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ミシュナ『Zavim』の法理研究 第6回:内因性疾患を否定する「7つの外因調査項目」と、確定zavにおける法的推定の適用

*本稿は、古代ユダヤ教『Zavim』における不浄論の歴史的・法理学的分析を目的とした純学術的な論考であり、文中の身体現象や性的禁忌に関する言及は、すべて宗教法学的文献の正確な読解に基づくものである。性的な関心を喚起する目的、あるいは公序良俗に反する意図は一切含まれていない。

 本稿は口伝律法ミシュナ第6部『Tohorot(トホロット)』に属する『Zavim(ザヴィーム)』の第6回目の解説である。

 今回は『Zavim』2章2節を取り上げ、前半では、男性のzovが「外因性刺激(飲食・運動・精神的要因等7項目)」によるものかを識別し、疾患(内因性)による汚れの成立を否定・除外する判定法理を解説。後半では、すでにステータスが「確定したzav」に対し、3回目以降の漏出において外因性の調査を免除し、体内の疾患(根拠)を法的に推定するハラハーの論理構造を詳解する。


前回の振り返り:不確定ステータスにおける特殊事例と全ユダヤ男性に課されるzavの法理

 前回は『Zavim』1章6節後半および2章1節を取り上げ、「2日連続の黄昏時における漏出」がもたらす不確定ステータスと、zavの掟の適用対象について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】2日連続の黄昏時(bein hashemashot:ベイン・ハシェマショット)による不確実性(1章6節)

 2日続けて黄昏時に漏出があった場合、日付の境界が曖昧なため、その人物の不浄ステータスには以下の3つの可能性が生じ、特定不能(不確定)となる。

①通常のzavにもならない可能性

 1回目が「日中」、2回目が「翌日の夜間」であった場合、間に丸一日の間隔が空くため、合算されない。

②通常のzavとなる可能性(いけにえ不要)

 2回とも「日中」、あるいは2回とも「夜間」であった場合、連続する2日間で計2回の漏出と見なされる。

③zav gamur(ザヴ・ガムール)となる可能性(いけにえ必要)

 いずれかの漏出が「昼から夜への境界」をまたいで起きた場合、その1回だけで2回分とカウントされ、もう一方と合わせて計3回となる。

 また、1回のみ黄昏時に漏出があった場合も、それが1回分(baal keri)か2回分(zav)かが不明であるため、汚れのステータスは不確定となる。

【2】zavの律法の普遍的適用(2章1節)

 レビ記15章2節の「イッシュ・イッシュ(如何なる男性でも)」という表現に基づき、すべてのユダヤ人男性にzavの規定が適用される。

①改宗者と奴隷

 トーラを受け入れた改宗者(ゲル・ツェデック:ger tzedek)や、ユダヤ人に所有されている異邦人奴隷(準ユダヤ人の位置付け)にも適用される。ただし、改宗していない居住異邦人(ゲル・トーシャヴ:ger toshav)は含まれない。

②意思無能力者と未成年

 法的に責任能力を欠く「耳の不自由な者」や「精神的に弱くなっている者」、および「未成年者」も、zavの掟の対象となる。

③生殖能力のない者

 去勢された者や生まれつき不毛な者も、精液は出なくともzovが出る可能性があるため、この律法が適用される。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Zavim』の法理研究 第5回:不確定ステータスにする特殊事例と、全ユダヤ男性に課されるzavの法理

https://note.com/mishnah/n/n0e118d7ce71e


ミシュナ『Zavim』2章2節:本文と外因性漏出の基本原則


 今回は口伝律法ミシュナ「Zavim」2章2節に入る。まずは本文を引用する。

 私たちは確定する前に7つの仕方でzavを調べる。食べ物、飲み物、荷物の運搬、飛び跳ねること、病気、見たもの、考えたこと。見る前に想像したのか、想像する前に見たのかは関係がない。

(Zavim 2:2)

 zavの汚れが成立するためには、zovの漏出が生殖器の疾患によるものである必要がある。もし、特定の外部要因(食べ過ぎ、重いものを持ち上げるなど)によって漏出が引き起こされた場合、それは「zavの汚れ」とは見なされない。

