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ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第7回:安息日直前の調理・焼成規定と「ベン・デルサイ(Ben Derusai)」の法理(1章10節)

*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Shabbat(シャバット)』の第6回目の解説である。今回は『Shabbat』1章10節を扱う。

 金曜日の日没直前における肉、玉ねぎ、卵の調理、およびパンの焼成規定を扱い、安息日における37番目の禁止行為「点火」の未然防止法理を解説する。タルムード(ゲマラ)が定義する調理基準「ベン・デルサイ(Ben Derusai)の食べ物」の概念、炭の攪拌リスク、オーブンの密閉度・熱伝導率による法的例外を精査。

 さらに、タンナ・カンマ(Tanna Kamma)とラビ・エリエゼルによる焼成完了基準の対立構造を、中世の最高注釈家ラシ(Rashi)の注釈に基づき、手加減なしで徹底的に検証・再構築する。


前回の振り返り:道具の安息(シェヴィタト・ケイリーム)・異邦人との商取引・業務委託を巡るシャンマイ学派とヒレル学派の論争

 前回は、ミシュナ『Shabbat』1章5節および7~8節に基づき、安息日における「道具の安息」や「異邦人との取引」を巡るシャンマイ学派とヒレル学派の論争を解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】「道具の安息(shevitat keilim:シェヴィタト・ケイリーム)」を巡る論争

 安息日直前にインクや染料を水に浸したり、家畜の餌(豆)を水に漬けたりする行為の是非についてである。

①シャンマイ学派(Beit Shammai)の見解

 日没までに完全に浸かり切る時間がなければ、これらの行為を禁止する。彼らは、人間や家畜だけでなく「道具(器物)」も安息日に休息させるべきであるという法理を主張しており、器の中で自然に作業プロセスが進行することも避けるべきであると考える。

②ヒレル学派(Beit Hillel)の見解

 これらの行為を許可する。彼らは、安息日の休息は苦痛を感じる人間や動物のためのものであり、無生物である道具を休ませる必要はないと考える。人間が直接関与せず、自動的にプロセスが進む分には問題ないと見なす。

【2】安息日直前の異邦人との商取引

 安息日が始まる直前に、異邦人(非ユダヤ人)に物を売ったり、荷積みを助けたりすることに関する規定である。

①Beit Shammaiの見解

 異邦人が安息日前に目的地に到着出来る十分な時間がなければ、これらの行為を禁止する。その主な関心事は、周囲の人々に「異邦人がユダヤ人のために安息日に働いている」という誤解(外観上の問題)を与えないことにある。

②Beit Hillelの見解

 異邦人が安息日開始前にユダヤ人のもとを離れさえすれば、これらの行為を許可する。取引が安息日前に法的に成立していれば、その後の異邦人の活動を制限する必要はないという立場である。

【3】業務委託(皮なめし・洗濯)の例外

 異邦人の職人に皮なめしや洗濯を依頼する場合の規定である。

①Beit Shammaiの見解

 日中に作業を終える十分な時間があるなら、安息日前に渡すことを許容する。

 上述の「道具の安息」と矛盾するように見えるが、Beit Shammaiは「道具の中で自動的にプロセスが進むこと」は禁止する一方で、「(異邦人という)人間が道具に対して作業を行うこと」については、道具自体の安息を妨げるものとは見なさないという区別をしている。

②Beit Hillelの見解

 日没前であれば、時間の長さに関わらずこれらの行為を許容する。

以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第6回:道具の安息(シェヴィタト・ケイリーム)を巡るシャンマイ派とヒレル派の論争(1章5節、7節)

https://note.com/mishnah/n/n90a71dfd6e20


ミシュナ『Shabbat』1章10節:安息日直前の調理禁止規定


 今回はその続きである。口伝律法ミシュナ「Shabbat」1章10節から引用する。

 私たちは肉、玉ねぎ、卵を焼いてはならない。日中に焼けるのに十分な時間が無いならば。

(Shabbat 1:10)

 本節は安息日直前の金曜日に、肉、玉ねぎ、卵を「火の真上で直接焼くこと」を禁止するものである。ポットやフライパンなどの器具を用いて調理する場合については、「Shabbat」3章1節で扱われる。

