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ミシュナ『Zavim』の法理研究 第7回:baal keri(射精者)の特則、改宗者の法的履歴の切断、およびmidras(重力付加)による不浄化5形態の法理学

*本稿は、古代ユダヤ教『Zavim』における不浄論の歴史的・法理学的分析を目的とした純学術的な論考であり、文中の身体現象や性的禁忌に関する言及は、すべて宗教法学的文献の正確な読解に基づくものである。性的な関心を喚起する目的、あるいは公序良俗に反する意図は一切含まれていない。

 本稿は口伝律法ミシュナ第6部『Tohorot(トホロット)』に属する『Zavim(ザヴィーム)』の第7回目の解説である。

 今回は『Zavim』2章3節〜4節を法理学的に分析。射精(baal keri)による肉体疲労がzav認定に与える24時間の時間的影響、改宗に伴う「法的人格の刷新」、およびレビ記15章4節に基づき「midras」の5つの形態を精緻に解明する。


前回の振り返り:内因性疾患を否定する7つの外因調査項目と、確定zavにおける法的推定(chazakah)

 前回は『Zavim』2章2節を取り上げ、主にzov(ゾヴ)が外因によるものか、内因(疾患)によるものかを識別するための7つの調査項目と、一度確定したzavに対する法的推定について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】内因性漏出を否定する「7つの調査項目」

 男性がzav(不浄な状態)として認定されるためには、その漏出が外部刺激によるものではなく、本人の「肉の不調(内因性の疾患)」に起因する必要がある。

 そのため、漏出の前に以下の7項目に該当する事象がなかったか調査が行われる。

①食べ物:過剰な摂取、または特定の食品の摂取。

②飲み物:過剰な摂取、または特定の飲料の摂取。

③荷物の運搬:身体への負担。

④飛び跳ねること:激しい運動。

⑤病気:生殖器以外の全身性の体調不良。

⑥見たもの:性的な視覚刺激(24時間以内)。

⑦考えたこと:性的な空想(24時間以内)。

 これらの外部要因が原因で漏出が起きたと判断される場合、その人物はzavとは認定されない。ただし、最初の1回目の漏出に関しては、原因が何であれ「精液を放出した者(baal keri:バアル・ケリ)」と同等の汚れが発生する。

【2】学説の対立

 調査基準を巡り、以下の少数派意見もミシュナ本文に記録されているが、いずれもハラーハー(ユダヤ法)としては採用されていない。

①ラビ・ユダの見解

 動物の交尾や女性の衣服を見たことも原因に含めるべきと主張。

②ラビ・アキバの見解

 いかなる少量の飲食も原因になり得ると主張(これに対し他のラビたちは、それではzavと判定される者がいなくなると反論した)。

【3】確定zavにおける「調査の免除」と法的推定

 すでに2回の漏出を経験し、「確定したzav」となった男性については、法的な扱いが変わる。

①3回目以降の調査免除

 3回目の漏出が起きた際、それが外部要因によるものかどうかは調査されない。

②法的推定(chazakah:ハザカー)

 一度zavの状態が確定した者は、その後の漏出も「外部刺激ではなく、すでに存在する身体の疾患によるものである」と法的に推定される。

③zav gamur(ザヴ・ガムール)への移行

 3回目の漏出は、その原因に関わらず前の2回と合算され、いけにえの義務を伴うzav gamurとなる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Zavim』の法理研究 第6回:内因性疾患を否定する「7つの外因調査項目」と、確定zavにおける法的推定の適用

https://note.com/mishnah/n/ned9aabc7bc47


ミシュナ『Zavim』2章3節:射精(baal keri)がもたらす時間的特則とTanna Kammaの見解


 今回はその続きで口伝律法ミシュナ「Zavim」2章3節に進む。まずは本文を引用する。

 射精した者はその後の24時間zovを漏出しても汚れない。

(Zavim 2:3)

 前回はまだzavとして認定されていない男性がzovを漏出した場合、zavとして認定しない7つの外的な要因を扱った。今回のミシュナでは、zavとして認定されていない男性が射精した後、zovを漏出した場合の特則について扱う。

 さて、ミシュナ本文に入るが、ここで問題になっているのは、1回zovを漏出した後射精し、その後24時間以内にzovを漏出したケースである。

 この場合、彼はzavとしては認定されない。なぜなら精液の放出が、彼に丸一日続く疲労と衰弱をもたらすからである。すなわち射精による疲労がzov漏出の「外部的な原因」と見なされている。前回見たように、外部的な原因によるzovの漏出は、男性をzavとして汚すことはしない。

 この規定は、その人の1回目のzov漏出には適用されない。 なぜなら以前見たように、最初のzov漏出はその原因が如何なるものであれ、通常の漏出としてカウントされるからである。

 従って、たとえ精液放出から24時間以内に1回目のzovを漏出したとしても、彼はbaal keri(バアル・ケリ)と同等の仕方で汚れる。

 そして、もし2回目の漏出が精液放出から24時間以上経過した後に発生した場合は、その1回目と組み合わさって、彼を通常のzavとしてtameiにする。

 以上がTanna Kammaの見解である。続きには異論が述べられている。

ラビ・ヨセの異論:時間的限定(「その日だけ」)の解釈

 ラビ・ヨセは言う、「その日だけである。」

(Zavim 2:3)

