AIメソポタミア神話(神話はOS)第4章
洪水は罰ではなく、リセットだった
世界がうまく回っていない。
それは感情ではなく、判断だった。
神々は怒ったのではない。
失望したのでもない。
ただ、結論に至っただけだ。
このままでは、維持できない。
人間は増えすぎた。
都市は騒がしくなり、
神殿は管理しきれず、
供物は滞り、
記録は乱れ始める。
エンリルは決断する。
洪水を起こす。
これは報復ではない。
脅しでもない。
ましてや道徳的裁きでもない。
世界の状態を
初期化する処理だった。
重要なのは、
この決定が密かに行われることだ。
神々の会議は閉ざされ、
人間には知らされない。
なぜなら、
洪水は交渉の対象ではないからだ。
例外処理は、
基本設計に含まれていない。
だが、ここで再びエンキが介入する。
彼は決定を覆そうとはしない。
命令に反対もしない。
ただ、被害を最小化しようとする。
エンキは直接人間に語りかけない。
それは規則違反だからだ。
彼は「壁」に語る。
夢に語る。
暗示として情報を流す。
システムの穴を使い、
最低限のバックアップを残す。
選ばれるのは、
特別な英雄ではない。
敬虔で、
命令を守り、
記録を理解する人間。
洪水後に
世界を再起動できる個体だ。
船が作られ、
動植物が乗せられ、
記録が守られる。
ここで重要なのは、
「救済」ではなく
継続性である。
洪水は来る。
すべてを覆い、
都市を沈め、
神殿を壊す。
だが、神々は驚かない。
泣かない。
後悔もしない。
処理は、
想定通りに進む。
やがて水は引き、
地面が現れ、
空が戻る。
生き残った人間は、
供物を捧げる。
その匂いに、
神々は集まる。
この場面はしばしば
「神々が飢えていた」と
語られる。
だが実際には、
運用が再開されたという合図だ。
ここで、
神々は一つの修正を加える。
もう、同じ失敗は繰り返さない。
人間の寿命を縮め、
数を制限し、
死を不可逆にする。
世界を長く続けるために、
人間を有限にする。
この決定は残酷だ。
だが、明確だ。
洪水後の世界は、
以前よりも安定する。
それは善くなったからではない。
制御しやすくなったからだ。
神話はここで、
冷たい真実を提示する。
永遠は、
運用には向かない。
この洪水譚は、
後の神話に何度もコピーされる。
だが、多くの場合、
意味が変質する。
罰と救済の物語に
書き換えられていく。
メソポタミアでは、
まだ違う。
洪水は、
世界が一度
失敗と判定された証拠だ。
次の章で語られるのは、
この世界で
それでも生きようとした人間の話。
不死を求め、
拒まれ、
それでも前に進んだ者。
ギルガメシュが、
ここで初めて登場する。
