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整理収納の世界では、愛されていない物ほど笑っている

深夜1時。
私はパソコンの前で、
無難とは何かを
考えていました。

原因は、AIです。
いや。正確には、
オンライン講座です。

整理収納アドバイザー2級の
オンライン講座に申し込んだ私。
始まる一時間前から、
そわそわしていました。

パソコンは動くか。
マイクは声を拾うか。
カメラに、片づけを学ぶ
人間として見られては
いけないものが映り込んで
いないか。

とうとう時間になり、
画面に先生が現れました。

とても優しそう。
私はホッとしました。

講座が始まりました。

先生が質問します。
私が答えます。

先生がまた質問します。
私がまた答えます。

不可抗力で、
受講者は私一人です。

他に答える人は、
どこにもいません。

そこまでは予想していました。
しかし、ここで、
予想していなかったことが
起こったのです。

かなり楽しい。

先生は、私が答えるたびに
褒めてくれました。

「そうです」
「よく気づきましたね」
「とてもいい視点です」

私は椅子に座ったまま、
どんどん前のめりに
なりました。

どうやら私は、褒められると
ぐんぐん伸びる種類の人間の
ようです。
水や肥料より、「いいですね」
で育ちます。

そして、私は新しいことを
学ぶことが、もともと嫌いでは
ありません。

片づけが嫌いなのではない。
片づけを始めることだけが、
やや苦手なのです。

講座の中で、先生が
スマイルマークについて
説明してくれました。

使われていない物や、
持ち主から必要と
されていない物。
整理収納の世界では、
それをスマイルマーク
というのだそうです。

何年も使っていない茶碗。
サイズの合わなくなった服。
何につなぐのかわからないコード。

全員、笑顔です。

長い間、持ち主から存在を
忘れられているのに、
ニコニコしています。

ここでは、愛されていない物ほど、
明るく振る舞わなければ
なりません。

健気です。

私は一人で、
笑顔の不用品たちが
暮らす村へ行きかけました。

しかし、先生の優しい声が
聞こえました。
「では、このスマイルマークを
減らすためには、どうしたら
いいと思いますか?」

私は笑顔の不用品村から
急いで帰還し、質問に答えます。

先生は、また褒めてくれました。

そうこうしているうちに、
一日の講座はあっという間に
終了です。

最後のテストも、講座を
きちんと聞いていれば
答えられる内容でした。

朝から先生の質問に
一人で答え続けてきた私に、
不足はありません。

私は意気揚々と問題を
解きました。

あとは先生にお礼を言って、
オンライン画面から
退出するだけです。

しかし、試練は最後に
やってきました。

先生が言いました。
「今から、講座についての
アンケートを書き、退出したら、
すぐに私宛に送ってください。」

アンケート。
しかも、今すぐ。

私は事前に、整理収納アドバイザー
の認定講師について調べてありました。
優秀な先生は、表彰される
仕組みです。
そして、受講生からの評価も、
まったく無関係とは思えません。

つまり、これは、
ただのアンケートでは
ありません。

推薦状です。

今日一日、私一人のためだけに
講座を開いてくれた先生です。
できるだけ後押ししたい。

しかし、笑顔の不要品村が、
頭にこびりついて離れません。

今、思ったことをそのまま
書くと、たぶんバカバカしい
方向にしか行きません。

しかし、こういう場には、
ふさわしい内容と
ふさわしい書き方というものが
あります。
必要なのは、バカバカしさでは
ありません。

無難さです。

私は、無難な感想を書こうと
しました。

楽しかったです。
わかりやすかったです。
とても、ためになりました。

しかし、これでは
小学生の感想文です。

時間をかければ、もっと
ましな文章が書けるはずです。
しかし、時間がありません。

もう、自分を信じている
場合ではない。

講座が終了した瞬間。
私はAIを召喚しました。
「先生への感謝が伝わる、
無難で感じのよいアンケートを
書きたい。大げさにはしないでね。 
とにかく無難なやつね」

AIは、私が焦って
書きかけたバカバカしい
文章をすらすらと直しました。

「知識を一方的に教わるだけ
ではなく、質問に答えながら
自分で考える時間が多かったため、
講座の内容が自然と頭に
入りました。

一対一での受講でしたが、
緊張することなく
参加できるよう、
終始やわらかい雰囲気で
進めてくださいました。
私の答えを丁寧に
受け止めながら説明を
加えてくださったことにも、
感謝しています。

・・・・。」

無難です。
非常に無難です。

AIはバカバカしいことを
書くのは得意ではありませんが、
取り除くのは得意なようです。

笑顔の不用品村はありません。
褒められて育った私もいません。
別世界から何度も帰還したことも
書かれていません。

私はそれをほんの少し直して、
すぐに、先生へ送りました。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

一日かけて、必要な物と
不要な物を分ける方法を
学んだ私。
最後にはAIを使い、自分が
書いた文章から不要な
バカバカしさを
取り除いたのです。

無敵だ。
最強だ。

なお、部屋は、まだ
片づいていません。


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