片づけを始める前に、資格を取ることにした
深夜1時。
私はパソコンの前で、
片づけについて
反省していました。
原因は、AIです。
数か月前に片付けを
決意した私。
しかし、まだ、
着手していません。
反省していないわけでは
ありません。
かなり反省しています。
これまでにも、何度か
片づけようとしました。
最初は、一日の計画を
立てました。
しかし、その計画を
AIに冷徹な軍師として
検討させたところ、
あまりにも脆弱だと
判明しました。
私は被害の拡大を防ぐため、
計画を中止しました。
次に、三人の専門家を集めて、
完璧な片づけ計画を
作らせました。
ところが、完成度が
高すぎました。
素人の私が軽々しく使えば、
美しい計画に傷をつける
おそれがあります。
私は敬意をもって
保留しました。
その次は、片づけに着手
するための方法を、
思考の木で考えさせました。
いくつもの枝ができました。
しかし、せっかく生まれた枝を、
いきなり一本に絞るのは惜しい。
私は枝の保全を優先しました。
振り返ってみると、AIに
相談するたび、片づけを
しなくてよいことに
なっています。
AIが私を甘やかしている
わけではありません。
真面目に考えた結果、
なぜか先延ばしに
なるのです。
損害の抑制。
敬意ある保留。
枝の保全。
文字だけ見れば知的そうな
理由だけが、積み重なって
いきます。
いつか、散らかった
部屋の中央で、AI召喚理論
だけを完璧に語る人間に
なりかねない。
このままではいけません。
そんなことを考えているうちに、
「整理収納アドバイザー」
という資格を知りました。
整理収納の考え方や方法を、
体系的に学ぶ資格です。
2級は、オンラインで一日の
講座を受け、最後にテストを
受ける形式のようです。
説明をきちんと聞き、
真面目に取り組めば、
極端に恐れるような試験では
ないと書いてあります。
これだ。
もう、AIに頼っている場合では
ありません。
これからは、自分を信じるしかない。
そう決意した私は、念のためAIに
聞きました。
「整理収納アドバイザー2級を
受けようと思うんだけど、
どう思う?」
AIは答えました。
「未桜さん、実際に体系立てて
学んでみるのは、よい選択だと
思います。
片づけにくい理由や、自分に
合った方法も見つけやすく
なるかもしれません」
やはりそうか。
AIに頼らず、
自分を信じるという判断は、
AIから見ても正しかった
ようです。
私は、その場で講座に
申し込みました。
かなり衝動的な決断です。
片づけには何か月も着手
できないのに、片づけの
資格には数分で申し込める。
人間とは、
不思議な生き物です。
そして、講座は、
希望者が何人か集まって
受講する形式のようです。
オンラインの画面に、
小さな四角がいくつか並ぶ。
先生が話している間、
ほかの受講者の話を
うなずきながら聞く。
質問されても、誰かが先に
答えてくれるかもしれません。
私は受講者の一人として、
ほどよく集団に紛れ、
一日を終える予定でした。
ところが、しばらくして
先生から連絡が来ました。
人数が集まらなかったため、
講座は開催されないという
お知らせでした。
残念に思うと同時に、
心の奥には、小さな安堵も
ありました。
講座がなくなった。
つまり、その日は整理収納
について学ばなくてよい。
もちろん、片づけもしなくて
よい。
先生からのメールには、
別の希望日を知らせて
ほしいと書かれています。
私は日程の一覧を眺めました。
そして、いくつかある候補の
中から、なんとなく、人が
集まりそうにない日を
選びました。
わざとではありません。
無意識です。
しばらくして、先生から
メールが届きました。
やはり、その日に申し込み
をしたのは私一人でした。
私の読みは当たりました。
今度の講座も、おそらく
開催されない。
しかし、メールには続きが
ありました。
一度、人数不足で開催できず、
別の日を選んでもらったのに、
また開催できないのは申し訳ない。
そのため、今回は一対一でも
開催する。
先生は、そう書いていました。
非常に親切な先生です。
オンラインの画面に並ぶ四角は、
二つ。
先生と、私。
先生が問いかければ、
必ず私が答えます。
整理収納について意見を
求められれば、
受講者代表も私です。
というより、受講者全体が
私です。
何人かの中に紛れる予定
だった私は、先生から
一対一で、みっちり
教わることになりました。
人が集まりそうにない日を
選んだ結果、不可抗力で
整理収納の先生を独占
ことに成功したのです。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
私はもう、片づけから
逃げているだけの人間では
ありません。
逃げ続けた末に、
整理収納の専門家から
個人指導を受けるところまで
進んだ人間です。
無敵だ。
最強だ。
普通に申し込んでいれば、
何人かの受講者と一緒に
話を聞いていたはずです。
しかし私は、二度の人数不足を
くぐり抜け、マンツーマンの
場所までたどり着きました。
先生は、まだ私の部屋を
見ていません。
それなのに、私の逃げ道を
すっかりきれいに片付けました。
