見出し画像

【長編小説】 2085 : エデンの果て PART Ⅱ ⑶ 【連載】

※長編を章ごとに分けて投稿していきます。♡フォローで最新話もお見逃しなく!

勝手にOP主題歌のコーナー

Nine Inch Nails - The Hand That Feed

PART Ⅱ


Chapter 03



【都内の信号が機能停止。急遽市役員と市民によるボランティアの手信号に】

【関西圏、夜間ドローン配送機能が麻痺。都市部スーパー、在庫8割減】

【全国でAI補助型の夜間警備の巡回が停止中】


 どれも似たような見出しだ。混乱の影響で、AIシステムが次々と停止・凍結され始めた。俺たちはそれを望んだのかもしれない。だが、結果的にそれは、都市そのものの機能不全を引き起こしつつあった。

「ネオコアはとうとう肉弾戦だけじゃなく、俺たちがやってきたようなサイバー犯罪にまで手をつけ始めた」

 背後から水咲が話す。タバコの火が小さく瞬いている。俺は曖昧にうなずいた。

「警察ももうすでに手がつけられない。人員不足の上AIシステムも使えなくなった。もうこの国全体が無法地帯だ」

 小さな会話だったが、現状を表すのにそれだけで充分だった。かつて完全な秩序と謳われた時代が、今、無秩序な時代へと歴史が変わろうとしている。

 アジトの扉が音を立てて開く。

「やっと開いてる店見つけた。全然種類なかったけど、とりあえずパンとカップ麺買ってきた」

 逢坂だった。手にはビニール袋を抱えていた。

「物流が機能していないんだろ。今レイジとニュースを見てたとこだ」

「多分ね。レジも全部手打ちだった。人間がレジ打ってんのなんて何年ぶりに見たか」


「警備ドローンのシステム、昨日からもう市内で3件止まってるらしい。現場の警察も混乱してるって」

 愛川が手元の端末をスクロールしながら言った。彼の声には焦燥と苛立ちが混ざっていた。

「信号も一部で手動になってる。もともとAIが自動で調整してたせいで、現場の人間が仕組みを理解してない。下手すりゃ事故が増える」

「物流も似たようなもんだ。AIありきのインフラだったんだよ。皮肉なもんだな」

 その全てが、ゼロコアによる暴露の"副作用"だった。いや、本当は副作用なんかじゃない。これが本当の姿だった。この社会の秩序は、人の手じゃなく、AIの腕の中で守られていた。

「生活のほとんどが、AIってやつに預けられてたんだな……」

 俺がそう呟くと、隣にいた水咲がタブレットから目を離さずに言った。

「今さらかよ。みんな、それに気づかないふりしてただけさ。自分たちがちゃんと選んで考えて生きてると信じたかったんだ。実際には、なにを買うかも、どこで働くかも、誰を愛するかも、全部、見えない補助輪つけられてたってのに」

 俺はなにも返せなかった。その補助輪を外したのは、俺たちだった。でも、今になって、自分でもよく分からなくなる。俺たちは人間を自立させるつもりで告発した。でも、それでバランスを壊した結果、なにが起きてる?

 俺は考える。いや、感じていた。正しさを貫いた代償が、あまりに日常的な不便として現れていることに。

「——人々は怒るだろうな」

 水咲が吐き捨てたその言葉が、部屋を一周して、全員の心に刺さった。

「お前、OZの言葉忘れたのか?」夕季が釘を刺す。

「なにを今更内省的になってんだ?」

 続けて愛川が水咲につかみかかる。とっさに水咲も弁解する。

「感想だよ! 誰もそんなこと言ってないだろ。ただの感想だ! 落ち着け!」

 愛川は一度キレたら手がつけられない。止まない怒号にとうとう夕季が口を出した。

「愛川。おい愛川! 感想だ。ただの」

「こいつ自分のことだけならまだしも俺たちのことも否定しやがったんだ! 仲間の言葉か?」

「感想だよ。誰だって言う。映画を見りゃお前も言う。それすら管理する気か? お前はいつから政府側の人間になったんだ?」

 冗談を交えながら諭す夕季の言葉に、愛川は徐々におとなしくなっていった。

「ちょっと頭冷やしてくるよ」そう言って外に出た。

——夕方頃、俺のスマート端末が振動した。通知の山に埋もれていたが、目を引いたメッセージがあった。

【『エデンの果て』販売停止に関するご連絡】

 出版社からだった。発売当初は、一部から絶賛され、一部からは陰謀論呼ばわりされた。だが今、それは社会的に"危険な書物"として、取り扱われはじめているらしい。メールの文面は形式的だった。

