見出し画像

ミシュナ『Me'ilah』研究 第13回:聖別後に流入した動産と、そこから発生した産物の帰属法理、および家畜の十分の一(maaser beheimah:マアセル・ベヘマー)の授乳禁止規定

*本稿は口伝律法ミシュナ第5部『Kodashim(コダシーム)』に属する『Me'ilah』の第13回目の解説である。

 今回は『Me'ilah(メイラー)』3章6節の後半部を取り上げ、前回扱った「聖別時に既に中身が存在したケース」に対し、「聖別後に中身が満たされた、あるいは産物が成長したケース」におけるme'ilahの適用境界を詳解する。

 ラビ・ユダとラビ・シモンの論争を通じ、神殿財産(hekdesh)における所有権取得の原則(kinyan chatzeir:キンヤン・ハツェール)の不適用法理を浮き彫りにし、さらに、家畜の十分の一の捧げ物(maaser beheimah:マアセル・ベヘマー)における授乳禁止規定や、申命記に基づく労働者の飲食権が神殿財産においてどのように制限されるかを解説し、トーラとミシュナが織り成す聖物管理の絶対的法理に迫る。


前回の振り返り:hekdeshの3つのカテゴリーと不動産me'ilahの境界法理


 前回はミシュナ『Me'ilah』第3章6節を取り上げ、聖別された神殿の財産(hekdesh:ヘクデシュ)を「祭壇用」「神殿維持用」「双方不適格」の3つのカテゴリーに分類し、それぞれの聖性のレベルと、不動産におけるme'ilahの境界法理について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】hekdesh(ヘクデシュ)の3つのカテゴリー

 ミシュナは、聖別されたものをその用途に応じて3つに分類している。

①祭壇に適し、神殿維持に適さないもの

 欠陥のない家畜、鳥、小麦粉、乳香、ぶどう酒、油など。これらは祭壇で献げるためのもので、建築資材にはならない。

②神殿維持に適し、祭壇に適さないもの

 金、銀、宝石など、建物の修理や器具の製作に使用されるもの。

③どちらにも適さないもの

 ほとんどの食料品、肥料、雑草など。これらは売却され、その収益が神殿の運営費に充てられる。

 これらはいずれも聖別されており、私的に転用した場合はme'ilahの対象(元本+5分の1の賠償、および賠償の献げ物の献納)となる。

【2】聖性のレベル(Kedushat HaGuf と Kedushat Damim)

 上記のカテゴリーは、聖性の質的な違いも表している。

Kedushat HaGuf(本質的な聖性): 第1のグループ(祭壇用)が該当し、最も高い聖性を帯びている。

Kedushat Damim(金銭的価値の聖性): 第2・第3のグループが該当する。物自体ではなく、その「価値」が聖なるものとなる。

【3】具体例によるme'ilahの適用分析

 中身が既に入っている場合の構造物を聖別した場合の5つの事例が挙げられている。これらは全て、本体と中身の双方がme'ilahの対象となる。

①水で満たされた穴

 水は建築資材(神殿維持)に適するが、流れる水源ではないためSuccotにおける祭壇での奉仕には使えない(第2グループ)。

②肥料の入った肥溜め

 肥料は売却されて収益が利用されるため、第3グループに分類される。

③鳩小屋

 鳩は祭壇に献げることが出来る(第1グループ)が、小屋自体は解体すると価値が下がるため、神殿維持のため(bedek habayit)には使わない。そこで第3グループと見なされる。

④果実の実った樹木

 果実は祭壇での奉仕(ぶどう酒や油)に供されるため第1グループであるが、樹木自体は建築資材には適さないため第3グループとされる。材木にするより、樹木である方が価値が高いからである。

⑤雑草だらけの畑

 肥料と同様に売却対象となり、第3グループに属する。

【4】不動産におけるme'ilahの境界:ラシュバムとトサフォート

 建物や土地などの不動産から、どのように利益を得た場合にme'ilahが成立するかについて、中世の権威ある注釈者の間で論争がある。

①ラシュバム(Rashbam)の見解

 聖別された構造物を「利用すること」でme'ilahが成立すると考える。例えば穴に私物を保管したり、木の枝に荷物を吊るしたりする行為が該当する。

②トサフォート(Tosafot)の見解

 地面や、そこに固定された物体にはme'ilahは適用されないという原則に基づき、単なる利用はme'ilahに該当しないと主張する。土を掘り出したり、建物の一部を壊して「切り離して持ち去ること」で初めてme'ilahが成立する。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Me'ilah』研究 第12回:神殿の財産(hekdesh:ヘクデシュ)の3つのカテゴリーと3段階の聖性、Rashbam(ラシュバム)及びTosafot(トサフォート)の不動産におけるme'ilahの境界法理の論争