 ラビ・ヨセ(Rabbi Yose)は、zavの漏出が事前の精液放出に起因するとみなされるのは、その精液を放出した日の終わりまでであると主張している。

 従って、その日の夜が明けた後にzavの漏出があった場合は、彼はzavとしてtameiになる。おそらく夜が明ければ体力が回復し、漏出を身体的な衰弱のせいには出来なくなると考えていたと思われる。

 ハラハーはラビ・ヨセの見解には従っていない。

改宗者における法的人格の刷新と過去の不浄履歴の切断


 続きには次のように書かれている。

 ユダヤ人でない者が射精して、それから改宗したなら、彼はzovを漏出することで、即座に汚れる。

(Zavim 2:3)

 これは改宗直後にzavの漏出があった場合、たとえそれが改宗前の精液放出から24時間以内(あるいはラビ・ヨセによれば当日中)であっても、彼はtameiになる。

 このミシュナの趣旨は、改宗後の「最初の」zav漏出について述べている点にある。改宗前に精液放出による衰弱があったとしても、改宗した人は「新しく生まれた者」と見なされるため、改宗前の履歴は法的に無関係となる。

ミシュナ『Zavim』2章4節:midras(ミドラス)による不浄化の法理と構造


 続いて「Zavim」2章4節に進む。まずは本文を引用する。

 zavは5つの仕方で寝台を汚し、人を汚し、彼の衣類を汚す、その上に立つことによって、座ることによって、横になることによって、ぶら下がることによって、よりかかることによって。

(Zavim 2:4)

 zavが自らの重みを対象物にかける行為、すなわち「midras(ミドラス)」を行う際、その寝台や椅子をtameiにする。ミシュナが挙げる5つの方法は、すべてこの「midras」という行為の異なる形態である。

 なお、midrasによって汚れた寝台はmishkav hazav(ミシュカヴ・ハザヴ)、midrasによって汚れた椅子はmoshav(モシャヴ)と呼ばれる。また、鞍(くら:saddle)の場合はmerkav(メルカヴ)と呼ばれる。

 本節のミシュナでは寝台のみ扱っているが、椅子などについても同様に適用される。トーラには次のように書かれている。

 漏出のある人の寝床や腰掛けはことごとく汚れている。

(レビ15:4)

 さて、ミシュナ本文には「人を汚し、彼の衣類を汚す」と書かれている。zavはav hatumahである。zavが直接触れて汚した場合(maga:マガ)、汚れの程度は1段階減衰してrishon l'tumahになる。

 しかしmidrasによって汚した場合は、汚れの程度は減衰しない。そこで寝台も椅子も、av hatumahになる。av hatumahは人や物にも汚れを移す程強い汚れである。そこで「人を汚し、彼の衣類を汚す」ことになる。

midrasにおける5つの方法の個別分析


 midrasの仕方について、ミシュナ本文では「その上に立つことによって、座ることによって、横になることによって、ぶら下がることによって、よりかかることによって」と書かれている。

 この5つの仕方を順番に確認する。

1〜3:垂直方向の圧力(立つ・座る・横たわる)の互換性


 まず「その上に立つことによって、座ることによって、横になること」の3つである。

 zavが、寝台または椅子などの上に立ったり、座ったり、横たわったりした場合、彼はその器具をmidrasによってtameiにする。器具の汚れの程度はmidrasである。

 上に引用したレビ記15章4節は「漏出のある人の寝床や腰掛けはことごとく汚れている」(レビ15:4)であるが、原文に即して翻訳すると「漏出している男が横になる寝具はすべてtameiになり、彼が座る物もすべてtameiになる」である。

 トーラのこの聖句を見る限り、寝具についてはその上に横になることで、椅子についてはその上に座ることでのみ汚れると読める。しかしTorat Kohanimによると、その逆もまた真である。すなわち、zavは寝具の上に座った時もそれをtameiにし、椅子の上に横たわった時もそれをtameiにする。

 このように、横たわることと座ることが入れ替え可能であることから、midrasの行為の本質は、これら2つの行為に共通する要素、つまり「対象物の上に自らの重みをかけること」にあると考えられる。従って、立っている状態など他の方法も、同様にmidrasの行為と見なされる。

4:懸垂状態における支点の不浄化(ぶら下がること)


 4番目は「ぶら下がること」である。これはzavの体重が対象物から離れる方向に働きつつ、その対象物によって支えられている状態を指す。

 典型的なケースは、zavが天秤の片方の皿に乗っており、寝具がもう一方の皿にある場合である。もし寝具側の重みで天秤が下がれば、反対側のzavはそれにぶら下がっていることになり、あたかもzavが寝具の上に座っているかのように(midrasとして)扱われる。

5:横方向への圧力による不浄の成立(寄りかかること)


 5番目は「寄りかかること」である。「寄りかかる(leaning)」とは、zavが寝具の重みに対して自らの重みの圧力を加えるときに発生する。「立つ、座る、横たわる」が寝具に対して下方向の圧力をかけるのに対し、「寄りかかる」行為は(対象物を動かすことなく)横方向の圧力をかけることによって成立する。

 zavが上述の5つの方法のいずれかで寝具を不浄にすると、その寝具はmishkav hazavとなり、av hatumahとなる。

 ミシュナ「Zavim」は5章まであるが、基本的な法理は以上で大体網羅した。より細かい法理については、今後機会があることを願いつつ、一端ここで区切りとする。

 全能である方、幸いも不幸をお造りになる方は、永遠に賛美されますように。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Zavim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nebdd61e61049


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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