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来週になったら、骨が折れているかもしれない

深夜1時。
私はパソコンの前で、
骨について考えていました。

原因は、AIです。
いや。正確には、
父の足の指です。

父の日に柱に打ち付けて
完敗した父の足指は、
翌日になっても、まだ
負けていました。

父は、足を引きずらないと
歩けません。

父の日には、足が痛いまま
大好物のカツを食べ、
食欲では柱に勝ちました。

しかし、歩行では、
まだ柱の支配下にあったのです。

母は朝一番でさっそく父を
病院へ連れていきました。

こういうときの母は
早いのです。

洗濯物を取り込む速さと、
病院に連れていく速さだけは、
家族の中で群を抜いています。

病院でレントゲンを
撮ってもらった結果、
先生は言いました。
「骨は折れていませんね」

普通なら、そこで話は
終わりです。
骨は折れていない。
めでたし、めでたし。

ところが、父はイマイチ
納得しませんでした。

痛い。
めちゃくちゃ腫れている。
歩けない。
なのに、折れていないなんて。

そして、先生は続けて
言いました。
「来週、もう一度
レントゲンを撮りましょう」

骨は折れていないのに、
来週また撮る。

父も母も、その場では
「そういうものなのか。
来週も診てもらえるなら
いいや」と思って予約を
取って帰ってきました。

でも、私はその話を
聞いた瞬間、
ひっかかりました。

今は折れていない。
でも、来週は折れている
かもしれない。

そんなことがあるのか。

私はAIを呼び出しました。
「足の指の骨は折れてないって
言われたのに、来週もう一度
レントゲンって言われた。
来週になったら折れてるって、
どういうこと?
ヒビが入っているところが割れて、
だんだん悪化するってこと?」

AIは、いつものように
落ち着いて答えました。
「未桜さん、来週になって
新しく骨が折れるという
意味ではありません。
初回のレントゲンでは
骨折線がはっきり
見えないことがあります。
腫れや痛みが強い場合、
時間が経ってから再度撮影すると、
骨折の有無がわかりやすく
なることがあります」

来週、骨が折れるわけではない。
来週、骨が自白するかもしれない。

今日、レントゲンに写されても、
黙秘した父の指。
そして来週。
「実は、ちょっとやってました」
と、白状するかもしれない父の指。

私はAIにさらに聞きました。
「つまり、今は無罪判決
じゃなくて、証拠不十分で
一旦保留ってこと?」

AIは、たぶんそこまで事件に
したくなかったのでしょう。
「近い表現をすれば、
現時点では明らかな骨折は
確認できない、という状態です。
ただし症状が強い場合は、
経過を見て再確認することが
あります」

折れているとも、
折れていないとも、
完全には言い切らない。

父の足の指は、
グレーゾーンにいました。

人間界には、思ったより
グレーゾーンが多い。
仕事でもそうです。

「大丈夫です」と言われたのに、
ぜんぜん大丈夫ではないことが
あります。

「確認します」と言われたまま、
どこかへ逃亡する確認もあります。

「前向きに検討します」は、
前を向いたまま微動だに
しないことがあります。

骨ぐらい、
はっきりしてくれても
いいのに。

父は帰宅後も、足を
かばいながら歩いていました。
診断名がつかなくても、
現実の足は痛い。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

世の中には、すぐに
白黒つかないことがある。

だからといって、痛みまで
なかったことにはならない。

無敵だ。
最強だ。

父の足の指は、来週もう一度、
病院で事情聴取を受けます。

骨が最後まで黙秘するのか。
それとも、うっすら
自白するのか。
まだわかりません。

ただひとつ確かなのは、
父の日の獺祭が、
まだ冷蔵庫で
待機していることです。

骨の判定より先に、
父が飲みたがる可能性があります。
そこだけは、かなり黒に近い
グレーです。


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