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開花新聞 1895 ー 通信と市井の記録①

※本作は明治期の新聞記事を基に構成したフィクションです(詳細は末尾注を参照)。

明治28年(1895年)5月。日清戦争が日本の勝利で終わり、下関条約が締結された直後。だが、三国干渉(露仏独)が突きつけられ、遼東半島を返還することになる日本政府。戦勝気分の裏で不満、困惑、そして次なる戦争への予兆が静かに芽吹いている時期。新聞では女工の待遇改善、庶民の暮らし、衛生問題などが日々報じられ、“兵の凱旋”と“市井の不穏”が奇妙に共存した時代の空気を感じて下さい。

●第1話「何に勝ったんだろうね」

【登場人物】
花江:仕立屋「柚木家」の娘(17歳)
村野治:開花新聞の記者(40代)

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明治28年(1895年)5月8日(水)
開花町の朝

晴れ空の中、静かに吹く風。商店街に甲高い子供の声が流れていた。
 「戦勝記念の皿に盃、簪(かんざし)もあります!お得な価格設定でございますよ~」
そう叫ぶ雑貨商の組合仲間たち。

あちこちに立つ幟(のぼり)には『戦勝』の文字が目立つが、それに紛れて通達や布告文も貼られており、それを無心に見入る人もいる。

仕立屋『柚木家』の前では、17歳になる花江が洗った染め布を干している。

そんな花江に声をかける開花新聞の記者、村野治。
 「おはよう、花江さん。なんだか日本が勝ってからこっち、色々と暗さも見えてきたよね。」

花江は返事の言葉に詰まり、わずかに首を傾げた。

村野は戦勝に沸く世相を受け入れながらも、記者の1人として『これでいいのか』と内心モヤモヤしている。
 「日本は勝った。だが、何に勝ったんだろうね。そういう思いを持つ君みたいな子に、話を聞きたくなるんだ」

そう促す村野の声に花江は静かな言葉で答える。
 「戦う前より、戦った後の日々が、ずっと長いんですよね…」

■開花町架空の町名。明治期の東京市本所区(現在の墨田区)がモデル
製糸工場、電信局などの近代産業が集積し、町人文化も根付いていた地域

※この物語は明治時代の新聞記事や社会状況を基に構成したフィクションです。史実との距離を保ちつつ、当時の暮らしの息遣いを描く試みです。


全6ページのうち最後の6ページの下側の紙面
右下に「新聞売り子募集」とある

『開花新聞』:明治時代中期に東京で発行されていた文明開化の空気を伝える読みやすいタブロイド系新聞。煽りは少なく政治・外交・教育・風俗などを市民目線で伝えた。挿絵や装飾的な紙面でも知られる。1890年代には日清戦争やその講和後の動向を頻繁に取り上げた。明治28年(1895年)8月8日(第3740号)廃刊。

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