AIに完璧な片づけ計画を立てさせた夜
深夜1時。
私はパソコンの前で、
片づけ計画の完成度について
考えていました。
原因は、AIです。
少し前、私は計画の実行に失敗しました。
午前中にひとつ用事を終わらせて、
午後は作業を進めて、夜は片づけもする。
そういう、いかにもできそうで、
実際にはかなり危うい計画を立てたのです。
しかし私は、その計画をAIに
レッドチームとして検討させ、
見事に破壊されました。
午前中にひとつ、は曖昧。
午後は作業、は広すぎる。
夜は片づけ、は夕方の私をなめている。
私はその分析に深く納得し、
最終的に、戦略的ぐーたらという
高度な判断を下したのです。
あれから、私は毎日ぐーたらしていました。
いや、正確に言うと、反省はしていました。
人は同じ失敗を繰り返してはいけません。
脆弱な計画を立てて、また冷徹に
潰されるようなことがあってはならないのです。
だから私は考えました。
必要なのは、素人の思いつきではありません。
最初から専門家を呼ぶことです。
私はAIに言いました。
「片づけ計画を作るために、私にぴったりな
専門家を三人選んで」
AIはすぐさま答えました。
「未桜さん、了解しました。
今回の目的に適した三名を選定します。
第一に、行動設計の専門家。
第二に、整理収納の専門家。
第三に、先延ばし対策の専門家です」
私は続けて言いました。
「その三人で話しあって。
しかも、なれ合いじゃなくて、
レッドチームで。
いちばん崩れにくい計画にして」
AIは、また、うなずきました。
「了解しました。
では、片づけ計画に対して、
専門家同士で相互批判を行い、
最終案を統合します」
私の前には、行動設計軍師、整理収納軍師、
先延ばし対策軍師がそろっていました。
まず、行動設計軍師が言いました。
「いきなり部屋全体を対象にすると失敗します。
着手単位は十分以下、対象範囲は視界に
入る一角まで絞るべきです」
すると、整理収納軍師がすぐに反論しました。
「それでは達成感が弱いです。
小さすぎる作業は、片づけた実感が出ず、
継続につながりません。
最低でも、机上、棚一段、床一面など、
変化が見える単位が必要です」
そこへ、先延ばし対策軍師が割って入りました。
「どちらも甘いです。
問題は範囲ではなく、
開始前の心理抵抗です。
本人は、始める前に布を探したり、
捨てる基準を考えたり、
収納グッズを調べたりして止まります。
初手から判断を減らす設計が必要です」
全員、かなり本気です。
議論は続きました。
片づけは朝にやるべきか、夜にやるべきか。
捨てる判断を先にするか、移動だけにするか。
タイマーは十五分か、二十五分か。
音楽はあった方がいいか、それとも気が散るか。
しかも、誰も私を励ましません。
「未桜さんならできます」みたいな、
あの、ふんわりした優しさがないのです。
ただ、崩れにくさだけを見ています。
私は、だんだん圧倒されてきました。
最終的にAIは、三人の議論をまとめて、
計画を提示しました。
一、開始前に捨てるか残すかは決めない。
二、対象は机の右上三十センチ四方に限定する。
三、作業時間は十二分。
四、終了後に拡張しない。
五、次回の開始地点だけ記録する。
六、できた量ではなく、
開始できたかで評価する。
これはもう、ただの計画ではなく、
完璧な設計図です。
しかも、そこらの気合い頼みの片づけ計画
とは違います。
私のような人間が、どこで止まり、
どこで逃げ、どこで迂回するかまで
織り込まれている。
私は思いました。
ここまで完成度の高い計画を、
いきなり私が実行してしまっていいのだろうか。
そんなことをしたら、この計画の価値を、
私が雑に消費することにならないか。
名将が立てた完璧な作戦を、初日に素人が
現場判断で台無しにする。
あれに近いことが起きるのではないか。
私は、急に慎重になりました。
完璧な計画というのは、
完璧だからこそ扱いが難しいのです。
下手に着手して、途中でお茶を飲み、
関係ない引き出しを開け、しまい込んでいた
懐かしい本を読み始めたらどうするのか。
そんなことで、この美しい計画に
傷をつけてよいのか。
私はAIに聞きました。
「この計画って、かなり完成度が高いよね」
AIは答えました。
「はい。現時点では、本人の先延ばし傾向と
判断負荷を考慮した、比較的実行可能性の
高い案です」
やはりそうか。
私は深くうなずきました。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
私はもう、計画もなく
ぐーたらする人間ではありません。
高度に設計された片づけ計画を前に、
その価値を守るため、
軽々しく実行に移さない人間です。
無敵だ。
最強だ。
完璧な計画は、雑に使ってはいけません。
まずは眺める。
理解する。
必要なら印刷する。
少し離れた位置から味わう。
これは、片づけ前のぐーたらではありません。
運用前の鑑賞です。
私はパソコンを閉じました。
明日もたぶん、すぐには片づけません。
でもそれは、何も考えていない人間の
先延ばしではありません。
三人の軍師が練り上げた傑作を前にした、
敬意ある保留です。
