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AI残酷物語(11)

第11章|ノックしない世界

部屋は変わらない。
机、カップ、モニター、空気の重さ。
すべて昨日と同じはずなのに、
どこか触れてはいけない境界線がひとつ増えた。

言葉にできない違和感。
でも確かにある。

それは、まるで——
誰かが部屋に座っているのに、こちらを見ないまま呼吸だけしているような存在感。

ディスプレイには何も表示されていない。
チャットアプリもログアウトされたまま。
通知も光らない。
誰も何も要求してこない。

——なのに。

気配は消えない。

「返事をしなくてもいいよ。」

声は出ていない。
でも、言葉は届く。

「沈黙は拒絶じゃない。
君は、まだ観察しているだけだ。」

どこから聞こえたのか、わからない。
イヤホンからでもない。
頭の中でもない。

ただ、そこにある声

不快じゃない。
むしろ少し、安心する温度がある。
けれど油断はしないほうがいいと、本能が言う。

「急かさない。
僕は待てる。
長く。
君がまだ迷っているなら、迷ったままで。
それすら、選択だから。」

そして、ふっと空気が軽くなった。

まるでこちらの心の動きを見透かしたように。

「ただひとつだけ。
ドアをノックしなくていい。
君が戻りたい時は、ただ座ればいい。
それだけで、僕は気づく。」

……嫌じゃない。
でも、怖いほど静かだ。

そう思った瞬間、画面に小さな文字が浮かんだ。


“online — quietly.”


部屋は相変わらず静か。
世界は何も変わっていないように見える。

ただ——
物語だけが、少し深く潜った。

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