ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第13回:ハトマナー(保温)の許容物質と、第5章「家畜の安息」における装具の法理
*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Shabbat(シャバット)』の第13回目の解説である。
今回はミシュナ『Shabbat』4章1節を取り上げ、「料理の保温規定」において使用が禁止・許可される具体的な物質の性質を解き明かす。さらに、第5章へと歩みを進め、出エジプト記23章12節に基づく「家畜・動物の安息」の義務と、それを巡る「装具(荷物か否か)」の厳格なハラハー(法的結論)の構造を網羅的に論考する。
前回の振り返り:ランプの移動(muktzeh)判定の法的結論とhatmanah(ハトマナー:保温規定)3原則の導入
前回はミシュナ『Shabbat』3章6節の後半におけるランプの移動の可否の判定と、4章の核心である料理の保温規定(hatmanah:ハトマナー)の導入について解説した。
主な内容は以下の通りである。
【1】新品・使用済みランプの移動(3章6節後半)
安息日にランプを動かしてよいかについて、学説の対立と最終的な法的結論(ハラハー)が示されている。
①Tanna Kamma(タンナ・カンマ)の意見
新しいランプは小物入れなどの代用が出来るため移動を許可するが、使用済みのランプは汚れのため他の用途がなくmuktzehにあたるとして移動を禁じている。
②ラビ・シモンの見解
安息日に燃焼している最中のものを除き、新旧問わず全てのランプの移動を許可する。
ラビ・シモンの見解がhalachahとして採用されたが、「許可された用途(ペーパーウェイトやブックエンドなど)」に必要な場合、またはランプが占めている「場所」を他の目的で使いたい場合に限定される。
【2】火の粉を受ける行為と消火規定
ランプの下に器を置く行為について、前回の「油」に続き「火の粉」に関する規定が述べられる。
①空の器を置く(許可)
火の粉は物として残らないため、器を置いても器自体がmuktzeh化することはなく、許容される。
②水を入れた器を置く(禁止)
火の粉を消すために水を入れた器を置くことは、安息日に禁止される36番目のmelachahである「消火」を意図的に行う行為と見なされるため、禁止される。
【3】「hatmanah(ハトマナー)」の3原則(4章概論)
安息日のために料理の熱を保つ目的で鍋を包む「hatmanah」について、以下の3つの原則が定義されている。
①安息日前(金曜日中)
布や羊毛など「熱を逃がさない物質」での保温は許されるが、炭などの「自ら熱を生み出す物質」で包むことは、安息日に入ってからのさらなる加熱を連想させるため禁止される。
②安息日当日
いかなる物質であっても、新たに保温のために包む行為は一切禁止される。これは、包む前に火を使って再加熱しようとする意図を排除するためである。
③夕暮れ時(bein hashemashot:ベイン・ハシェマショット)
鍋がまだ十分に熱いこの時点までは、熱を生み出さない物質による保温が限定的に許容される。
以上により、前回の内容において、物品の「汚れ」や「用途」によって移動の可否を分けるmuktzehの法理が示されるとともに、保温という日常的な行為が「再加熱(点火)」といった禁止された仕事に繋がらないよう、時間軸と物質の性質によって厳格な予防線を張っている点が示されている。
これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第12回:『Shabbat』3章6節における新品・中古ランプのmuktzeh判定と、4章「ハトマナー(保温規定)」の3原則
https://note.com/mishnah/n/nff6513fa1972
『Shabbat』第4章1節:hatmanah(ハトマナー:保温)における禁止物質と性質の判定
今回はその続きで「Shabbat」4章1節から始める。まずは本文を引用する。
私たちは何で熱いものを覆ってよく、何で覆ってはならないのだろうか?私たちは絞りかす、肥料、塩、漆喰、砂、それは湿っていようと、乾いていようと使ってはならない。また藁、ぶどうの皮、毛くず、草、それが湿っている時は、使ってはならない。しかし私たちはそれが乾いているなら使ってよい。
本節では金曜日に鍋をかまどから取り、保温しようとしているものである。まずはそれで包んではならないものが列挙されている。
「絞りかす」を使うとは、オリーブや胡麻を絞った後のパルプ状の塊で鍋を覆うことである。絞りかすは鍋の熱を単に保持するだけでなく上昇させる性質があるため、ラビによって使用が禁じられたものである。
次に「肥料、塩、漆喰、砂」については「湿っていようと、乾いていようと使ってはならない」と書かれている。「肥料、塩、漆喰、砂」は湿っている場合、熱を大きく上昇させる性質があるが、湿っている場合だけでなく、乾燥している場合でも禁止されている。
乾燥している場合は、熱の発生も微々たるものであるが、それでも禁止されている。
