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ミシュナ『Zavim』の法理研究 第3回:射精が及ぼす清浄遵守期間(clean day)のリセット要件と、シャンマイ派・ヒレル派の論争

*本稿は、古代ユダヤ教『Zavim』における不浄論の歴史的・法理学的分析を目的とした純学術的な論考であり、文中の身体現象や性的禁忌に関する言及は、すべて宗教法学的文献の正確な読解に基づくものである。性的な関心を喚起する目的、あるいは公序良俗に反する意図は一切含まれていない。

 本稿は口伝律法ミシュナ第6部『Tohorot(トホロット)』に属する『Zavim(ザヴィーム)』の第3回目の解説である。

 『Zavim(ザヴィーム)』1章1節後半から2節を取り上げ、zav(ザヴ)の法理学的定義を精緻に追究する。前半ではclean dayを挟む複数回漏出の合算(zav gamur認定)におけるシャンマイ派とヒレル派の対立構造を整理する。

 後半では、1章2節の規定に従い、7日間の清浄カウント期間中に起きた射精が及ぼすリセット要件の法理を検証する。RashやRoshが提起する「精液中のzov濃度」を巡る解釈の差異、ならびにラビ・イシュマエル、ラビ・アキバによる論争の止揚プロセスを解き明かし、レビ記15章13節のハラハーを実証的に論考する。


前回の振り返り:『Zavim』1章1節における漏出の不浄遡及性とzav gamur認定条件の法理

 前回は『Zavim(ザヴィーム)』1章1節を取り上げ、1回目のzov漏出における法的地位、2回目の漏出に伴う不浄の遡及性、およびzav gamurの認定条件を巡る、シャンマイ派(Beit Shammai)とヒレル派(Beit Hillel)の論争について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】1回目の漏出と女性のzavah規定との比較

 ミシュナ1章1節では、1回だけ漏出した男性の状態を、異常出血(zivah)期間にある女性(zavah)と比較して定義している。

 女性のzavahの分類として、11日間のzivah(異常出血)期間中、1〜2日連続の出血ならzavah ketanah、3日連続ならzavah gedolahとなる。

①Beit Shammaiの見解

 1回zovを漏出した男性はzavah ketanahに似ていると主張する。zavah ketanahがmikvehでの清めの後に、日没までに出血すると、清めは無効になり、清めから出血の間の時間に触れたものは遡及的にtameiになる。

 それと同様に後に2回目のzovの漏出が起きた場合、1回目と2回目の間に接触した人や物も遡及的に不浄(tamei)になると主張する。

②Beit Hillelの見解

 1回目のzov漏出と2回目の漏出までの時間は、精液を出した者(baal keri)に似ていると主張する。不浄の遡及性は否定され、2回目が起こるまでの間に体重をかけた物などは清い(tahor)状態のままである。ハラハー(halachah)は、このBeit Hillelの見解を採用している。

【2】zav gamurの認定と合算の可否

 3回の漏出があれば、いけにえの義務を伴うzav gamurとなるが、その合算方法について論争がある。

 問題となる事例は1日目に1回、2日目は漏出なし、3日目に2回漏出した場合である。

 他方で「3日で3回の漏出」はzav gamurになるまでの最長の条件でもある。

①Beit Shammaiの見解

 2日目に「漏出のない日(clean day)」があっても、3日間で3回あればzav gamurと見なす。

②Beit Hillelの見解

 2日目にclean dayを挟むと1日目と合算されず、3日目の2回分のみで通常のzavと見なされる。この場合、身を清める必要はあるが、いけにえの義務(8日目の献げ物)は生じない。

【3】漏出の定量化と時間測定基準

 「2回分と言えるほど長い1回の漏出」をどのように定義するかについて、ハラハーでは以下の基準が示されている。

①時間基準

 漏出の開始から終了までが、「mikvehで身を清め、出てからタオルで体を乾かすまでの時間」に相当する場合、2回分と見なされる。

②距離基準

 この行為に必要な時間は、人が50アンマ(キュビット)を歩く時間と定義されている。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Zavim』の法理研究 第2回:『Zavim』1章1節における漏出の遡及的不浄と結合性――Beit Shammai・Beit Hillelの法理対立

https://note.com/mishnah/n/n13b40961c77a


ラビ・エルアザル・ベン・ユダによるシャンマイ派・ヒレル派の不一致点の再定義


 今回はその続きで口伝律法ミシュナ「Zavim」1章1節の続きである。まずは本文を引用する。

 ラビ・エルアザル・ベン・ユダは言った、「Beit Shammaiは彼がzav gamurでないことに同意している。では彼らは何について同意していないのだろうか?2回漏出のあった者、または2回分と言えるくらい長い漏出のあった者が、2日目に止まり、3日目に漏出した者、この場合にBeit Shammaiは言っている、「彼はzav gamurである。」しかしBeit Hillelは言う、「彼は椅子に汚れを移し、泉で体を清めなくてはならないが、献げ物は献げない。」

(Zavim 1:1)

 ラビ・エルアザル・ベン・ユダ(Rabbi Elazar Ben Judah)は前回のTanna Kamma(匿名の第一の見解)に対して、Beit ShammaiとBeit Hillelの主張が一致する点、一致しない点を以下のように整理する。

①Beit ShammaiとBeit Hillelの主張が一致する点

 「1日目に1回、2日目に漏出なし、3日目に2回」というパターンの場合、Beit Shammaiも彼をzav gamurとは認めない。間にclean dayがあることで、最初の1回が切り離されるためである。

