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ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第5回:ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオンの功績と屋根裏部屋における「18の制定事項」

*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Shabbat(シャバット)』の第5回目の解説である。

 今回は『Shabbat』1章4節を取り上げ、安息日の過失予防措置の法的基盤となった、ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオンの功績や、隠れ部屋における「18の制定事項」の決定プロセスを解説する。


前回の振り返り:『Shabbat』1章3節における過失予防措置と職業的「通常の方法」


 前回は『Shabbat』1章3節に基づき、安息日の開始直前に「不注意で禁止事項を犯さないための予防策」について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】領域間移動の過失予防と「通常の方法」

 安息日に禁止される「領域間の物の移動」を、日没後に無意識のうちに続けてしまうことを防ぐための規定である。

①具体例

 仕立屋は針を、書記はペンを持って日没直前に外出してはならない。これは、仕事の習慣でこれらを身に付けたまま安息日(日没)を迎えてしまうリスクを避ける為である。

②「通常の方法」をめぐる論争:

ラビ・ユダの見解

 仕立屋が針を服に刺して運ぶのは職人にとって「通常の方法」であり、安息日に行えば聖書(トーラ)の規定違反にあたる。

 ラビ・メイルの見解(ハラーハーとして採用)

 職人であっても手に持って運ぶのが「通常の方法」であり、服に刺したり耳にかけたりするのは「通常ではない方法」であるため、トーラ違反ではなくラビ規定の違反にとどまると主張した。

【2】「点火」の過失を防ぐための制限

 安息日に禁止されている「点火(火を調整すること)」のmelachahを無意識に行わない為の規定である。

①ランプの光による読書・作業の制限

 ランプの光で読書をしたり、服のシラミを駆除したりすることは禁止されている。これは、光を強くしようとして無意識に「ランプを傾けて油の供給を増やす(点火行為)」恐れがある為である。

②例外

 2人で同じ本を読んでいる場合は、お互いに注意し合えるため許可される。

【3】教育現場における例外規定

 ランプの使用に関して、子供の教育に関わる場合、心理的な側面から制限が緩和されている。

①子供の学習

 子供たちがランプの光で学習することは許容される。理由は、子供は教師への敬意や恐れから勝手にランプをいじらないと考えられること、あるいは火が消えれば勉強しなくて済むので、あえて火を調整しようとはしないという心理的推察に基づいている。

②教師の役割

 教師は子供たちが翌日に学ぶ箇所を確認する程度であれば、ランプの光を用いることが許される。

 この節の核心は、人間が習慣的に行っている職業的・日常的な動作が、安息日という聖なる時間に入った瞬間に「無意識の罪(過失)」になることを防ぐ為の、予防措置を講じている点にある。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第4回:安息日における「領域間移動」の過失予防と、職業的「通常の方法」をめぐるラビ・ユダとラビ・メイルの論争

https://note.com/mishnah/n/ned40273f34f6


ミシュナ『Shabbat』1章4節:ハナニヤの屋根裏部屋における「18の制定事項」の記録


 今回はその続きである。口伝律法ミシュナ「Shabbat」1章4節を引用する。

 これらはハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオンの上の階の部屋で言われたhalachahである。その時彼らは彼を訪問していた。人数が数えられると、Beit Shammaiの方がBeit Hillelよりも多かった。その日彼らは18の規則を定めた。

(Shabbat 1:4)

 本節のミシュナは、これまで議論してきた安息日の禁止事項(ランプの下での読書やシラミ取りなど)が、ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオン(Hananiah ben Hezekiah ben Gurion)の家の屋根裏部屋で制定された「18の制定事項」の一部であることを説明している。

ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤの功績:レビ記とエゼキエル書の矛盾解消


 この節の理解の為には、まずハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオン(以下ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤと記載)について紹介しなくてはならない。

 タルムードでは、ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤの功績が紹介されている。その内の1つを掲載する。

 エゼキエル書44章31節には、次のように書かれている。

 祭司は、鳥でも獣でも、自然に死んだものにせよ、かみ殺されたものにせよ、すべて死んでいたものを食べてはならない。

(エゼ44:31)

 kosherの動物でも鳥でも、適切な仕方で屠らない限り、その肉を食べてはならない。動物はshechitahと呼ばれる方法で屠り、鳥はmelikahという方法を用いる。

 それぞれ過去の記事で書いているので、逆引き辞典でその記事を辿りながら、必要な方は復習して欲しい。

◉【聖書・ミシュナ語彙 総合逆引き事典】律法の現場を再構築する一次史料・専門用語解説(随時更新)

https://note.com/mishnah/n/n66230ec040ed

 適切な方法を用いずに死んだ動物や鳥は、neveilah(ネヴェイラー)、またはtereifah(トレファー)と呼ばれる。

 こちらも上記のリンクから過去の記事で確認して欲しいが、簡単に定義すると以下の通りになる。

①ネヴェイラー(neveilah)

 shechitahによらずに死んだ動物または鳥の死骸。

②トレファー(treifah)

