ミシュナ『Me'ilah』研究 第12回:神殿の財産(hekdesh:ヘクデシュ)の3つのカテゴリーと3段階の聖性、Rashbam(ラシュバム)及びTosafot(トサフォート)の不動産におけるme'ilahの境界法理の論争
*本稿は口伝律法ミシュナ第5部『Kodashim(コダシーム)』に属する『Me'ilah』の第12回目の解説である。
今回は『Me'ilah』第3章6節を取り上げ、祭壇用・神殿維持用・双方不適格というhekdesh(ヘクデシュ)の3つのカテゴリーと、聖性の段階(Kedushat HaGuf / Kedushat Damim)の構造を分析。
さらに中世の最高権威注釈者Rashbam(ラシュバム)とTosafot(トサフォート)の対比から、土地・構造物におけるme'ilahの発生境界を法理的に解明する。
前回の振り返り:金の祭壇・menorahの灰の奉仕完了法理、および不適格鳥類のme'ilah境界について
前回はミシュナ『Me'ilah』第3章4節を取り上げ、聖所内にある「金の祭壇」や「menorah(七枝の燭台)」から出る灰の扱い、および未成熟の山鳩・時期を過ぎた家鳩のいけにえに関するme'ilahの適用境界について解説した。
主な内容は以下の通りである。
【1】金の祭壇とmenorahの灰の法理
聖所内での奉仕の結果生じる灰や燃えカスの扱いについて規定されている。
①原則
金の祭壇の灰やmenorahの古い芯・油の燃えカスから利益を得ることは禁じられているが、me'ilah(罰則)の対象にはならない。
灰を祭壇の横に置く前はme'ilahの対象である。
②奉仕の完了
これらの灰が聖所から運び出され、祭壇スロープの隣に置かれた時点で「奉仕が完了した」と見なされる。
③例外(価値の聖別)
灰を祭壇の横に置く前までに、灰の「金銭的価値」を寄付すると誓った場合は、査定前の利用に対してme'ilahの罰則が適用される。
④外の祭壇の灰との違い
terumat hadeshenは、地中に吸い込まれるまでme'ilahの対象であり続けるという、より厳格な基準がある。
【2】山鳩と家鳩の適格性とme'ilahの論争
いけにえとして献げられる鳥(山鳩と家鳩)は、どちらも首の周りの羽根の色が変わる、中間的な成長段階を持っている。しかしこの中間的な段階の意味は両者の間で全く異なる。
①不適格な鳥
山鳩:中間段階よりも前の場合は、「まだ時期が来ていない(未成熟な)山鳩」として祭壇に献げることは出来ない。中間段階よりも後になると、祭壇に献げることが出来る。
家鳩:中間段階よりも前の場合は、祭壇に献げることが出来る。中間段階よりも後になると、「時期が過ぎてしまった(老いすぎた)家鳩」として、祭壇に献げることが出来ない。
②Tanna Kamma(タンナ・カンマ:匿名のラビ)の見解
不適格の山鳩、不適格の家鳩から利益を得ることは禁止されているが、私的に利用してもme'ilahの罰則は負わないと主張する。
③ラビ・シモンの見解
不適格の家鳩についてはTanna Kammaに同意するが、未成熟な山鳩についてはme'ilahの対象になると主張する。なぜなら「将来的に適格となるものは、現時点で不適格でも既に聖性を内包する」と考えられるからである。
【3】家畜と鳥の構造的区別(ゲマラの分析)
タルムードの注釈部であるゲマラ(Gemara)は、Tanna Kammaの見解に関して、なぜ未成熟の家畜(生後7日目まで)にはme'ilahが適用されることに同意するのに、未成熟な山鳩にはme'ilahを適用しないと考えるのかについて解説している。
①家畜の場合
傷が生じた際、生後7日目までであっても「贖い出す(代価を払って聖性を移す)」というプロセスが法的に確立されている。この「贖い出し」が出来るという事実は、その個体が強い聖性を保持している証左であり、me'ilahの対象となる。
②鳥の場合
鳥のいけにえには、家畜のような「傷による贖い出し」という法的経路が存在しない。従って、現時点で不適格であり、かつ贖いも不可能である鳥は、me'ilahの対象から外れると結論付けられる。
Tanna Kammaが未成熟の鳥にme'ilahを適用しない理由について、ゲマラはこのように考えている。
