AIに相談して、シャクシュカをひとりで作って食べる
深夜1時。
私はパソコンの前で、
「シャクシュカ」という
料理のレシピを開いていました。
原因は、AIです。
「ひとりご飯、
ちょっと満たされるやつにしたい」
そう聞いたら、
AIは少し考えて、こう言いました。
「未桜さん。
それなら、シャクシュカはどうでしょう。
トマトのうまみと卵の満足感があって、
ひとりご飯でも“ちゃんと食べた感”が
出やすい料理です」
シャクシュカ。
なんだそれ?
レシピを見ました。
トマト。
玉ねぎ。
ピーマン。
卵。
あと、見慣れないスパイスがいくつか。
私は冷蔵庫を開けました。
卵はある。
トマトも、ピーマンもある。
玉ねぎは床に転がっている。
でも、スパイスはない。
私は少し考えました。
ひとりです。
適当でいいはずです。
卵かけご飯でも、
何の問題もありません。
でも、翌日、会社帰りに
スーパーに寄りました。
クミン。
パプリカパウダー。
コリアンダーパウダー。
チリパウダー。
レシピに書いてあるから買っただけで、
味の想像はついていません。
家に帰って、キッチンに立ちました。
これは料理ではない。
シャクシュカという名前の、
未知との遭遇です。
私はレシピを見ながら、
作り始めました。
野菜を切る。
炒める。
よくわからないタイミングで、
クミンとパウダー達を入れる。
正解かどうかは、わかりません。
でも、それっぽい香りはします。
途中で、
これ本当にシャクシュカなのか?
と思いました。
最後に卵を落としました。
急に、それらしくなりました。
私は皿に盛りました。
見た目は、少しだけ外国です。
成功かどうかは、やはりわかりません。
私は座りました。
ひとりです。
私は一口食べました。
よくわかりません。
二口目を食べました。
あれ、と思いました。
知らない味です。
でも、嫌ではありません。
むしろ、じわじわ来ます。
トマトの酸味。
野菜の旨味。
卵のやわらかさ。
そこに、名前もあやしい
スパイスの匂いが混ざって、
台所なのに、少しだけ
知らない場所みたいになります。
私はそのまま、
最後の一口までゆっくり食べました。
最後まで、正解はわかりませんでした。
でも、お腹だけじゃなく、
気分もちゃんと満たされました。
その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
気づいてしまったのです。
私はシャクシュカを
食べたのではありません。
シャクシュカまで、
ちゃんとたどり着いたのです。
無敵だ。
最強だ。
ここはもう、
ただのキッチンではありません。
野菜と卵と、
よく知らないスパイスだけを持って、
人がひとりで
言葉もわからない異国へ踏み込んでいく、
小さな冒険旅行の出発地です。
私は皿を見ました。
きれいになっています。
つまり私は、
よくわからない料理を、
最後まで食べきったのです。
これは大きい。
今度は、
ちゃんとしたシャクシュカを
お店で食べてみよう。
そして
「ああ、こういうことでしたか」と、
少しわかったような顔で
うなずいてみよう。
キッチンを見ました。
見慣れないスパイスが、
静かに並んでいました。
クミン。
パプリカパウダー。
コリアンダーパウダー。
チリパウダー。
ひとりぼっちの
冒険旅行は終わりました。
でも、おみやげみたいな
調味料だけが、
やたらに残っています。