 内蔵または外部に致命的な傷を負い、1年以内に死ぬと見なされる動物または鳥。

 エゼキエル書のこの箇所の記述は問題とされた。なぜなら旧約聖書の最高権威であるトーラには、次のように書かれているからである。

 死んだ動物(neveilah)や野獣にかみ殺された動物(tereifah)を食べて身を汚してはならない。わたしは主である。

(レビ22:8)

 この禁止命令は全てのユダヤ人に向けられたものと解釈されている。つまりユダヤ人は、祭司に限らずneveilahやtereifahを食べてはならない。それにも関わらず、エゼキエルは次のように書いたのである。

 祭司は、鳥でも獣でも、自然に死んだものにせよ、かみ殺されたものにせよ、すべて死んでいたものを食べてはならない。

(エゼ44:31)

 ラビたちはこの箇所において、エゼキエルがトーラと矛盾する内容を書いていると判断した。そこでエゼキエル書の権威を排除しようとした際、ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤはその矛盾を解消する注釈を執筆したとされている。

 彼はその為に屋根裏部屋に引きこもり、夜通し研究が出来るように300樽もの油を運び込ませて、エゼキエル書の難解な箇所を研究したものである。

鳥の屠殺法「melikah(メリカー)」をめぐる律法的矛盾の解決


 ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤが着目したのは、melikahの位置付けである。

 私たちは動物をshechitahによって殺した場合、neveilahにならないことを知っている。従って鳥をmelikahによって殺した場合、neveilahにならないかのように考えがちである。

 しかし事実はそうではない。melikahによって鳥を殺した場合、通常は食べてはならないneveilahになる。ただし贖罪の献げ物を鳥で献げる場合は例外であり、鳥のchatatを献げる時は、melikahによって殺す。

 しかも、祭司はその肉を全て食べるのである。その他の部分は祭壇の上で燃やされる。

 この点から最も論理的にあり得る逸脱は、「melikahによって、祭司は鳥の肉を食べることが出来るのだから、神殿の外でも、祭司はneveilahの鳥を食べることが出来る」というものである。

 エゼキエルがエゼキエル書44章31節で「祭司は・・・neveilahもtereifahも食べてはならない」という趣旨のことを書いたのは、上のような逸脱を未然に防ぐ為であったとする。

 エゼキエル書の記述は既存の律法を否定しているのではなく、むしろ祭司たちが陥りやすい特定の誤解を解くために必要な補足であったことになる。

 ハナニヤ・ベン・ヒゼキヤは以上の通り証明した。

シャンマイ学派(Beit Shammai)の数的優位と多数決による公式裁定


 前置きが長くなったのが、再度今回のミシュナを引用する。

 これらはハナニヤ・ベン・ヒゼキヤ・ベン・グリオンの上の階の部屋で言われたhalachahである。その時彼らは彼を訪問していた。人数が数えられると、Beit Shammaiの方がBeit Hillelよりも多かった。その日彼らは18の規則を定めた。

(Shabbat 1:4)

 ラビたちはこのように研究熱心なハナニヤ・ベン・ヒゼキヤをしばしば訪問し、彼の注釈に基づいて様々な事案の裁定を下していた。

 本節の場面では主だった学者たちが集まり、議論を経て投票を行い、必要な裁決を下したものである。

 「Beit Shammaiの方がBeit Hillelよりも多かった」と書いてあるのは、この時Beit Shammai(シャンマイ学派)の学者がBeit Hillel(ヒレル学派)の学者よりも多かったことを指している。

 最終的な決定は多数決によったので、Beit Shammaiの主張が通りやすかったことになる。

 上記ミシュナ本文に「その日彼らは18の規則を定めた」と書かれている。この時投票によって、18個の項目について公式に裁定が下されたことを言っている。

 18個の項目について、ここでは全てを掲載せずに、安息日に関わるものだけ挙げておく。

【14番目の項目】

 日没前に町に到着出来なかった旅行者は、安息日に自分の財布を4キュビット以上(約2メートル)運んではならず、可能であれば異邦人に預けなければならないという規定。

 ミシュナ「Shabbat」24章1節はこの規定を掲載している。それを取り上げる記事で詳しく解説する。

【15番目の項目】

 安息日の夜、ランプの光の下で衣類のシラミ取りをしてはならない。前回取り扱った内容である。

【16番目の項目】

 安息日の夜、ランプの光の下で読書をしてはならない。これも前回取り扱った内容である。

 次回はハナニヤ・ベン・ヒゼキヤの部屋で議論されたものの、投票にかけられなかった事項について扱う。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Shabbat』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n96f434acde54

 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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