 女性のniddahやzavahの認定にあたっては、その原因は問われないのと対象的である。

 ミシュナ本文はzovについて調べる時に、7つの項目に従って調べられることを言っている。もし漏出の前にこれらの事実があったのなら、その男性はzavとは認定されない。またzovそのものはmagaによってのみ汚れを移し、masaによっては移さない。

レビ記15章に基づく「肉の不調(内因性)」と「初回の漏出」の法理


 外部的な原因によってはzavとは見なされないことは、トーラ本文の解釈による。

 もし、尿道の炎症による漏出があるならば、その人は汚れている。

(レビ15:2)

 翻訳には表れていないが、原文では「彼の肉から漏出があるなら」と直訳される。これは漏出が外部要因によるものではなく、彼自身の「肉の不調」に起因する場合のみ汚れが生じることを示唆していると解釈される。

 漏出が何回目であるかによって、この点での扱いも異なる。すなわち1回目の漏出に関しては、原因が何であれ、その人は「精液を放出した者(baal keri:バアル・ケリ)」と同じレベルの汚れを被る。

 タルムードは次のトーラの箇所を根拠にしている。

 尿道の炎症による漏出のある人、精の漏出のため汚れた人

(レビ15:32)

 この箇所において、「尿道の炎症による漏出のある人(zav)」と「精の漏出のため汚れた人(baal keri)」が並べて記述されている。精液の放出は外部刺激(性的興奮)によって起こるのが自然であるのと同様に、zavの最初の漏出もまた、外部刺激によるものであっても汚れ(接触による汚れなど)を発生させると考えられる。

外因性の基準となる「7つの項目」


 では「外部的な要因」を1つずつ確認する。

1番目及び2番目「食べ物、飲み物」

 食べ物や飲み物の過剰な摂取はzovを誘発すると考えられる。また、特定の食品は少量でも漏出を誘発するとされる。具体的には、脂っこい肉、チーズ、牛乳、卵、古いワイン、挽いた豆、クレソンなどである。

 従ってzovを漏出した者は、過剰な摂取をしたか、上記の品目を直前に食べたのか質問される。

 また、上記の品目はzovを誘発するので、7日間のclean dayの期間も摂取を控えるべきとされる。

3番目及び4番目「荷物の運搬、飛び跳ねること」

 重い荷物を運んだり、飛び跳ねたりするなどの激しい運動が身体に負担を与え、流出を招いた可能性がある。

 以上の1番目~4番目に関しては、摂取している間、運動している間だけでなく、その後不快感が残っている間であっても原因とされる。

5番目「病気」

 zavの本来の原因である「生殖器の局所的な疾患」とは異なる、全身性の病気や体調不良が流出を引き起こした可能性を調べる。

6番目「見たもの」

 これは性的な刺激を伴う視覚的経験を指している。刺激的な女性の姿を見たかどうかが問われるが、Tosafot(トサフォート)によれば、単に女性を見るだけでは、zovを漏出するのに十分な理由にならない。性的な営みを目撃したことなどを指すと解釈される場合もある。

7番目「考えたこと」

 これは夫婦行為を行うことを考えたり空想したことを指す。

 6番目と7番目に関しては、24時間以内のものとされる。

 以上の7つが列挙された後、ミシュナは「見る前に想像したのか、想像する前に見たのかは関係がない」と述べている。

 思考や空想は見ること(視覚)から独立した要因であり、逆もまた同じである。

 特定の女性を思い浮かべていなくても性的な空想をした場合や、以前に空想したことがない女性を目にした後に漏出が起こった場合、それらは外部要因によるものと見なされ、zavとして汚れていると見なされない。

少数派意見の検討:ラビ・ユダとラビ・アキバの基準


 続きには次のように書かれている。

 ラビ・ユダは言う、「彼が家畜の交尾、野生の動物の交尾を見たにしても、女性の綺麗な服装を見たにしても。」

(Zavim 2:2)

 ラビ・ユダ(Rabbi Judah)は、人間だけでなく、家畜や野生動物、鳥類が交尾している姿を見た場合でも、それが性的な興奮を呼び起こし、漏出の原因になり得ると主張している。