以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Me'ilah』研究 第11回:金の祭壇の灰、menorahの灰、未成熟な山鳩及び家鳩のme'ilah適用境界
https://note.com/mishnah/n/n0dc11f3710dc
ミシュナ『Me'ilah』第3章6節:本文の引用と神殿所有物(hekdesh:ヘクデシュ)の3つのカテゴリー
今回はその続きで、口伝律法ミシュナ「Me'ilah」3章6節を取り上げる。まずは本文を引用する。
祭壇で献げるものとして適格であり、神殿維持の為に適格でないなら、または神殿維持の為に適格であり、祭壇での献げるものとして適格でないなら、どちらについても適格でないなら、それでもme'ilahになる。
本節では聖別されたものの3つのカテゴリーを扱っている。順番に確認する。1番目に挙げられているのは「祭壇で献げるものとして適格であり、神殿維持の為に適格でないもの」である。
この項目が示しているのは、祭壇で献げることが出来るが、神殿の建物の維持や修理のための建築資材として使用することは出来ないものである。例えば欠陥のない牛、羊、山羊、山鳩、家鳩、小麦粉、乳香(levonah)、ぶどう酒、油などである。
2番目は「神殿維持の為に適格であり、祭壇での献げるものとして適格でないもの」である。具体的には金、銀、宝石、および神殿や器具の修理に使用できるが、祭壇で献げることは出来ないものである。
3番目は「どちらについても適格でないもの」である。祭壇で献げることは出来ないし、神殿維持の為(bedek habayit:ベデック・ハ・バイト)にも使えないものである。具体的には、ほとんどの食料品、肥料、草などである。
聖性のレベル(Kedushat HaGufとKedushat Damim)の定義
これらの3つの分類は、そのまま3つの聖性のレベルも表している。
1番目のもの、つまり「祭壇で献げることが出来るが、bedek habayitには使えないもの」は最も高い聖性を帯びている。
このグループのものは本質的に聖別されている。以前学んだ通り、本質的に聖別されているものは、Kedushat HaGuf(クドゥシャット・ハグフ)と呼ばれる。
2番目のもの、つまり「bedek Habayitには使えるが、祭壇に献げることは出来ないもの」は2番目に高い聖性を帯びている。
このグループのものは金銭的価値が聖別されている。以前学んだ通り、金銭的価値が聖別されているものは、Kedushat Damim(クドゥシャット・ダミーム)と呼ばれる。
3番目のもの、つまり「祭壇で献げることも、bedek habayitにも使えないもの」は3番目に高い聖性を帯びている。2番目と同じく金銭的価値が聖別されている。
3番目のグループに属するものは、神殿の財務官によって売却され、その収益はいけにえにする家畜の購入や神殿の修理の費用に充てられる。
いずれにしても、1番目、2番目、3番目のもの全ては聖別されており、me'ilah の対象となる。違反した場合は価額の元金と5分の1の割増分を賠償し、asham me'ilah(me'ilahを犯したことによる贖罪の献げ物)を献げる。
続きには次のように書かれている。
聖別前に存在した「中身」に関する5つの具体例分析
どのようにであろうか?もし誰かが水で満たされた穴を、肥料の入った肥溜めを、鳩でいっぱいの鳩小屋を、果実の実った樹木を、雑草だらけの畑を聖別するなら、それらも、それらの中身もme'ilahになる。
この部分では、上記の原則に照らして、具体的な事例を挙げて説明している。
水で満たされた穴と肥料の入った肥溜め
最初に挙げられているのは、「水で満たされた穴を聖別した場合」である。この場合、「それらも、それらの中身もme'ilahになる」。
穴の中の水は、漆喰の成分として神殿の建築に使用するのに適している。従って上の2番目のグループに分類される。
仮庵祭(Succot)においては、祭壇で水を使用する。しかし「穴の中の水」は祭壇で使用することは出来ない。Succotにおいて、祭壇で献げる水は、シロアムの泉のような流れる水源から取らなければならないからである。
次は「肥料の入った肥溜め」についてである。肥やしは建築目的には適しておらず、祭壇で献げることも出来ない。従って第3のグループに分類される。肥料は売却され、その収益が神殿の維持管理のために使用されることになる。
