【長編小説】 2085 : エデンの果て PART Ⅰ ⑻ 【連載】
※長編を章ごとに分けて投稿していきます。♡フォローで最新話もお見逃しなく!

勝手にOP主題歌のコーナー
Muse - Hysteria
PART Ⅰ
Chapter 08
「とうとう政府に見つかったのか?」
「いや、俺らの存在なんてとっくに重々承知だ。場所をある程度特定したらギャングを雇って襲撃させる。いつものことだ。俺たちが拠点を変え続ける理由だ。今回はちょっと誤算だったけどな」
毎日命をかけて戦っているのか。俺はこの時代にこんな生活をしてる人間がいることを信じられなかった。自分が渦中にいるにも関わらず、あまりの現実味のなさに、恐怖というより、俯瞰で見ている自分がいた。
「これはロシア製の自爆型ドローンだ。かつてAIを軍事利用していた時の名残だ。今では世界条約でAIの軍事利用を禁止され、今までの兵器も順次処分されていってるが、一部は世界各地の裏社会で取り引きされてる」
夕季が自爆型ドローンの破片を眺めながら言った。監視が届かない地域には、監視ドローンが定期的に見回りにくる仕組みになっている。ゼロコアはもちろん監視ドローンの動きは把握済みで、居場所が割れることは想定外だった。
「それはわかってるけど、なぜこのドローンがここを?」水咲が口を挟む。
「このドローンは遠隔の追跡型。指定された場所についたら、埋め込まれたマイクロチップに反応して追跡する」
「俺のか?!」
もちろんこの中でマイクロチップを除去してないのは俺だけだった。
「このままだと行動を共にできない。お前、マイクロチップを除去する覚悟はあるか?」
元々インターフェースの電源も切りアレーテを利用することもなくなっていた。これからのことを考えれば除去する以外に道はなかった。
「あぁ。手伝ってくれるか?」
除去の仕方はいたって単純だ。ナイフで皮膚を切り裂いて取り除く。ただそれだけだ。切り裂いた跡は、逢坂が縫ってくれた。医師免許があるのかどうかは、聞かない方が賢明だと思った。
「傷を隠す。お前、タトゥーに抵抗あるか?」
「まさか、そのタトゥーを俺に?」
「あぁ、お前ももう一緒に戦う仲間だ」
夕季は黒い手袋をつけ、針をインクにつけた。
「なんか、専用のマシンとかじゃないのか?」
「シンプルなデザインだ。確かに痛いがすぐ終わる。子供でも入れてんだから叫ばずにじっとしてろよ」
そう言って俺の腕に針を刺した。俺は目を瞑って他のことを考えていた。一時間もかからず入れ終わった。
無事俺のマイクロチップ除去の"儀式"を終えると、ゼロコアは残ったものをすべて車に詰め込み、次の拠点に向かった。
「そういやデータが消えたって言ってたけど、他の支部のメンバーとも共有してるもんじゃないのか?」移動中の車の中で、俺はふと疑問に思った。
「いや、政府のサイバー監視網を逃れるために、そっち系のデータはセキュリティ能力が高いうちで一点保管することになってたんだ。ソゾのデータもこっちに共有した時点で、ファイルは自動消去されるように設定されてる」夕季がそう説明してくれた。抜かりのなさが仇になったようだ。
「そんな……すまなかった」
「いや、謝ることじゃない。俺らもマイクロチップ除去を最初にさせなかったし。データが消えても、お前がジャーナリストとして記録して世に出してくれれば、今までよりも信憑性を高める上、さらに広い層に拡散できる。もうすぐ俺たちの戦いに決着がつくんだ」
はじめは単なる荒くれ者の反政府組織だと思っていたが、中身はごく普通の温かみのある人間のように思える。
——車は郊外の森に近い廃工場跡に静かに滑り込んだ。冷たい風が木々の葉を揺らしている。新しい拠点だ。
「ここが次の拠点。候補地はいくつかあらかじめ目星をつけてる」逢坂が車の外に降りて、周囲を見渡しながら言った。彼女の声にはいつも冷静さがあったが、その瞳の奥には疲労と緊張がにじんでいる。
「水咲、ドローンを送り込んできたやつらは特定できたか?」夕季が聞く。
「あぁ、ここから南へ6キロの廃倉庫を拠点にしてる移民系ギャング『アルトラ』だ。外から見ればただの崩れかけた建物。でも中には武器が揃ってる。常時最低でも十人以上はいるだろうね」
「まぁ別にどうってことないな。冷酷さだけが売りの快楽主義のブタどもだ。夜に動こう」
俺は黙ってそれを聞いていた。さっきマイクロチップを切り出したばかりの手に、まだ鈍い痛みが残っている。俺のせいでやつらがここに迫った。そのことが、腹の底でチリチリと火を灯していた。
「俺も行く」思わず俺はそう口走った。
全員が一斉にこちらを見た。意外そうな目ではない。ただ、試すような、確認するような視線だった。数秒の沈黙の後、夕季がぽつりと口を開く。
