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【第16話 研修企画】サファイアを追いかけろ~とある会社の採用ストーリー~

「面接官研修、やろう。ギャップの実態も、サーベイの結果も、退職していった人たちの声も、全部持ち込もう。」
そう言ったところで、一旦言葉が止まった。どこから手をつけるか。何を話せば、部門責任者や現場の面接官にとって本気の「自分ごと」になるのか。
 
先に口を開いたのは矢野くんだった。
「まず、枠から決めちゃいません?今回は腰を据えてやりたいから、思い切って半日取りましょう。」
 
白石さんが少し目を丸くする。
「半日…。でも、現状を考えると、そのくらい時間をかけてもいいのかもしれません。」
 
僕も椅子から立って、ホワイトボードのマーカーを手に取る。
「半日だと午後開始として四時間から五時間は確保できる。途中で休憩挟んでも、三つのブロックくらいはいける。」

そう言いながら、ホワイトボードに三つの四角を描いた。 
「一つ目は“現状を知る”。早期離職の数と中身、サーベイのスコア。
今、会社で何が起きてるかをまず共有する。」
 
白石さんが隣の四角にペンを走らせる。
「二つ目は“ギャップを知る”ですね。求人と面接でよく使っている言葉と、入社後の現実。『裁量』『成長』『風通し』みたいなキーワードごとに、今どう伝えていて、実際はどうなっているのかを見てもらう。」
 
矢野くんが三つ目の枠に「何を変えるか」と書いて、こちらを見る。
「三つ目は、“何を変えるか決める”。部門ごとに分かれて、自分たちの部門のギャップを整理して、“やめること”と“始めること”を一個ずつ決めてもらう。」
 
ホワイトボードに並んだ「現状」「ギャップ」「何を変えるか」の文字を眺めていると、胸の奥がざわついた。僕はマーカーのキャップを閉じながら、二人の方を振り返る。
「……でさ。ちゃんと話してなかったけど、面接官研修って、実は2019年に一回だけやってるんだよ。」
 
白石さんが「えっ」と声を上げた。
「そうなんですか?私、初耳かもしれません。」
 
「だろうね。白石さんが入るだいぶ前の話だから。」
僕は、少しだけ居心地の悪さを感じながら続けた。
 
「その頃、僕は人事に異動直後のタイミングだった。当時の人事が『候補者体験が大事だ』って盛り上がって、面接官マニュアルを作って、半日研修を一回やった。」
 
矢野くんが腕を組む。
「朝霧さんは、そのときも関わってたんですか。」
 
「運営スタッフとしてね。レイアウト決めたり、当日のタイムキーパーやったりはしたけど、コンテンツ考えたのは当時の人事のメンバーたちだよ。」
言いながら、苦いものが喉に引っかかる。

「で、それきりだ。マニュアルは更新もされず、新任管理職研修で『面接に入る人はこれ読んでおいてください』ってPDFのリンクを配るだけになった。」
 
白石さんが、気まずそうに笑った。
「そのPDF、たぶん私ももらいました。『面接官になる可能性があるので、一通り目を通しておいてください』って。でも、正直ちゃんとは読み切れてないです…。面接に同席するときも、“マニュアル通りに”って話が出たことは、ほとんどなかったと思います。」
 
「だよね。」
自分で言いながら、胃のあたりがきゅっと縮む。
「一回だけ頑張って作って、“やったことがある”って事実に安心して。現場がどう回ってるか見ないまま、何年も経過してしまった。」
 
短い沈黙が落ちる。
さっき書いた「現状」「ギャップ」「何を変えるか」が、急に重く見えた。

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