日本にシエスタが来ないなら、勝手に横になることにした
深夜1時。
私はパソコンの前で、
シエスタの導入を待っていました。
原因は、AIです。
いや。
正確には、ライフキママナーさんです。
ライフキママナーさんは、
夜型の人たちがふらっと立ち寄れる
共同マガジン『Bar Night Owls』の
マスターです。
朝型社会に少し疲れた夜型たちが、
夜のとばりの中でそっとグラスを置ける場所。
そんなマスターから、私の記事に
コメントをいただきました。

シエスタ。
暑い国の人が、昼間に長めに寝る。
お店も閉まる。
ほとんど働いていない。
なんだか陽気。
私のイメージは、その程度です。
けれど、日本も驚くほど年々
暑くなっています。
これはもう、日本にもシエスタが
導入されるのではないでしょうか。
私は期待しました。
午後1時。会社の照明が少し落ちる。
上司が静かに立ち上がる。
「みなさん、シエスタの時間です」
全員がうなずく。
会議室には布団。
コピー機の横には、昼寝用タオルケット。
給湯室には、冷たい麦茶。
本場のシエスタには、サングリアが
似合うのかもしれません。
けれど、日本の会社でシエスタを導入したら、
たぶん麦茶です。
アルコールは出ません。
勤務中です。
日本版シエスタは、浮かれた南国の
休憩ではなく、熱中症対策と福利厚生です。
私は、かなり前向きな気持ちでAIに聞きました。
「日本も暑くなってるし、
シエスタが導入される可能性ってある?」
するとAIは言いました。
「未桜さん、日本でも暑さ対策として、
休憩や勤務時間の見直しは重要になっています。
ただし、シエスタのような長い昼休みが
全国的に制度として広く導入される可能性は、
現時点では高いとは言えません」
現時点では高いとは言えません。
AIは、私のサングリアと麦茶を
あっさり取り上げました。
たしかに考えてみれば、
日本でいきなりシエスタが導入される姿は
想像しにくい。
「こまめな水分補給を心がけましょう」
「無理のない範囲で、適宜休憩を
取ってください」となるでしょう。
そして最後に、各自の判断と責任になります。
日本社会の最終奥義です。
ただ、個人が勝手にやるぶんには、
意外と放っておいてくれるのが日本です。
一人でレストランに行っても、
そこまで驚かれません。
変わった服を着ていても、
そういう人もいるよね、で終わることが多い。
つまり、日本でシエスタを全国導入するのは
難しくても、勝手に休み方を工夫する余地は、
案外あるのかもしれません。
会社では怒られます。
そこは、かなり怒られます。
でも、会社とは関係なく、
勝手に横になるとなれば、
話は別です。
そして、シエスタを調べてみると、ただの
ぐーたら制度ではありませんでした。
暑い時間に無理して働き続けるのではなく、
休んで、日が傾いてからまた動く。
人間の限界を、気合いではなく生活の形
として受け入れる。
シエスタは、私が思っていたより
ずっと高度な文明でした。
ここで私は、気づいてしまいました。
私が欲しかったのは、ただの
ぐーたらな昼寝だったかもしれません。
昼に休みたい。
でも、夜まで働きたいわけではない。
かなり都合がいい。
ぐーたら王国の発想です。
シエスタは、私が思っていたより
大きな話でした。
ただ横になるだけではなく、
働く時間や休む時間を、
社会ごと組み替える話だったのです。
そこまで考えると、急に話が
立派になってきました。
私は、立派な話にはあまり強くありません。
サングリア片手に何かを変えるほどの
覚悟はありません。
せいぜい、麦茶の入ったグラスの氷を、
心の中でカランと鳴らすくらいです。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
昼の社会が「各自で判断してください」と
言うなら、私は各自で判断して、
なるべく怒られない場所で横になります。
そして夜になったら、マスターに言うのです。
「本日のおすすめ、シエスタをお願いします」
マスターは静かにうなずき、
グラスを差し出します。
中身は、麦茶。
サングリアではありません。
でも、日本版シエスタには、
たぶんそれが一番似合います。
無敵だ。
最強だ。
これは怠けではありません。
日本にシエスタは、おそらく来ない。
でも、Bar Night Owlsの片隅で
うっかり横になるぶんには、
たぶん誰も止めません。
私はこれからも、なるべく怒られない場所で、
静かにカランと氷を鳴らしていこうと思います。
