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ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第12回:『Shabbat』3章6節における新品・中古ランプのmuktzeh判定と、4章「ハトマナー(保温規定)」の3原則

*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Shabbat(シャバット)』の第12回目の解説である。

 今回は『Shabbat』3章6節後半における、新品および使用済みランプの移動に関するハラハーの最終結論を検証し、Tanna Kammaとラビ・シモンの論争、および「許可された用途・場所」の定義を解き明かす。

 さらに、3章末尾の消火規定を網羅し、第4章の核心である安息日の料理保温規定「ハトマナー(hatmanah)」の基本法理を、安息日前・当日・夕暮れ時(bein hashemashot)の3原則から体系的に構造化する。


前回の振り返り:『Shabbat』3章6節前半の法理構造の総括


 前回は、ミシュナ『Shabbat(シャバット)』3章6節を取り上げ、安息日に扱ってはいけない物「muktzeh(ムクツェ)」の概念と、ランプの油を巡る具体的な禁止規定について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】muktzehの定義と起源

 「muktzeh」とは、安息日に使用することを意図していない道具や物品を指す。muktzehを安息日に動かすことは禁じられている。この規定は第2神殿時代の初期、ネヘミヤたちの指導部によって規定された。

 Maimonidesは、この規定の理由として以下の3点を挙げている。

①平日の活動との区別(イザヤ書58章)

 家の中で物品を動かし続けると、片付けなどに熱中してしまい、安息日の休息が損なわれるため。

②melachahの防止

 道具を自由に扱うことで、うっかり安息日に禁止されている仕事を犯すリスクを避けるため。

③特別な日の認識

 普段仕事をしない人々にとっても、安息日が平日とは異なる特別な日であることを認識させるため。

【2】「夕暮れ時(bein hashemashot:ベイン・ハシェマショット)」の原則

 安息日の規定において極めて重要なのが、「安息日が始まる瞬間(夕暮れ時)の状態が、その後の法的地位を決定する」という原則である。

 例えば、安息日が始まる瞬間にランプの油として使われていたものは、たとえ途中で火が消えても、その安息日の間中ずっと「muktzeh(使用不可)」のままとなる。

【3】ランプの下に道具を置くことの禁止(3章6節)

 ミシュナは、ランプから落ちる油を受け取るために、安息日に入ってからその下に器を置くことを禁じている。その理由は以下の法理に基づいている。

①muktzeh化の回避

 器を置くと、そこにmuktzehである油が落ち、器自体も動かせない「muktzeh」になる。

②「建てること」への類似

 落ちた油によって、事実上器がその場所に固定されてしまうため、禁止された仕事の34番目である「建てること」に似た行為と見なされる。

③「壊すこと」への類似

 安息日の間その器を使えなくしてしまうため、35番目の仕事である「壊すこと」に類似すると解釈するラビもいる。

 ただし、安息日が始まる前(金曜日の日中)に器を置いておくことは許容される。

【4】「安息日のための準備」の概念

 たとえ安息日前に器を置いて油を受け取ったとしても、その油を別の目的(肌に塗るなど)に使うことは出来ない。

 これは、安息日が始まる瞬間にその油は「ランプの燃料」としてのみ概念されており、他の用途のために準備されていなかったためである。

 以上の通り、前回の記事においては安息日の神聖さを守るために、melachahだけでなく、「物品の移動」や「事前の意図(準備)」といった概念的な枠組みによって、日常生活の些細な動作が律法違反に繋がらないよう厳格に管理されていたことが分かる。

 これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Shabbat(シャバット)』の法理研究 第11回:『Shabbat』3章6節におけるmuktzehの法意――Maimonidesが挙げる3つの理由とランプの油を巡る「建てること」「壊すこと」のmelachah規定

https://note.com/mishnah/n/n18504615c7ff


『Shabbat』3章6節後半:新品および使用済みランプのmuktzeh判定


 今回は口伝律法ミシュナ「Shabbat」3章6節の続きである。まずは本文を引用する。

私たちは新しいランプを動かしてよい。しかし古いものは不可である。ラビ・シモンは言う。「全てのランプは動かしてよい。安息日に燃えているものを除いて。」

(Shabbat 3:6)

 当時のランプの写真があった方がイメージしやすいので、写真を1枚貼っておく

ミシュナ時代のランプのイメージ

 この箇所のミシュナはまず「私たちは新しいランプを動かしてよい」と述べ、その後に「しかし古いものは不可である」と続けている。

 安息日に新しいランプは動かしてもよいが、古いランプは動かしてはならないという事になる。

 当時のランプは一度でも使うと汚れてしまい、ランプ以外の用途では用いることがなくなる。しかし一度も使っていないものは綺麗であるので、小物入れや皿などに使うことが出来る。

 安息日においては、日常的に使う道具、例えば大皿や小皿、食卓用のナイフ、水瓶などは動かしてもよい。新しいランプはこれらの用途に使える道具としても使えるので、本節で許容されている。

 これに対して使用済みのランプは汚れているので、皿やコップに使うことは出来ず、「日常的に使う道具」として使うことが出来ない。そこでmuktzehとして分類される。

 この原則そのものについては、「Shabbat」17章、18章の記事で詳しく扱う予定である。

Tanna Kammaに対するラビ・シモンの見解とハラハーの最終結論


 以上のTanna Kammaの見解に対して、ラビ・シモンは「全てのランプは動かしてよい。安息日に燃えているものを除いて」と述べている。

 使用中のランプは前回述べた通り、全体としてmuktzehである。火がmuktzehであるので、機能上その構成部分となる火皿や芯、油など皆muktzehになるからである。

 ハラハー(halachah)はラビ・シモンの見解に従い、新品・中古を問わず、すべてのランプは安息日に移動させることが出来るとしている。ただし、それは動かすランプを「許可された用途」のために必要な場合、あるいはそのランプが占めている「場所」を他の目的で使いたい場合に限られる。

ハラハーにおける「許可された用途」の二大分類


 「許可された用途」の内容があいまいであるが、次の2つに大別される。

①上記の「日常的に使う道具」として使う場合

 具体的には汚れていない部分にものを置くこと、風で書類が飛ばされないようにするためのペーパーウェイトにすること、本が倒れない為のブックエンドにすることなど。

 これらはランプ本来の使い方ではないが、安息日に道具を使って許される行為に使えるものである。

②ランプ本来の性質や中身を「安息日のルールの範囲内」で利用する場合

 中のオリーブ油にパンを浸して食べること、危険を防ぐ為に安全な場所に移動させることなど。

 これらの行為はランプまたはその構成部分本来の性質に従った使い方で、かつ安息日に許された行為である。

 ハラハーでは、これらの目的の為であるなら、新しいランプも、古いランプも安息日に動かしてよい。

 続きには次のように書かれている。

ランプ下部への水分設置と消火(36番目のmelachah)規定

 私たちは火の粉を受ける為にランプの下に道具を置いてよい。ただし水を置いてはならない。なぜならそれは消してしまうから。

(Shabbat 3:6)

 本箇所ではまず「私たちは火の粉を受ける為にランプの下に道具を置いてよい」と書かれている。油を受ける為に置いてはならないことは、前回の記事で扱った。

 火花は物としてそこに残らないので、火花を受ける為に、安息日にランプの下に物を置くことは許される。その物はmuktzehにはならない。

 続いて「ただし水を置いてはならない。なぜならそれは消してしまうから」と書かれている。度々触れてきたように、消火行為は安息日に禁止される36番目のmelachahである。火花が落ちる際に水に触れることは、意図的に消火行為を行ったと見なされる。

 以上で「Shabbat」3章についての解説を終える。

『Shabbat』4章概論:ハトマナー(hatmanah:保温行為)の法理構造


 次に「Shabbat」4章に入る。まずは概論から述べる。

 「Shabbat」4章では、安息日のために料理の熱を保つ目的で、鍋を布などで包む行為「ハトマナー(hatmanah)」に関する規定が扱われている。

 原則は次の3つである。

①安息日前における熱産生物質の禁止

 料理の温度をそれ以上上昇させず、単に熱を逃がさない物質(布、羊毛、羽毛など)を用いるなら、料理を包み、保温することが許される。

 しかし、炭などのそれ自体が熱を生み出す物質で包むことは、安息日前であっても禁止される。それ自体熱を生むもので包んでいると、安息日に入ってから、「もっと温めよう(火を新たに使おう)」という発想に直結するからと思われる。

②安息日当日における全面禁止と再加熱意図の排除

 いかなる物質であっても、新たに保温のために包む行為(hatmanah)は一切禁じられている。

 安息日にhatmanahが許容されると、「包む前に(火を使って)再び加熱しよう」という意図に繋がるからと思われる。

③bein hashemashot(ベイン・ハシェマショト:夕暮れ時)における限定的許容

 料理を包むことが許される最後の時刻は、bein hashemashotである。

 夕暮れ時の時点では鍋はまだ十分に熱いため、再加熱しようとする心配はないので、①と同様に熱を生み出さない物質による保温目的のみのhatmanahが許される。

 「Shabbat」4章の導入の概論は以上とし、次回から本文に入ることにする。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Shabbat』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n96f434acde54


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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