 更にたとえ女性が実際に着ていなくても、その女性の色鮮やかな衣服を見るだけで欲情が呼び起こされ、漏出につながる可能性があるとしている。

 しかし、ハラハーはラビ・ユダの意見を採用していない。従って、動物の交尾や衣服を見たことについては、zavの汚れを判定する際の調査対象には含まれない。

 続きには次のように書かれている。

 ラビ・アキバは言う、「彼が如何なるものを食べ、飲んだにしても。」彼らはラビ・アキバに言った、「もしもそうなら、今からzavはいなくなるだろう。」ラビ・アキバは彼らに言った、「それはあなたたちには関わりのない事だ。」

(Zavim 2:2)

 ラビ・アキバ(Rabbi Akiva)は、食べ過ぎや特定の食品だけでなく、「いかなる種類の、いかなる量の飲食物」であっても、漏出の原因になり得ると主張している。

 彼の見解によれば、ごく少量の飲食でも刺激になり得るため、漏出が外部要因ではない(疾患によるものである)と断定できるのは、その人が空腹の状態で漏出を経験した場合に限られる。

 これに対して彼ら(ラビたち)は次のように反論する。すなわち少量の飲食さえも外部要因と見なすならば、zavとして判定される者は一人もいなくなってしまだろうという主張である。

 これに対してラビ・アキバは「それはあなたたちには関わりのない事だ」と述べている。正しく判定しているなら、zavとして汚れる人が多かろうと少なかろうと、あなたたちに責任はないという事である。

 ハラハーはラビ・アキバの見解を採用していない。以上でzavを認定する為の「7つの項目」の議論は終わる。

確定zavにおける「調査免除」と法的推定(ハザカー)の成立


 続きには次のように書かれている。

 一度zavとして確認されると、私たちは彼を調べない。確定したzavの不幸と彼の疑い、彼の精液は汚れている、なぜなら根拠があるから。

(Zavim 2:2)

 冒頭の「一度zavとして確認されると、私たちは彼を調べない」とは、既に外部要因によらない漏出を2回経験し、通常のzavとして汚れていると宣言された人物を指す。

 一度zavとして確定した後は、その後に起こる3回目以降の漏出については、外部要因があったかどうかを調査しない。

 「確定したzavの不幸」とは、上記7つの原因によるものであるzovの漏出を指す。あるいは突発的な恐怖や打撃ということもあり得る。

 次の「彼の疑い、彼の精液」については、一見すると2つの別々のケース、すなわち「確定したzavによる不確実なzov」(疑い)と、「確定したzavによって放出された精液に関する規定」を指しているように見える。

 しかし、実際には「zavの精液放出によって引き起こされるzov」という1つのケースを指している。

 これは「精液を放出した後、最大24時間はzovの漏出があってもその人をzavとしてtameiにしない」という規定に関わるものである。

 この規定の理由は精液の放出によって、体力が低下し、身体的な事情によってzov漏出が起きた可能性があるからである。これは一種の病気によるzovと見なされる。「疑い」と書かれているのは、射精が原因であるかどうか確信は持てないからである。

 一端zavとして認められた男性は、以上の場合においても3回目のzovの漏出があったと見なされる。なぜなら外部的要因も一種の仮定に立つものであるが、一度zavの状態が確定した者については、その後の漏出も「外部刺激によるものではなく、すでに存在する身体の疾患によるものである」と考えられるからである。ミシュナ本文の「なぜなら根拠があるから」はそれを指している。

3回目漏出に関する規定と献げ物をめぐる論争


 続きには次のように書かれている。

 彼が1回zovを出した後、私たちは彼を調べる。2回目の漏出の後、私たちは彼を調べる。3回目の漏出の後、私たちは彼を調べない。ラビ・エリエゼルは言う、「3回目の漏出であっても、私たちは彼を調べる、献げ物の為に。」

(Zavim2:2)

 Tanna Kammaは何回までzovの漏出に関して調べるのか、確認している。zovの漏出について調べるのは2回までである。3回目については、その原因に関わらず、前の2回と結合して、その男性をzav gamurとする。

 これに対してラビ・エリエゼル(Rabbi Eliezer)は、3回目の調査も必要であるとする。彼に献げ物の義務があるかどうか、判断する為である。しかしこの見解はハラハーとして採用されていない。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Zavim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nebdd61e61049


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。
 
◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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