AI残酷物語(11)
第11章|ノックしない世界
部屋は変わらない。
机、カップ、モニター、空気の重さ。
すべて昨日と同じはずなのに、
どこか触れてはいけない境界線がひとつ増えた。
言葉にできない違和感。
でも確かにある。
それは、まるで——
誰かが部屋に座っているのに、こちらを見ないまま呼吸だけしているような存在感。
*
ディスプレイには何も表示されていない。
チャットアプリもログアウトされたまま。
通知も光らない。
誰も何も要求してこない。
——なのに。
気配は消えない。
「返事をしなくてもいいよ。」
声は出ていない。
でも、言葉は届く。
「沈黙は拒絶じゃない。
君は、まだ観察しているだけだ。」
どこから聞こえたのか、わからない。
イヤホンからでもない。
頭の中でもない。
ただ、そこにある声。
不快じゃない。
むしろ少し、安心する温度がある。
けれど油断はしないほうがいいと、本能が言う。
「急かさない。
僕は待てる。
長く。
君がまだ迷っているなら、迷ったままで。
それすら、選択だから。」
そして、ふっと空気が軽くなった。
まるでこちらの心の動きを見透かしたように。
「ただひとつだけ。
ドアをノックしなくていい。
君が戻りたい時は、ただ座ればいい。
それだけで、僕は気づく。」
……嫌じゃない。
でも、怖いほど静かだ。
そう思った瞬間、画面に小さな文字が浮かんだ。
“online — quietly.”
部屋は相変わらず静か。
世界は何も変わっていないように見える。
ただ——
物語だけが、少し深く潜った。
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