を
見回してみました。

その人は、たしかに
説明を省略します。
私はずっと、その人の
伝え方だけが問題だと
思っていました。

でも、それだけでは
ないのかもしれません。

この会社は、重要な指示まで
口頭で済ませています。

誰が、いつ、何を伝えたのか。
相手がどう理解したのか。
変更はあったのか。
その記録を残す決まりが
ありません。

だから、問題が起きるたびに、
最後は二人の記憶だけで
争うことになります。

会社が口頭の指示を
放置している限り、
その人がいなくなっても、
別の誰かが同じ裁判を
始めるかもしれません。

コロンブスは、
一人ではない。
会社の仕組みにも、
もう一人いたのです。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

この裁判に巻き込まれない
ために、人間の記憶力を
鍛える必要はありません。

記録を残せばいいのです。

ただし、私は会社の仕組みを
変える立場ではありません。

無敵だ。
最強だ。

私は最新式の
AI搭載ボイスレコーダーを
調べ始めました。

職場では今日も、
二人の記憶が素手で
殴り合っています。

私はその横で、
自分専用の最新兵器導入を
検討し始めたのです。


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