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近年、金が高騰しているのに父は濾そうとした

深夜1時。
私はパソコンの前で、
金粉について考えていました。

原因は、AIです。
いや。正確には、父です。

先月、Amazonの
プライムセールを
眺めていたときのことです。

特に買うものは
決めていませんでした。
必要なものを探している人は、
必要なものを買います。
何も探していない人は、
金粉入りの日本酒を見つけます。

「澪 PREMIUM〈GOLD〉
純金箔入」
という、名前だけで既に
おめでたいお酒でした。

澪。

待てよ。

以前、Bar Night Owlsの
キマママスターが、
私の名前と同じ読みの
日本酒として教えて
くれたものではないか。

マスターは、
こう書いていました。
「未桜さんと同じ読みの
『澪』も有名ですが、
こちらは甘めな感じです」

ただし、マスターが
おすすめしてくれたのは、
普通の澪です。

金粉については、
ひと言も触れていません。

しかし、せっかく
プライムセールで
安くなっている。

同じ澪なら、
金が入っているほうが、
より澪なのではないか。

私は購入ボタンを
押しました。

未桜が、澪を買う。
同じ「みお」の世界でも、
向こうは既にプレミアムです。

数日後。
めでたそうな箱に
入った澪が届きました。

その頃、ちょうど父から、
ある要望を受けていました。

父の日に贈った獺祭の
スパークリング。
それをもう一度買って
ほしいというのです。

日本酒。
スパークリング。

澪も、だいたい同じです。

私は、かなり大ざっぱな
分類で、澪を実家へ
持ち込みました。

父は、瓶を見るなり
金粉に気づきました。
「金が入ってるじゃないか」

父は、近年、金の価格が
高騰していることも
知っています。

金は高い。
金は貴重。
瓶の中を漂っているものは、
その金である。

父のグラスに注ぐと、
細かな泡と一緒に
金粉が舞いました。

華やかです。

お正月でもないのに、
食卓だけが迎春になっています。

父は、ひと口飲みました。
「これ、ワインみたいで
おいしいな」

父はワインが好きです。
日本酒を飲んで
「ワインみたいだ」と
言うのは、父の中では
かなりの高評価です。

ところが、父はグラスを
持ち上げ、中をじっと
眺めました。

金粉が、泡の間を
ゆっくり漂っています。

そして、言いました。
「でも、この金粉、
ゴミみたいじゃないか」

なんて言いぐさだ。

私は憤慨しました。

それに気づかず、父は
言います。
「これ、濾したら最高なのにな」

濾す。

父は、人々が欲しがっている
金を、茶こしか何かで
取り除こうとしていました。

人類は昔から、砂の中から
金を探してきました。
砂を濾し、砂を捨て、
金を残します。

ところが、父は違います。
酒を濾し、金を捨て、
酒だけを残そうとしています。

私はぷりぷりしながら
AIに言いました。
「金が高騰していることを
知りながら、
金粉入りのお酒を見て、
ゴミみたいだから
濾したいと言う人のこと、
どう思う?」

AIは答えました。
「未桜さん、金銭的な価値と、
飲み物としての好みを
分けて考えているのでしょう。
高価なものでも、
本人にとって不要なら、
取り除きたいと
感じることはあります」

AIまで父の側につきました。

高価なものが入っている
からといって、
喜ぶとは限らない。
金であっても、
邪魔なものは邪魔らしい。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

価値があるものと、
そこに必要なものは、
同じではありません。

無敵だ。
最強だ。

これから、
誰かがありがたそうなものを
差し出してきても、
無理に喜ばなくていい。

ありがたそうな言葉。
立派な理念。
親切そうな助言。

金粉のように光っていても、
自分のグラスの中で
ゴミに見えるなら、
そっと濾せばいいのです。

父は、澪を飲みながら
言いました。
「金粉なしで、
これを売ってくれんかな」

マスターが勧めてくれた
普通の澪があります。


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