「昨今の社会情勢を鑑み、当社としても責任ある出版方針を取るため、本書の流通を停止する判断をいたしました——」

 途中で読むのをやめた。俺は、タブレットに向かい、SNSを開く。するとそこには、信じられないような数の販売停止に関する批判コメントが並んでいた。そして中にはこんなものもあった。

「『エデンの果て』全文PDF版」

「『the end of eden - Days with ZeroCore - エデンの果て(英語翻訳版)』ファイル」

「販売停止? じゃあ俺が拡散してやる」


 全文の書き起こしが、あらゆる言語、あらゆるフォーマットでネットに流出していた。PDF、音声、動画朗読、チャットボット形式の再現——。

 世界中に散らばる誰かが、自分の言葉を広めてくれていた。そのほとんどは俺のことなど知らない連中だ。だが、彼らの動きは、かつてなかったほど純粋に俺の文章を"使おう"としていた。

——午後10時。部屋の空気が変わった。

「愛川が逮捕された?!」

 ニュースを見ていた水咲が、驚いたように叫んだ。

「なぜだ?」

「都内の駅で現行犯だって。容疑はネオコアメンバーによるパントクラトル教徒の殺人の支持役、首謀者として」

「ふざけんな。なんであいつがそんなことする必要があるんだ」


 夕季が立ち上がる。逢坂も無言で画面を覗き込んだ。

「映像ある。これ、見ろ」

 ニュースが報道したのは、駅構内の監視カメラ映像。愛川が、パントクラトル教の信徒とみられる男と話をしていて、突然その後ろからネオコアとみられる男がパントクラトル教徒を銃殺。短い、決定的な部分だけが流された。

「あいつネオコアになにか叫んでなかったか? これはハメられたな。多分、政府は見せしめに動いてる」

「愛川が捕まったって情報、もう回ってる」

 逢坂が端末をスクロールしながら呟く。

「"ゼロコアの主要メンバー逮捕"って、すでに見出しになってる。しかも、"暴動扇動の中核人物"だとさ」

「中核だと?」


「監視カメラのコンピューターシステムに侵入して、実際の映像を見よう」

——駅構内の広場で演説をするパントクラトル教の信徒たち。そのうちの一人に愛川が話しかけていた。次の瞬間ネオコアとみられる男が後ろから信者を銃殺。

「ゼロコアの愛川さん?! 大丈夫か?」

「……お前、なにやってるんだ?」

「こいつらに絡まれてたんだろ?」

「俺は話をしていたんだ!」

 そしてそのまま駆けつけた警官にテーザーガンで制圧され、二人とも拘束されて連れて行かれた——

「……どう見ても指示したようには見えないな」

 完全に仕立て上げられていた。ただその場にいて、話をしていただけの愛川が、殺人事件の黒幕として。

「見せしめだな。政府はいつでも動けるぞって見せつけるための」

「それだけじゃない。あいつがやってたリサーチは、都内の一部の汚職AIのアルゴリズムに関するものだった。俺たちの暴露が引き金になって、今停止してるAIの一部は、もともと行政の情報操作をしてた可能性がある」

「つまり……?」
俺は眉をひそめながら聞いた。

「つまり、あいつは暴いたんだよ。AIに責任を押しつけてたのは人間だっていう事実をな。AIは嘘をつかない。でも、そのアウトプットを歪ませることはできる。あいつは、その歪ませてた側の手口を突き止めかけてた」

 夕季が唇を噛みながら、モニターに向かってつぶやいた。

「これが……正義の形かよ」



つづく


勝手にED主題歌のコーナー

Radiohead - Paranoid Android


↓次のエピソード↓

いいなと思ったら応援しよう!

幸田サスケ©︎ 応援よろしくお願いします!