https://note.com/mishnah/n/nda1d80086dc8


ミシュナ『Me'ilah』3章6節後半:聖別後に中身が満たされた場合の法理


 今回は前回の「穴、堆肥場、鳩小屋、樹木、畑」についての議論の続きである。口伝律法ミシュナ「Me'ilah」3章6節の続きを引用する。

 しかしもし穴を聖別し、それから水で満たされるなら、肥溜めを聖別し、それから肥料で満たされるなら、鳩小屋を聖別し、それから鳩で満たされるなら、樹木を聖別し、それから果実で満たされるなら、畑を聖別し、それから雑草で満たされるなら、それらはme'ilahになるが、中身はそうではない。これらはラビ・ユダの言葉である。

(Me'ilah 3:6)

 前回の「Me'ilah」3章6節前半では、聖別した時には既に中身が入っていた。今回の箇所は聖別した後に中身が入った場合、あるいは聖別した後にそれから成長したものがある場合である。

 具体的に列挙されている項目は、「Me'ilah」3章6節前半と同じであり、穴、堆肥場、鳩小屋、樹木、畑の5つである。

 聖別されたもの自体はhekdeshであり、me'ilah の対象となるが、後にそれが発生させた(あるいは含有した)ものは、どうなるのだろうか?この箇所ではいずれの場合もme'ilahの対象にならないとしている。ただし me'ilahが適用さない理由は、ケースによって異なる。

 以下、それぞれの背景にある理由を解説する。

(1)穴、堆肥場、鳩小屋のケース

 聖別された後に中身が満たされた場合、その中身はhekdeshにはならない。聖別された時点において、中身は存在していなかったので、それらは明示的にも暗示的にも献納者の誓いに含まれていない。

 水、肥やし、あるいは鳩が後に hekdesh の領域(穴、堆肥場、鳩小屋)の中に入ったとしても、それらは神殿の所有物にはならない。

 個人所有の穴や鳩小屋であれば、その中に入るものはその個人所有のものになる(kinyan chatzeir:キンヤン・ハツェール)という原則がある。

 この原則はhekdeshには該当しない。すなわち神殿所有の穴、堆肥場、鳩小屋の中に入ってきたものはhekdeshにはならない。従ってme'ilah の対象にもならない。

(2)樹木、畑のケース

 対照的に、樹木や畑が聖別された後に育った果実や草は、hekdeshになる。樹木や畑に育つものは何であれ、自動的にその樹木や畑の所有者の財産となり、神殿所有の場合でも同じである。

 しかし誓いの後に成長したものは、人の誓約を通じて明示的に聖別されたわけではないので、me'ilahの対象とはならない。

 me'ilahの法は、誓いによって明示的に聖別されたものにのみ適用され、自動的に hekdeshとなった財産には適用されない。

 結論として、穴、堆肥場、鳩小屋、樹木、畑いずれの場合でも、聖別した後に中に入ってきたり、それから育ったものはme'ilahの対象にならない。しかしラビの定めた規定によって、それから便益を得ることは禁止されている。

 以上は「ラビ・ユダの言葉である」、つまりラビ・ユダの見解である。

 続きには次のように書かれている。

ラビ・シモンの反論:発生源(hekdesh)から派生した産物に対するme'ilahの適用

 ラビ・シモンは言う、「もし誰かが畑や樹木を聖別するなら、その産物はme’ilahになる。なぜならそれらはhekdeshから出たものであるから。」

(Me'ilah 3:6)

 ラビ・シモンはラビ・ユダに反論し、聖別されたものから派生したもの(例:成長したもの)は、たとえその聖別が自動的なものであり、人の誓いによるのでなくても、me'ilah の対象になると主張する。

 従って、聖別された木に実った果実や、聖別された畑に生えた草はme'ilah の対象となる。

 他方で聖別された時点で空であった穴、堆肥場、鳩小屋が後に満たされたケースについては、ラビ・シモンも中身が me'ilah を免除されることに同意する。なぜなら、水、肥やし、あるいは鳩は、聖別されたものから直接的に成長したものではないからである。