 ラビ・エルアザル・ベン・ユダはこの点で、Tanna Kammaとは見解が異なる。

②Beit ShammaiとBeit Hillelの主張が一致しない点

 「1日目に2回(または2回分に相当する長い1回)、2日目に漏出なし、3日目に1回」というパターンの場合である。

 この場合の男性は1日目の時点で(2回分の漏出により)既にzavとしてtameiになっている。

 3日目の1回の漏出が、1日目の漏出と合算されて彼をzav gamurにするかどうかが問題になっている。Beit Shammaiはzav gamurになるとと主張し、Beit Hillelはzav gamurにならないと主張する。

 以上で前回から継続した「Zavim」1章1節の解説を終えた。

『Zavim』1章2節:清浄カウント期間(clean day)における射精の法理学的影響


 次節に進む。ここでは、zav gamurの判断における射精の位置付けが問題になる。

 zavの期間において、3日目に精液を出したなら、Beit Shammaiは言う、「彼は先立つ2日間を手放す。」しかしBeit Hillelは言う、「彼はその日だけを手放す。」

(Zavim 1:2)

 男性がzavとなった後、祭儀的に清い状態(taharah:タハラ)を回復するには、まず7日間連続で漏出がないことを確認(カウント)しなければならない。このclean dayを数える期間中に精液の放出があった場合、学派によってその扱いが異なる。

 本節のミシュナで問題になっているのは、2回漏出してzavになった男性が、clean dayの3日目に射精した場合である。Beit ShammaiとBeit Hillelの見解は以下の通りである。

①Beit Shammaiの見解

 最初の2日間のclean dayも無効になる。翌日から改めて7日間のカウントをやり直さなければならない。

 ここのポイントは、zovの漏出の場合、当然それまでの期間を失うのだが、射精においても失うという点である。

 Beit Shammaiによると、最初の3日間は、zav gamurを確定させるのに必要な3日間に対応するため、特に重要視される。そのため、この期間はzovの漏出だけでなく、精液の放出も一切ない「完全な清浄」である必要があると考える。

②Beit Hillelの見解

 射精の当日(3日目)のみが無効になる。1日目と2日目に漏出が無かった記録は維持される。

 男性は射精の当日(3日目)をカウントに入れることが出来ず、残りの5日間を続けてカウントすれば、計7日間の清浄を達成することになる。

 Beit Hillelは最初の3日間に特別な意味を認めていない。カウント中の射精は、それが何日目であっても、その当日を無効にするだけで、それ以前の清浄な日数をリセットすることはないと考える。

射精当日無効化の深層:Rash・Roshの注釈に基づく「zov濃度」の解釈対立


 RashやRoshといった注釈者による別の解釈では、この論争は「精液に含まれるzovの濃度」に関する見解の差であるとされている。

 彼らによると、Beit Shammaiは、zavの状態になってから最初の3日間に行われる射精には、zovの成分が高く含まれていると主張する。そのため、3日目の射精を通常のzovと同様に扱う。

 これに対してBeit Hillelは、3日目の精液に含まれるzovの割合が、他の日と比べて特に高いとは見なさない。従って、これまでのカウントをリセットするほどの影響はないと判断する。

ラビ・イシュマエルとラビ・アキバによる法理の再整理


 続きには次のように書かれている。

 ラビ・イシュマエルは言う、「zavの期間の2日目に精液を出した者は、その前日を失う。」

(Zavim 1:1)

 ラビ・イシュマエル(Rabbi Yishmael)によると、Beit Hillelであっても、zavが2日目に射精するなら、3回目のzovの漏出があったのと同等と見なし、それまでの期間を放棄することになる。

 続きには次のように書かれている。

 ラビ・アキバは言う、「2日目に精液を出した者も、3日目に出した者も同じである。Beit Shammaiは、彼がこれに先立つ2日間を失うと言い、Beit Hillelはその日だけ失うと言う。」

(Zavim 1:2)

 ラビ・アキバは、この問題に関するBeit ShammaiとBeit Hillelの対立を次のように整理している。

①Beit Shammaiの見解

 2日目、あるいは3日目に射精があった場合、「それより前の清浄な日すべて」が無効になる。

 翌日から改めて7日間のカウントをやり直さなければならない。

②Beit Hillelの見解

 射精が2日目であっても3日目であっても、「その当日」のみが無効になる。

 ハラハーはラビ・アキバによるBeit Hillelの見解とされる。すなわち、zavが射精した場合、それが何日目であっても、射精当日を遵守期間として数えることが出来ないだけである。

4日目以降の合意と聖書ハラハー:レビ記15章13節の絶対的リセット原則


 続きには次のように書かれている。

 彼らが同じ意見であるのは、4日目に精液を出した場合、その日だけを失うということである。しかしそれは精液を出した時だけである。もしzovを漏出したのなら、7日目であったとしても、全ての日を失う。

(Zavim 1:2)

 Beit Shammaiの見解でも、4日目以降の射精であるなら、1~3日目の場合とは異なり、zav gamurの要件として結合しない。4日目を遵守した期間として数えることが出来ないだけである。

 「もしzovを漏出したのなら、7日目であったとしても、全ての日を失う」については、トーラに次のように書かれている。

 漏出のある人が、それがやんで清くなったならば、清めの期間としての七日間を経た後、衣服を水洗いし、新鮮な水で身を洗うと、清くなる。

(レビ15:13)

 zavになったなら、7日間のclean dayを守らなくてはならない。7日間の期間が満了する前にzovを漏出したなら、守られてきた期間全てを失う。この点について両学派の間に争いはない。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Zavim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nebdd61e61049


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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