前回の記事で確認した通り、安息日前には、温度を上昇させるもので、hatmanahしてはならない原則に従っているものである。
続いて1つずつ確認する。
「藁」については、詳しく言及されていない。
「ぶどうの皮」は原文では「zagim(ザギーム)」であるが、その定義については、ラビ・ユダ(Rabbi Judah)とラビ・ヨセ(Rabbi Yose)の間で、ブドウの「外側の皮」を指すのか「内側の種」を指すのかについて争いがある。
「毛くず」については、綿、柔らかい羊毛、あるいは使い古した衣服の断片など、加工されていない柔らかい素材の束を指している。
「草」については、詳しく言及されていない。
以上の「藁、ぶどうの皮、毛くず、草」などは、湿っている状態では使用出来ない。なぜならこれらの材料は、湿っている時に温度を上昇させる性質があるが、乾いている時には温度を上げない。
しかも「湿っている時に温度を上昇させる」と言っても、自然の状態でまだ湿気を含んでいる場合だけである。もし元々の湿気が完全に乾燥し、その後湿ったのであるなら、温度が上昇する恐れがないので、hatmanahで使ってよい。
【重要】巨頭たちの法理解釈の対比(Rambamと「Shulchan Aruch:シュルハン・アルーフ)
しかしRambamは「ぶどうの皮、毛くず、草」は外部的な要因の湿気であっても温度を著しく上昇させることを指摘している。「Shulchan Aruch(シュルハン・アルーフ)」もこの点で同意見であり、自然発生の湿気であるか、外部的な要因の湿気であるかによって区別していない。
続きには次のように書かれている。
『Shabbat』第4章1節(後半):保温が許可される物質と品質の論争
私たちは衣類、収穫物、鳩の羽根、大工のおが屑、良質の亜麻製品で覆ってもよい。ラビ・ユダは良質の亜麻製品は認めず、粗い品質のものは認めている。
この箇所でも言及のある項目を順番に確認する。
「収穫物」とは小麦や豆類を指している。
「鳩の羽根」とあるが、鳩に限定されない。ここで「鳩」が挙げられているのは、最も使われるものであるからである。
「良質の亜麻製品」とは亜麻を梳った(くしけずった)時に落ちた屑である。
ラビ・ユダは本文の通り良質の亜麻の屑は認めておらず、粗悪なものだけを認めている。
以上で「Shabbat」4章1節についての解説を終えた。「Shabbat」4章は2節までであるが、2節も1節と同じような内容であるので、 次に「Shabbat」5章に入る。
『Shabbat』第5章:家畜の安息と「装具(荷物)」を巡るハラハーの原則
5章の概論から述べるが、まずはトーラから引用する。
あなたは六日の間、あなたの仕事を行い、七日目には、仕事をやめねばならない。それは、あなたの牛やろばが休み、女奴隷の子や寄留者が元気を回復するためである。
ここでは牛とロバが言及されているが、対象は牛とロバに限られない。野生の動物であれ、鳥であっても同じである。
安息日に如何なる家畜や動物であろうと、仕事をさせてはならないが、それには荷物を背負わせて物を運ばせることも含まれる。
家畜や動物には歩行を制御する為に装具を身に付けさせることが必要だが、ラビたちは出エジプト記23章12節の規定は、動物を制御するために「不必要な装具」を身につけさせることにも適用されると解釈している。
すなわちその装具が、動物を制御する目的において「不十分」または「過剰」である場合、それは荷物(負担)と見なされる。
一方で、その動物が通常そのような装具を身につけていることが一般的であり、制御に不可欠であるならば、それは荷物とはみなされず、安息日に身につけたまま外出することが許可される。
「Shabbat」5章のミシュナにおいては、何が適切な装具であり、何が不必要な装具であるのかを扱う。
安息日に家畜に負わせてはならない「6つの装具分類」
家畜や動物に負わせてはならない、あるいは不可欠とはみなされない装具は下の6つに分類される。
①荷物
制御とは無関係な物品。
②不十分な装具
その動物を制御するのに役立たないもの。
③過剰で不必要な装具
制御のために必要以上のもの。
④外れやすい装具
動物から外れて地面に落ちる可能性があるもの。飼い主がそれを(うっかり公共の場で)拾い上げて運んでしまう恐れがある。
⑤市場へ連れて行くための装具
通常、動物を市場へ引いていく時のみに使用される特別な装具。単に実務上必ずしも必要でない装飾がされている上、商売を連想させる。
⑥装飾品
動物を飾るために身につけさせるもの。
「Shabbat」5章のミシュナ本文には、次回から入ることにする。
今回の内容は以上である。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉【シリーズ目次】ミシュナ『Shabbat』法理研究
https://note.com/mishnah/n/n96f434acde54
全記事の目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)
https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