 「日中に焼けるのに十分な時間が無いならば」とは、食べ物が安息日前に「食用に適する程度」まで調理されている必要があるという事である。

 この調理の度合いは、タルムードの注釈部であるゲマラ(Gemara)において「Ben Derusai(ベン・デルサイ)の食べ物」と同等のレベルと定義されている。

 「ベン・デルサイ(Ben Derusai)の食べ物」と点火(melachah)の法理
Ben Derusaiとは、追っ手から逃れるために、食べ物がまだ3分の1ほどしか調理されていない状態で急いで食べていた悪名高い強盗である。

 ここで懸念されていることは、安息日に入ってから、「炭をかき回して熱を強める」という行為を無意識にすることである。食べ物が3分の1も調理されていない段階では、炭をいじる可能性が高い。

 安息日に禁止されるmelachahの37番目は「点火すること」であるが、炭をかき回すことはこの「点火」に相当すると判断される。

 もし食べ物がBen Derusaiのレベル(最低限の調理)に達しているならば、安息日に入ってから火を強めたいという衝動に駆られる恐れが引くので、許容される。安息日直前にBen Derusaiのレベルに達しない調理は認められない。

熱源・調理環境による法的区分と炭の攪拌リスク


 専門家の中には、以下のような区別をする者もいる。

(1)肉を直接炭の上に置く場合

 肉が焦げることをそれほど心配せず、「早く焼き上げること」を第一に考えている状況である。

 その為、安息日に入っているにも関わらず、炭をかき回して熱を強めてしまう危険が非常に高いと見なされる。そこでBen Derusaiのレベルまで調理されていない限り、火に置くことは許されない。

(2)火の近くに食べ物を置く際の考慮事項

 安息日の直前に、食べ物を火の「上」ではなく「近く」に置く場合、以下の2つの場合に分けて考える。

①多くの調理時間を要する食べ物

 牛肉や山羊の肉などは、基本的には安息日が始まる前に火の近くに置いてはならない(ただし「Shabbat」3章1節で扱われる特定の例外条件を除く)。

 食べられる状態になるまで長い時間を要するので、炭をかき回す可能性が高いとされる。

②短時間で調理できる食べ物

 野菜や小さく切られた子山羊の肉などは、火の近くに置くことが許可されている。

 調理の時間が短いので、炭をかき回す恐れが小さい。

(3)オーブンの密閉状態による違い

①完全に密閉されたオーブン

 あらゆる種類の食べ物を置くことが許される。なぜなら、オーブンを開けるとその熱が逃げてしまい、肉に悪影響を与えるため、安息日中に中をいじる危険が小さいからである。

②密閉されていないが、閉じられているオーブン

 安息日前に、柔らかい肉を置くことは許可されるが、硬い肉を置くことは禁じられる。硬い肉の場合、炭をかき回す恐れが大きいと見なされている為と思われる。

 続きには次のように書かれている。

パンおよびケーキの焼成完了基準を巡る論争

 私たちは日没近くにパンをオーブンに置いたり、ケーキを石炭の上に置いたりしてはならない。日中にそれらの表面が焼けるのに十分な十分な時間が無いならば。

(Shabbat 1:10)

 当時のオーブンは土製で、底が広く上部が狭い円錐形をおり、熱を上部に向かって凝縮させる構造である。彼らはパン生地をオーブンの内壁に押し付けて焼いていたものである。

 壁に接していない側の「外側の表面」に皮ができれば、法的には焼成が完了したと見なされる。この段階になれば、炭をかき回すとパンが焦げてしまうので、安息日違反になる恐れはないと判断される。

 これに対してラビ・エリエゼルは異論を唱えている。続きには次のように書かれている。

 ラビ・エリエゼルは言う。「底が焼けるのに十分な時間。」

(Shabbat 1:10)

 「底」がどこを指すのか議論があるが、オーブンの壁に接している面であるとされる。ラビ・エリエゼルは1人目のラビ(Tanna Kamma)の意見よりも緩やかな見解を示し、「外側」に皮ができていなくても、「内側」に皮ができる時間が見込めるなら、安息日前にパンを焼いてよいとする。

 ただしRashiによると、「外側」の方が「内側」よりも先に皮ができるとされており、彼の見解に従うなら、ラビ・エリエゼルはTanna Kammaよりも厳格な立場であることになる。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Shabbat』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n96f434acde54

 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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