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父が先祖にロシアの人がいたらしいと言い出した夜

深夜1時。
私はパソコンの前で、
幕末について考えていました。

原因は、AIです。
いや。
正確には、父の「じゃない?」です。

前回、父は言いました。
「ロシアの人がいたらしいよ」
私のご先祖様の話です。

足の人差し指がきっかけで
始まった話は、どんどん
遠くへ行きました。

私の足がギリシャ型。
同じ足型を持つ父の高い鼻。
叔母の日本人離れした
若いころの写真。
叔父の鼻と長身。
そして、急に出てきたロシア。

ところが今回、私はさらに
余計なことを聞いてしまいました。
「それ、いつ頃の話?」

父は、言いました。
「幕末頃じゃない?」

じゃない?


そこは、そんな感じで
言っていいところなのでしょうか。
父の話は面白い。
でも、証拠としてはかなり弱い。

しかも、話はここで終わりません。
従姉妹も言い出したのです。
「私も、ロシアの人がいたって
聞いたことある」

しかも従妹は、従妹の父を通して、
親戚のおじさんやおばさんから
の情報を聞いたそうです。
父とは別ルートです。

父が一人で言っているだけなら、
作り話だと私はまだ笑っていられます。
でも、従妹も別のルートで
聞いていたとなると、話が
変わります。
少なくとも、父がその場で急に
ロシアを持ち出したわけでは
なさそうです。

しかも、この従妹がまた、
話をややこしくします。
従妹は、道を歩いていると、
しょっちゅう、外国人観光客から
「どこから来たの?」と
外国語で話しかけられます。

そこで、「日本人です」と言うと、
「嘘でしょ?絶対、日本人じゃないと
思って話しかけた」
そんなことを言われるのです。

さらに弟も、幼稚園の頃までの
写真を見ると、髪の毛が日本人
らしからぬ金髪寄りの茶色です。

従妹に対する
外国人観光客の確信。
弟の幼稚園時代の茶色い髪。
そして、父の「幕末じゃない?」。

証拠ではないものばかりが、
証拠っぽく集まってきます。

さらに、親戚に、家系について、
かなり調べた人がいたのです。
いたのですが、その人が調べた
家系図には、ロシア人は出て
こなかったのです。

こういうとき、人は何を信じれば
いいのでしょうか。

父の「幕末じゃない?」。
叔母の異国感。
叔父の鼻と長身。
従妹の「私も聞いたことある」。
従妹が外国人に間違われる話。
弟の幼稚園時代の茶色い髪。
親戚がかなり調べた家系図。
そして、私の足の人差し指。

冷静に考えると、足の人差し指は
関係ありません。
ただ長いだけです。

さらに、昔の記録も、役所の統合
などで所在がわかりにくく
なっています。

私はAIに聞いてみました。
「こういう話って、何をどれくらい
信じていいの?」

AIは答えました。
「未桜さん、家族の口伝には事実が
含まれることもあります。
ただし、時代や人物関係が曖昧に
なることもあります。
複数ルートで似た話があるなら、
何らかの記憶が親族内で共有されていた
可能性はあります。
ただ、記録で確認できない限り、
断定は難しいです」

いたかもしれない。
いなかったかもしれない。
日本名で書かれた誰かが
ロシア人だったのかもしれない。
あるいは、ロシアと関わりが
あっただけかもしれない。

わからないことだらけです。

しかも、この話は家族の中
だけでは終わりませんでした。

前回の記事のコメント欄が、
なぜか予告祭りになっていたのです。

「ボルシチとピロシキを
食べながら考えた」

「私のルーツを調べてみたら、
マトリョーシカにいきついた夜」

「次回、ロシアより愛をこめて」

しかも、ロシアだけではありません。
007版よりルパン三世版のほうが
好み、という情報まで出てきました。

私は鏡を見ました。
ちび。
日本人顔。

どう見ても、国際的な陰謀に
巻き込まれるタイプではありません。

それなのに、ギリシャ、ロシア、
幕末、マトリョーシカ、ボルシチ、
ピロシキ、007、ルパン三世。

私の足指には荷が重い。

靴下の中で静かに暮らして
いただけなのに。
私はちょっぴり、足の人差し指に
申し訳なくなりました。

でも、その瞬間。
私はまた一つ、
精神的無敵の人になりました。

人は、はっきりした記録だけで
できているわけではありません。
言い伝えと、勘違いと、記憶違い。

そういうものが勝手に集まって、
うちの家系かもしれません。

無敵だ。
最強だ。

私に、ロシアの血が入って
いるのかどうか、今のところ
わかりません。

ただ、ひとつだけ
わかっていることがあります。

私の足の人差し指は、今日も長い。

そして、ギリシャ型と呼ばれ、
父の「幕末じゃない?」に巻き込まれ、
ロシア方面へ話を飛ばされ、
ついにはコメント欄で
次回予告まで作られました。

もはや、ただの足指ではありません。

私は足元を見ました。
足の人差し指は、何も語りませんでした。
ただ、他の指より少し前に出ていました。

家系の謎も、ロシアの口伝も、
幕末の「じゃない?」も、
コメント欄の予告祭りも、
全部あとづけです。

最初から一番前に出ていたのは、
この足指でした。

どうやら、我が家の話を
いちばん遠くまで連れていったのは、
血筋ではなく、私の足の人差し指
だったようです。


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