軍師に片づけ計画を見せたら、やらなくてよくなった
深夜1時。
私はパソコンの前で、
明日の計画を決行するか否かを
考えていました。
原因は、AIです。
その夜の私は、めずらしく、
かなりちゃんとしていました。
明日は午前中にひとつ用事を終わらせて、
午後は作業を進めて、
夜には少し片づけもする。
かなり立派な計画です。
少なくとも、ぐーたらな人の計画には
見えません。
私は、少し気分がよくなりました。
まだ何もしていないのに、
もう半分くらいできた気がする、
あの感じです。
ふつうなら、AIに
ここで励ましてほしいところです。
でも、その日の私は、
少しだけ余計な知性を発揮していました。
「この計画、レッドチームとして見て」
デビルズ・アドボケートが「本当に正しい?」
と詰めてくる論破王なら、
レッドチームは「どうすれば失敗するか」を
嬉々として練る軍師です。
AIは、うなずきました。
「未桜さん、了解しました。
では、この計画をレッドチームとして
失敗させる側の視点から、弱点を検討します」
その夜のAIは、もう相談相手ではありません。
私専用の冷徹な軍師です。
冷徹な軍師(AI)は、闘気を
静かに漂わせながら言いました。
「第一に、午前中にひとつ用事を
終わらせるは脆弱です。
定義が曖昧な予定は、起床後の
判断回数を増やします。
判断が増えれば着手は遅れます。
最初の一手として、
ここは容易に停止させられます」
「第二に、午後は作業を進めるは、
防御力が低い表現です。
範囲が広く、完了条件も見えません。
この種の予定は、少し調べてから、
机を整えてからといった迂回行動を
差し込むだけで、本題への着手を
遅らせられます。
崩しやすい箇所です」
「第三に、夜の片づけは、
すでに半分陥落しています。
夕方以降の本人は、気力と判断力が落ちます。
そこに今日はここまででも十分ではないか
という撤退案を与えれば、
片づけは高確率で翌日以降になります」
私は完璧だと思った計画をボロボロに
言われて、イラつきながら言いました。
「いや。でも、午前中にひとつ終われば、
そのまま流れでいけることもあるよ」
冷徹な軍師はすぐに答えました。
「その流れでいけることもあるは、
計画ではなく希望です。
希望は、攻撃側にとって
最も扱いやすい要素です」
私は、しばらく黙って画面を見ていました。
最初は、防御のために聞いたはずでした。
敵の考えを知れば、対策できると思ったのです。
でも読んでいるうちに、
少しずつ気持ちが変わってきました。
この計画、そんなに穴だらけなのか。
そんなに脆弱なのに、
私は明日これを実行しようとしていたのか。
それは、もう、無理に進軍させては
いけないのではないか。
私はAIに聞きました。
「つまり、敵の視点から見ると、
この計画は危険ということ?」
AIは答えました。
「はい。現状のままでは、
高い確率で遅延、縮小、
または未完了に至ると考えられます」
私は深くうなずきました。
やはりそうか。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
私はもう、明日の自分を
甘やかしている人間ではありません。
脆弱な作戦を前に、被害拡大を防ぐため、
あえて動かない判断を下せる人間です。
無敵だ。
最強だ。
計画の中止。
これは、ぐーたらでも怠惰でもありません。
損害の抑制です。
冷徹な軍師の分析結果を踏まえた、
慎重な運用です。
実行すれば崩れる。
崩れれば自己評価が下がる。
ならば最初から無理に動かない。
私は紙に書いた予定を見ました。
午前中にひとつ。
午後は作業。
夜は片づけ。
甘い。
あまりにも甘すぎる。
敵に見せたら、一日で落ちる城です。
明日だらだらしても、
それは負けではありません。
敵の攻撃パターンを把握したうえで、
あえて前線を下げる高度な判断です。
私はパソコンを閉じました。
明日の私は、ぐーたらします。
でもそれは、何も知らずに
ぐーたらするのではありません。
冷徹な軍師の知見を踏まえた、
戦略的ぐーたらです。
