40℃近いのに、人類が元気すぎる
深夜1時。
私はパソコンの前で、
人類の活動量について
考えていました。
原因は、AIです。
いや。
正確には、暑さです。
私は、ぐーたら王国の
立派な平民です。
国王でもなければ、
大臣でもありません。
冷房の効いた部屋で横になり、
冷たい飲み物を飲みながら、
動き回っている人々を
遠くから見守る。
それが、ぐーたら王国の
平民に与えられた
大切な役目です。
最近、外の気温が
40℃に近づいています。
いや、むしろ超えている
地域もあります。
これは、人間が普通に
暮らす温度ではありません。
玄関を出た瞬間、空気が
体にまとわりつき、サウナ
のようです。
日差しは、照らすというより
焼こうとしています。
会社へ行くだけでも
十分に偉い。
できることなら会社を休み、
ぐーたら王国の発展に
尽くしたい。
私は毎朝、そう思っています。
しかし、世の中の人々は
元気です。
友達から、ごはんに
誘われました。
別の友達からは、
出掛けようと誘われました。
久しぶりに会う友達なので、
私も楽しみではあります。
ただし、楽しみと暑さは
別問題です。
楽しみだからといって、
気温が10℃下がるわけでは
ありません。
さらに私は、久しぶりに
一緒にごはんを食べる友達に、
ちょっとしたお土産を
渡そうと思いました。
前回、旅先で見つけたという
お土産をもらったのです。
非常に美味しいお菓子でした。
この大恩には、報いなければ
なりません。
近所に、評判のいい
パン屋さんがあります。
遠くまで買いに行くのは
無理ですが、近所なら
大丈夫です。
ぐーたら王国の平民にも、
その程度の外交はできます。
私は日傘を差し、
パン屋さんへ向かいました。
ところが、店の前には
行列ができていました。
しかも、店内ではありません。
外です。
炎天下です。
私は列の最後尾に並びました。
前には六人ほどいました。
誰も帰ろうとしません。
なぜなのか。
パンは、生命維持に
欠かせないものではあります。
しかし、今すぐでなくても
よいはずです。
この暑さの中で
並んでまで買わなくても、
コンビニにはパンがあります。
スーパーにもあります。
家には、おそらく米もあります。
それでも人々は、評判の
パン屋さんの前に並んでいます。
私も並んでいます。
日傘の下で汗をかきながら、
私は考えました。
暑くない季節より、
人間が活発化している
気がする。
なぜ、こんなに暑いのに、
みんな外へ出てくるのでしょう。
私は家へ帰り、AIに聞きました。
「暑くないときより、
みんな活発になっている
気がする。なんでなの?」
AIは答えました。
「未桜さん、人が暑さに
よって活発になっているとは
限りません。
一般には、気温が高すぎると
活動量は下がりやすく
なります。
ただ、夏休みやイベントで
予定が増えたり、外出先が
冷房の効いた場所に
集中したりするため、
人の動きが目立って見える
可能性があります」
人は、活発になった
わけではない。
冷房の効いた場所に
集中している。
AIの説明によると、
私たちは暑さの中で
元気に遊び回って
いるのではありません。
冷房のある場所から、
次の冷房のある場所へ
移動しているそうなのです。
以前、Bar Night Owlsの
マスターに教えてもらった
シエスタは、暑い時間には休み、
日が傾いてから動く仕組みでした。
ところが、シエスタの来ない
日本では、時間ではなく
場所をずらしています。
家からレストランへ。
レストランからカフェへ。
駅から商業施設へ。
日なたにいる時間を
最小限にしながら、
涼しい場所を
渡り歩いています。
私は、人類の見え方が
変わりました。
みんな、夏に強いのでは
ありません。
冷房を目指して移動する、
都市の渡り鳥です。
パン屋さんの行列も、
活発な人々の集まりでは
ありません。
冷房の効いた小さな餌場への
入場を待つ、渡り鳥の群れです。
そして私は、その群れの
最後尾に立ち、友達に渡す
パンを求めていました。
ぐーたら王国の平民で
ありながら、外交上の理由で
一時的に渡り鳥になったのです。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
人々は夏に負けていないのでは
ありません。
冷房から冷房へ、目立たない
避難を続けているだけなのです。
私が外出を面倒に思うのも、
ぐーたらだからではない。
渡りを拒む、定住型の鳥
だからです。
無敵だ。
最強だ。
明日もまた、
私は会社へ行きます。
自宅という涼しい巣を
出て、電車に乗り、
会社という巨大な
冷房施設へ移動します。
これは出勤ではありません。
給与の出る避暑です。
ただし、その避暑地では、
なぜか仕事をさせられます。