鳩小屋と果実の実った樹木における経済的価値の法理
次は「鳩でいっぱいの鳩小屋」である。鳩は祭壇で献げることが出来るが、建築資材としては使用することが出来ない。従って第1番目のグループに分類される。
あるいは、ミシュナは鳩小屋の方に焦点を当てているという解釈もあり得る。鳩小屋を解体してその材料を神殿の維持管理に使用するという事である。しかし鳩小屋は分解して得た材料の価額を合計するよりも、そのまま使用した場合の方が、価値が高いとされている。つまり解体することは価値を減少させることになる。
従って、祭壇に献げることも、bedek habayitの為にも使えないものとして、第3のグループに分類することが出来る。
次は「果実の実った樹木」である。特定の種類の果実はbikkurimとして献げることが出来る。従って第1のグループに分類することが出来る。
bikkurimは、厳密には祭壇の上で焼かれるものではないが、神殿に持ち込まれ、祭司に与えられる。
この箇所の古典的なタルムード注釈によると、ここで言われている「樹木」とはぶどうの木である。言うまでもなく、ぶどう酒は祭壇で献げることが出来る。
これに対して中世の注釈であるTosafot(トサフォート)は、オリーブの木も含めている。言うまでもなく、オリーブの油は穀物の献げ物(minchah)に使われ、祭壇で献げられる。
果樹が神殿維持(bedek habayit)の資材に適さない構造的理由
なお、果実ではなく、「樹木」の方はbedek habayitに使えると考えるかもしれない。しかしこの点については、以下の理由から、全ての専門家の意見が一致して否定的な見解である。
①ぶどうの木の枝は、建築資材として使うには細すぎる。
②生きている果樹は材木として切り出すよりも、そのままの方が、価値が高い(前述の「鳩小屋」のケースと同様)。
その他の理由もあり、「果実の実った樹木」はbedek habayitに使えないと考えられる。
雑草だらけの畑
次は「雑草だらけの畑」である。これは第3のグループに属する。
草は建築目的に使うことが出来ず、祭壇で献げることも出来ないからである。むしろ、上の肥やしと同様に売却され、その収益が神殿の維持管理のために使用される。
最後に「それらも、それらの中身もme'ilahになる」と書かれている。
神殿の所有物になっているものは「hekdesh(ヘクデシュ)」と呼ばれる。
上記の5つの例(穴、堆肥場、鳩小屋、木、畑)において、hekdesh(ヘクデシュ)自体、あるいはその中身のいずれかが神殿の為に、何らかの形で使用されるのに適しているので、それらは me'ilah の対象となる。
不動産・構造物におけるme'ilah適用境界:中世注釈書の対比
中世の注釈者ラシュバム(Rashbam)は、これらの「構造物(穴や畑など)」からどのように me'ilah となる便益を得るのか、具体例を挙げている。
穴:自分の所有物を穴に保管する、あるいは水の入った水差しを置いて冷やす。
堆肥場や畑:そこに物を保管する。
鳩小屋:自分の鳩をそこに住まわせる。
木:自分の持ち物を枝に吊るす。
中世のタルムード注釈であるTosafot(トサフォート)は、me'ilah の法は通常、地面そのものや、地面に固定された物体には適用されないという原則を主張し、例えば穴の中に物を保管するなどの行為は、me'ilahの掟に触れないとする。
従ってTosafotはこの箇所のme'ilahを次のように解釈する。つまり「この箇所の me'ilah とは、人が穴から土の塊を掘り出したり、堆肥場や畑から土を取り出したり、あるいは鳩小屋や木の一部を壊して取り去り、そこから便益を得た場合を指している。地面から切り離された時点で、それらは me'ilah の対象となる。」という主張である。
今回の内容は以上である。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Me'ilah』法理研究
https://note.com/mishnah/n/n8ab1e0588261
全記事の目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)
https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef
