仮庵祭(Succot:スコット)の本質(4回目)――ミシュナ『Succah』5章におけるBeit HaShoevah(ベイト・ハショエヴァ)の法学的構造と燭台の光量規定
*仮庵祭の本質に迫るシリーズ4回目。今回は口伝律法ミシュナ『Succah』5章からBeit HaShoevah(ベイト・ハショエヴァ)の祝宴における奏楽の安息日規定、女性の庭の建築的改修の意図、120ログに及ぶ献油について解説する。
祭司の摩耗した祭服を灯芯とする巨大燭台がエルサレムの夜をメシア時代のように輝かせ、「誰でもBeit HaShoevahを見たことが無い者は、本当の喜びを見たことがない」と言われる現場を鮮やかに再現する。
前回の振り返り:lulavの規範論争と安息日における法廷裁定の変遷
前回は仮庵祭(Succot:スコット)における「ルーラヴ(なつめやしの葉などの束)の掟」と「柳の掟」について、ミシュナ(口伝律法)の記述に基づき法学的に解説した。
主な内容は以下の通りである。
【1】lulav(ルーラヴ)を振る動作の規範と論争
レビ記23章40節の「7日間の喜び」を具体化する儀式として、朝の祈り(shacharit:シャハリート)の「ハレル詩編」(詩編113~118)の中でルーラヴの束を振る動作が行われる。
この振るタイミングについて、古代の学派間で論争があった。
①Beit Shammai(ベイト・シャマイ)
詩編118編の1節(感謝)と25節の2箇所(救いと栄え)の計3回振る。
②Beit Hillel(ベイト・ヒレル)
1節と25節の「救い」の計2回振る。
③ラビ・アキバの証言
現場では25節の「救い」の1箇所のみで振られていたと証言する。
【2】安息日における混乱と法廷の裁定
仮庵祭の初日が安息日に重なる場合、本来は物の運搬が制限されるので、事前に神殿へlulav等の束を持参しておくことで掟が実行されていた。
掟の遵守には「自分のlulav」である必要があるため、預けた自分の物を取り分ける代わりに「自分の束を取った人にそれを贈る」という合意がなされていた。
当日の朝、人々がlulav等の束を取り合って殴り合いの騒動になったので、法廷は危険を認め、安息日と重なる場合は自宅で実行するよう規定を定めた。
【3】神殿における柳の掟とクライマックス
「柳の掟」は口伝律法として継承された神殿固有の儀式である。しかし「主の前で喜び祝う」ことは同様にレビ記23章40節に書かれている。
エルサレム近郊のモツァから運ばれた巨大な柳(約5メートル)が、祭壇に垂れかかるように立てかけられた。
トランペットの合図とともに、毎日1回、祭壇の回りを詩編を唱えながら回る。
仮庵祭の最終日(7日目)には、エリコの壁の陥落(ヨシュア記6章)を念頭に、祭壇の回りを7周回る。これは敵の制圧と預言的な成就を象徴する儀式とされる。
以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。
◉仮庵祭(Succot:スコット)の本質(3回目)――lulav(ルーラヴ)の掟と神殿における柳の掟の法学的構造:ミシュナ『Succah』が記す「喜び」の現場
https://note.com/mishnah/n/ne0db613eaef9
今回はその続きである。通常、tamidの時にはぶどう酒が献げられる。しかし仮庵祭の期間には、これに加えて毎日水も献げられる。下の写真を見て欲しい。

赤く丸を囲んだところに2つの注ぎ口がある。角に近い西側が水のものであり、その隣がぶどう酒のものである。
水はぶどう酒を献げるのと同じタイミングで注ぎ口に注がれる。
この辺の事情は下の記事にまとめてあるので、不安な方はここから確認して欲しい。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第13回:第二神殿における献酒の儀礼と、祭壇を揺るがすトランペットの残響、そして復活の日まで(7章3節〜4節)
https://note.com/mishnah/n/nf7d029ea3668
今回はこれに用いる「水」の為の祝宴を見て行く。まずは口伝律法ミシュナ「succah」5章1節から。
ミシュナ『Succah』5章1節:奏楽(フルート)における安息日規定とmelachahの抵触性
フルートは5日か6日か吹く。これは水汲み(Beit HaShoevah;ベイト・ハショエヴァ)のフルートである。安息日の、またyom tovの規則を踏み越えるものではない 。
彼らは言った。「誰でもベイト・ハショエヴァを見たことが無い者は、本当の喜びを見たことがない。」
祭壇で献げる水は朝、シロの泉で取られる。本文にある「水くみ(Beit HaShoevah:ベイト・ハショエヴァ)」とは朝に行われる水くみに先立ち、夜に行われる祝宴である。
そこでのフルートを始めとする奏楽は、安息日とyom tovの掟を乗り越えない。奏楽自体は禁止されるmelachahには含まれないが、楽器が壊れた場合、修理する誘惑が生じる。
また、それ自体melachahに該当しなくても、安息日を損なう外観を持っている。以上の理由からこれらの日に奏楽は認められない。
話を戻すが、奏楽は安息日とyom tovの禁止を乗り越えない。仮庵祭の初日はyom tovであるから、これでまず7日間の内、6日間は演奏しないことになる。
もしも初日が安息日であるなら、その他の日はChol HaMoedであるから、奏楽は認められる。この場合、祭りの期間の奏楽は6日間になる。
しかし初日が安息日でないなら、もう1日演奏出来なくなるので、奏楽出来る日数は5日になる。本文の「フルートは5日か6日か吹く」とはそれを言っている。
人々が「誰でもBeit HaShoevahを見たことが無い者は、本当の喜びを見たことがない」と言っているのは、次節以降で示される光景と関係がある。
神殿の女性の庭には巨大な燭台が立てられいたが、この時点灯され、その光はエルサレム中のどの中庭も照らしたと言われるほど強烈なものであった。
夜が昼のように明るくなるその光景は、神の臨在が自分たちの間に留まっていることを視覚的に確信させ、深い安堵と喜びをもたらしたと思われる。
いずれにしても、「天からの喜び(神の祝福と救い)」が、「地上(エルサレムの熱狂)」と完全に一致した瞬間を指している。
その調和を目撃した者は、人生観が変わるほどの喜びを知ることになる。「誰でもBeit HaShoevahを見たことが無い者は、本当の喜びを見たことがない」とはそれを言っている。
次節ではこの巨大な燭台について述べている。次のように書かれている。
女性の庭(ezrat nashim:エズラト・ナシーム)の建築的改修と男女分離の法学的根拠
仮庵祭の初日の終わりには、祭司とレビ人たちは女性に庭にまで下りる。そこでは大きな改修が施されている。
幾つかの金の燭台がそこにあり、それぞれ4つの鉢がその上にある。つまりそれぞれの燭台には4つの梯子も掛けられている。若い祭司たちの中で若い祭司4人は120ログのオリーブ油を入れた水差しを持って、それぞれの鉢の中に入れる。
まず「仮庵祭の初日の終わりには、祭司とレビ人たちは女性に庭にまで下りる」とある。
祭司とレビ人は通常、祭司の庭で奉仕をしている。この時は彼らもその他のイスラエルの人々と一緒に楽しみ、祝う。
「そこでは大きな改修が施されている」とあるのは、女性の庭に沿って、2階席(バルコニー)が設けられたことを言っている。男性は庭の中に留まる。
これは喧騒の中で、不適切な状況に陥るのを防止する為である。
「幾つかの金の燭台がそこにあり、それぞれ4つの鉢がその上にある」について、巨大な燭台が幾つ設置されていたのかは分からない。しかしそれぞれには4つの大きな火皿があったことを言っている。
120ログのオリーブ油と巨大燭台:点灯における祭司の身体的献身
「それぞれの燭台には4つの梯子も掛けられている」とあるのは、油を注ぐ為のものである。その油の分量について、次のように書かれている。
若い祭司たちの中で若い祭司4人は120ログのオリーブ油を入れた水差しを持って、それぞれの鉢の中に入れる。
120ログとは現代の単位に換算すると約41リットルから60リットル程度になる。これが非常に多いことを表す誇張表現なのかは分からないが、1本の燭台の火皿に入れる分量としては文字通り規格外である。
次節に進む。
祭服(ketonet:クトーネットとmichnasayim:ミフナサイム)の灯芯転用によるエルサレム全域の照度確保
祭司の擦り切れたズボンや腰帯から作った灯芯に火を点ける。このBeit HaShoevahの火によって照らされないエルサレムの庭は存在しない。
ここに挙げられている「ズボン」や「腰帯」は世俗のものではなく、彼らの祭服と思われる。祭司の祭服は以下の通りであった。
①「亜麻の長い服」(出28:39): ketonet(クトーネット)と呼ばれる。
②飾帯(出28:40節)
③ターバン(出28:40節)
④「ズボン」(出28:42節):michnasayim(ミフナサイム)と呼ばれる。
この内、巨大な燭台の芯に使われるものとして、特に②と④が挙げられている。
祭服については下の記事にまとめている。
◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第9回:聖所の祈祷と一世一代の献香、そして96個の棚に秘められた祭司の管理体制(4章3節〜5章3節)
https://note.com/mishnah/n/ne541396b785e
この燭台の高さは伝統的には50キュビットとも言われている。現代の単位に換算すると約25メートルにもなり、点灯・消火も命がけであったことになる。
これも燭台の巨大さを表す誇張表現なのかは分からないが、神殿の丘はエルサレムで最も高いものであるので、本文の通り町中を照らしていたことになる。
燭台については祭りのたびに運び出すにはあまりに巨大すぎたので、女性の庭に半恒久的に設置されていたと考えられている。
次回はこの舞台装置の下で、どのような賛美がされていたかを扱う。
今回の内容は以上である。
(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)
シリーズ目次は以下からご覧になれます。
◉三大祭りの法理学全説:トーラとミシュナから復元する過越祭・除酵祭(Pesach:ペサハ)、七週祭(Shavuot:シャヴオット)、仮庵祭(Succot:スコット)(全18記事・完結)
https://note.com/mishnah/n/n8fa728c36e30
本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)
https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334
全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス
https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c
(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)
◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次
ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。