家畜の十分の一(maaser beheimah:マアセル・ベヘマー)における聖性継承と授乳禁止規定


 続きも同じく「Me'ilah」3章6節であるが、話は新しく切り替わっている。次のように書かれている。

 maser beheimahの子はmaaser beheimahからミルクを飲んではならない。他の者たちがこの目的でミルクを寄付していたものである。聖別された動物の子は、聖別されたものからミルクを飲んではならない。他の者たちがこの目的でミルクを寄付していたものである。

(Me'ilah 3:6)

 まずはmaaser beheimah(マアセル・ベヘマー)について簡単に復習する。トーラには次のように書かれている。

マアセル・ベヘマー(maaser beheimah)の基礎知識と選別手順

 牛や羊の群れの十分の一については、牧者の杖の下をくぐる十頭目のものはすべて、聖なるもので主に属する。

(レビ27:32)

 毎年、牛、羊、山羊の群れの中から子が生まれる。トーラは、10頭ごとに1頭をmaaserとして宣言し、聖別することを命じている。手順は以下の通りである。

 家畜は一度に1頭しか通れない開口部のある囲いに集められる。家畜が囲いから出る際、持ち主は10頭目ごとに赤い染料で印をつけ、「これはmaaserである」と宣言する。

 選ばれた動物はエルサレムに運ばれ、神殿で一種のshelamim(和解の献げ物)として献げられる。その血と脂肪は祭壇の上で焼かれ、肉はエルサレムの城壁内で、所有者とその客人たちが食べる。

聖別された母獣からのミルク使用禁止に関するラビ規定と「他の者たち」の寄付解釈


 本箇所のミシュナでは、もし授乳中の母親が10頭目の動物として囲いを出た場合、その子はもはや母親から乳を飲むことはできないと裁定している。

 母親がmaaser beheimahとして指定されることにより、彼女はhekdeshとなる。上記の引用箇所の通り、レビ記27章32節に「聖なるもので主に属する」と記されているからである。

 母親のミルクを使用することに対するこの禁止は、ラビによる規定である。トーラには聖別された家畜の毛を刈ったり、労働させたりすることに対する禁止が記されている。聖別された母親がミルクをあげることは、働かせることに相当するので禁止するという趣旨である。

 あるいは、ミシュナの扱っているケースは、maaserとして聖別された後に子を産んだ母の場合を指しているという解釈もある。

 この場合、子は母親の聖性を継承する。その子は祭壇で献げられることはなく、傷が生じるまで放牧された後、普通の肉として食べられる。

 この場合も子はhekdeshであるが、聖別された母親から乳を飲むことは許されない。 そこで「他の者たちがこの目的でミルクを寄付していたものである」と書かれている。

 「他の者たち」が誰を指しているのかあいまいであり、解釈も分かれているが、ここでは最も分かりやすい「元の所有者」としておく。

 母からミルクを飲むことが出来ないので、このような子の為には、元の所有者が、他の家畜から出たミルクを寛大に寄付していたものである。

 自分の手元にある子の為に「寄付していた」という表現が気になるかもしれないが、maaser beheimahはそもそもhekdeshであるので、もはや元の所有者のものではない。神殿所有のものである。従って「神殿の為に」寄付したという表現が使われたと思われる。

 次に「聖別された動物の子は、聖別されたものからミルクを飲んではならない。他の者たちがこの目的でミルクを寄付していたものである」と書いてある。この箇所は今のmaaser beheimahと同じように解釈される。

 聖別されたものから利益を得てはならないので、元の所有者がミルクを寄付し、子に飲ませるのである。

 聖別される前に生まれた子であれ、聖別された後に生まれた子であれ、聖別された母からミルクを飲んではならない。

神殿財産(hekdesh)における労働者および雌牛の飲食権剥奪法理


 「Me'ilah」3章6節の最後には、次のように書かれている。

 労務者はhekdeshの干しいちじくを食べてはならない。同様に、雌牛はhekdeshの秣を食べてはならない。

(Me'ilah 3:6)

 トーラ本文には次のように書かれている。

 隣人のぶどう畑に入るときは、思う存分満足するまでぶどうを食べてもよいが、籠に入れてはならない。

(申23:25)

 労働者は仕事中、一定の規則のもとで働きながら、その作物を食べることが許されている。しかしもしも聖別された作物であるなら、食べてはならないという趣旨である。

 「同様に、雌牛はhekdeshの秣を食べてはならない」とは、脱穀作業に従事している雌牛に、聖別された作物を食べさせてはならないことを言っている。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Me'ilah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n8ab1e0588261


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e


◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

いいなと思ったら応援しよう!