「お前は来るな」そう言いながら上着の内ポケットから折り畳み式の銃を取り出し入念にチェックし始めた。小型だが威力は軍用並み。ギャング同士の抗争では定番の火器だ。
「……どういう意味だ?」
「これは報復だ。仕事じゃない。プライベートなんだ。取材は必要ない」
俺は返す言葉を失った。確かに、やられたらやり返す。そんなのは裏社会にとっては常識なのかもしれない。
「本気で殺すのか」
「向こうも本気で殺しに来てる。これはゲームじゃない。表のメディアじゃなにも流れないが、こういう抗争は常に水面下で起きてる」
「ゼロコアは、認められない正義を掲げるダークヒーローであって、ただの悪のギャングじゃないと思っていたから、殺人をするなんて意外だな」
「正義と悪について教えといてやる。元々は悪なんて存在しない。二つの正義があるだけなんだ。一つの正義が、もう一つの正義に敗れ、その瞬間その主張は悪になる。勝った方の主張は正義として認められるが、それまでには何人もの血が流れてるんだ。勝った方が正義、負けた方が悪。正義と悪なんていうのは、ただそれだけのシンプルなことなんだ」
「そういうこと。今はゼロコアが悪で政府が正義だけど、この戦いが終わったら、ゼロコアが正義で政府が悪になるっていうのと同じ」逢坂も応戦する。
「アルトラだってそうさ。元々は社会的排除を受けた移民コミュニティの連中が、生きるために地下組織化していき、それがギャングになった。生まれつき悪なんてやつは、サイコパス以外いないんだ」
そこまでわかっていて、その上で殺し合いするのか。俺はより一層ゼロコアの覚悟を感じた。
「それでも行かしてくれ。ジャーナリストとしてじゃない。人間として」
「……別にお前を庇ってるわけじゃない。お前が死んだら全部台無しなんだ。そこらへんわかってるのか?」
「わかってるよ。だから戦いには参加しない。どうせ足手纏いになるだけだしね」
「じゃあ車から降りないと約束しろ」
「わかった」
——アルトラのアジトは、市街地の外れにある廃倉庫。電脳地図上では立入禁止区域としてマスキングされており、警察や監視ドローンの巡回もない死角。同じような集団。でも少し思想が違うだけで殺し合いになる。人としてあるまじき行為が、妙に人らしく思えるのはなぜだろう。
車は無音走行モードに切り替わり、暗闇の中を豹のように接近していく。モニターにボディカムの映像が映し出される。呼吸音、足音、金属のきしむ音。全てがリアルタイムで届く。
「余裕だと思うけど、もし誰か一人でも負傷したのを確認したらお前が応援を呼んでくれ。このボタン一つで全支部に緊急アラートと現在地が送られてすぐに応援が来る」
「あぁ、任せてくれ」
現地に到着すると、ゼロコアのメンバーは迷いなく車を降り、音もなく倉庫へと忍び寄っていった。俺だけが、ドアの内側に置き去りにされた。
すでに見張りが二人、廃材の影に潜んでいるのが確認できた。水咲がサイレンサー付きの短銃で一人を静かに仕留め、愛川が残りを無力化する。
夕季の手信号の合図とともに、突入は一気に始まった。
銃声、叫び、火花。すべてが一瞬のうちに渦巻いた。途切れない銃声。倉庫のガラスが割れる音、誰かが悲鳴をあげる声。それでも誰一人命乞いする声は聞こえない。そういう隙さえ命取りになるのか。
倉庫から敵の一人が足を引きずり出てきた。俺の存在に気づいてはいないが、車を目指して向かってくる。後ろから追ってきた逢坂がそいつの脚を撃ち抜き、倒れ込んだその男に、ためらいもなくトドメを刺した。
血が床に広がる。俺は吐き気を覚えたが、目を逸らすことはできなかった。これはただの抗争じゃない。命がけでこの社会と渡り合ってる現実だ。
わずか数分の騒ぎのあとで、一瞬の静けさが漂う。
「クリア」
無線の夕季の声が響く。彼らが車に戻ってくるまでの間、俺はただじっとしていた。なんて声をかければいいんだ。「おつかれ」「おめでとう」「大丈夫?」適切な言葉が浮かばない。いや、適切な言葉なんてない。
「おかえり」
「あぁ」
車に戻ってきた彼らは、無言でも興奮しきっているのがわかった。達成感に満ちた顔にも、哀愁に満ちた顔にも見えた。
「後悔したことはあるか?」俺は聞いた。
夕季はフロントガラスの向こうを見たまま答えた。
「世間になにかを示したいなら、行動するしかない。その中でどんな障害があろうと、やるかやらないか、それだけだ。後悔なんていうのは、余裕があるやつの贅沢品だ。俺たちには、そんな余裕はない」
続けて夕季が俺に向かってこう言った。
「これが2085年の"自由の代償"だ。わかってきたか?」
つづく
勝手にED主題歌のコーナー
Vampire Weekend - White Sky
↓次のエピソード↓
いいなと思ったら応援しよう!
応援よろしくお願いします!