サングリア、ついにお酒をやめる
深夜1時。
私はパソコンの前で、
またサングリアについて考えていました。
原因は、AIです。
いや。お店の人です。
その日、久しぶりに会う人たちと、
おしゃれで落ち着いたお店で食事をしました。
ただし、その日の私は、
良性ポリープを取った二日後でした。
つまり、お酒禁止です。
この日だけは、私は完全に水側の人間です。
お茶。炭酸水。ジンジャーエール。
そのあたりの国民として、
おとなしく過ごす予定でした。
ところが、お店の方が言いました。
「ノンアルコールの
自家製サングリアがおすすめですよ。
刺激も少ないです」
ノンアルコールのサングリア。
以前、私はスペインでサングリアに
出会いました。
フルーツが、もりもり入っていて、
冷たくて、爽やかで、
どう考えてもジュース側の飲み物でした。
でも、AIに聞いたら、あっさり言われたのです。
「一般的にはアルコール飲料です」
理屈ではわかっています。
サングリアはワインが入っている。
だからお酒です。
でも、見た目があまりにも楽しそうなのです。
フルーツがいる。
色がきれい。
飲みやすい。
ついでに、スペインでは魚の形の
入れ物に入って出てきたこともあります。
お酒なのに、だいぶ陽気です。
そんなサングリアが、
今度はノンアルコールになって、
私の前に現れようとしている。
私は思いました。
ついに、こちら側に来たのか。
運ばれてきたサングリアは、
スペインで見たものとは少し違っていました。
フルーツが、すごく小さく、
きれいに四角く切られていました。
りんご、オレンジ、ベリー。
いろんな色が、グラスの中に整列していました。
スペインのサングリアは、
もっと大きめに切られたフルーツが、
どん、と入っていました。
あちらは、フルーツたちが「来たぞ」
と言いながら入っている感じです。
今回のサングリアは違います。
小さな四角いフルーツたちが、
かわいく上品に身なりを整えて、
グラスの中で待っていました。
しかも、炭酸のようなシュワっとした
感じがありました。
爽やか。
きれい。
飲みやすい。
そして、味は、ちゃんとサングリアでした。
あの、フルーツと、爽やかさと、
少しだけ異国っぽい感じ。
グラスの中にある、ちょっとした旅先を
感じさせる雰囲気。
それは、お酒を抜かれても、
まだ残っていたのです。
帰ってから、私はAIに聞きました。
「ノンアルコールのサングリアって、
サングリアなの?」
AIは答えました。
「未桜さん、一般的には、
ワインの代わりにぶどうジュースや
ノンアルコールワインなどを使い、
果物や炭酸などを加えて作る飲み物です」
ぶどうジュース。
私は、そこで少し勝った気がしました。
やはり、そちら側ではないか。
私はずっと思っていました。
サングリアは、お酒の国に住んでいるけれど、
実は、ジュース側に片足を
出しているのではないか。
今回、その疑惑は深まりました。
サングリアは、ワインを抜かれても、
元気でした。
むしろ、きれいな四角いフルーツを連れて、
シュワっとした顔で、
普通にこちらへ来ました。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
人はたぶん、名前の中に残っている
印象だけで、かなり楽しめることがあります。
お酒が入っていなくても、
サングリアはサングリアのふりをする。
そして私は、そのふりにかなり満足する。
無敵だ。
最強だ。
サングリアは、国境地帯の川の近くに
住んでいるだけではありませんでした。
ときどき、ちゃんと橋を渡ってジュースの国へ
来るのです。
