ポップなペンギンを作ったはずが、背景は老舗喫茶店
深夜1時。
私はパソコンの前で、
美意識について考えていました。
原因は、AIです。
いや。正確には、2冊目の
ぬり絵本です。
Kindle出版でインバウンド
ぬり絵長者を目指した私。
1冊目の猫のぬり絵本が、
ある程度形になってきたころ。
気の早い私は、
1冊目が完成する前に
もう1冊作り始めました。
今度の主役は、ペンギンです。
猫は、雨上がりの日本を
歩きました。
ペンギンは違います。
日本の食べ物や温泉を、
スケール感を完全に無視して
楽しむ本です。
メロンソーダの巨大グラス
の中を泳ぐ。
オムライスの山を登る。
温泉につかる。
架空の原宿でクレープを買う。
かなりばかばかしい。
でも、私は本気です。
YouTubeで海外から
日本に来た観光客の
女の子たちを見ていると、
みんな口をそろえて
言います。
kawaii。
海外から見る日本は、
私が思っているより、
ずっとかわいいのかも
しれない。
私はAIに、ペンギンを
描かせました。
ペンギンたちは
どんどんkawaii日本を
侵略していきます。
ただし、武器はありません。
あるのは、丸い目と、
短い足と、堂々とした
立ち姿だけです。
これは、猫の本より
ポップな明るさがある。
私は自画自賛しました。
ところがです。
1冊目の猫のぬり絵の
校正刷りを母に
見せびらかして言われました。
「カラー見本の色が暗いんじゃない?」
それを言われた私は気づきました。
ペンギン本も、色が渋い。
メロンソーダ自体は、
まあまあ明るい。
でも、問題は背景です。
背景が、渋い。
ものすごく渋い。
ペンギンはメロンソーダの
中で泳いでいるのに、
後ろの空気だけが、なぜか
老舗喫茶店の午後です。
主役はポップ。
でも、背景が
言っているのです。
「浮かれすぎるな」と。
これは、母に見せたら
言われるやつです。
「こっちも、色が暗いね」
私は、海外向けのkawaii文化を
形にしようとしていたはずです。
YouTubeで観光客女子が言う、
あのきらきらしたkawaii。
なのに、できあがったのは、
きらきらのkawaiiではありません。
ちょっと古い喫茶店の
メロンソーダみたいなkawaii。
私は、AIに絵を見せながら
聞きました。
「ペンギンはかなり
バカバカしいのに、
なぜか渋くなる」
AIは答えました。
「未桜さん、モチーフは
ポップですが、背景の
色選びにご自身の美意識が
強く出ています」
私は、さらに追及しました。
「海外向けのkawaii文化を
意識して作ったのに、
なんでこうなるの?」
AIは言いました。
「kawaiiを再現しようとしても、
最終的な背景の処理で、
未桜さんが落ち着いた色、
少しくすんだ色、レトロな色を
選んでいる可能性があります」
私は、自分の作ったペンギンを
見ました。
設定は、ちゃんとバカバカしい。
主役も、なんとなく
かわいい。
なのに、背景の色が、
すまして大人ぶっています。
猫は、雨上がりの村で
教えてくれました。
あなたは、しっとりした
日本が好きですね。
ペンギンは、メロンソーダの
中で教えてくれました。
あなたは、バカバカしいものでも、
どこか渋くしたいのですね。
これは、なかなか根深い。
kawaii文化を形にしようとしても、
私の中の渋色好みが顔を出すのです。
kawaii文化を作ろうとして、
背景に渋色文化を混ぜ込んで
いる人間が、海外のぬり絵
市場でどう見られるか。
AIにもわかっていない気がします。
AIは市場分析をします。
売れ筋も調べます。
差別化も提案します。
でも、最後に私が、背景を
くすませにいくところまでは
止めてくれません。
猫の本では、母に色の暗さを
指摘されました。
ペンギンの本では、母に言われる
前から、すでに同じ癖が出ていました。
つまり、これは無意識です。
ここまで来ると、もう事故では
ありません。
作風です。
でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。
かわいいを作ろうとしても、
渋くなる。
何を作っても自分の色が
出てしまうなら、それはもう
逃げ場のない個性です。
無敵だ。
最強だ。
私は、サンドイッチの上で
ヨガをするペンギンを
作りながら思いました。
次こそ明るくしよう。
そう決意した私の手は、
すでに背景の彩度を
下げていました。
