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ミシュナ『Niddah』の法理研究 第5回:性別不確定者(tumtum/androgyne)の不浄期間と、胎児の出生判定をめぐる境界線上の法理(3章5節)

*本稿は、古代ユダヤ教『Niddah』における不浄論の歴史的・法理学的分析を目的とした純学術的な論考であり、文中の身体現象や性的禁忌に関する言及は、すべて宗教法学的文献の正確な読解に基づくものである。性的な関心を喚起する目的、あるいは公序良俗に反する意図は一切含まれていない。

 本稿は口伝律法ミシュナ第6部『Tohorot(トホロット)』に属する『Niddah(ニッダー)』の第5回目の解説である。

 今回は『Niddah(ニッダー)』3章5節の法理学的分析である。性別不確定者(tumtum:トゥムトゥム)および両性具有者(androgyne:アンドロギノス)を流産・出産した際における、産婦の過渡的不浄(tamei)期間および清浄(tohar)の血の期間(重複計算ハラーハー)を厳密に算出。

 更に胎児の「大部分の産出」が出生判定の基準であることや、安息日の割礼の可否を左右する点について、文献学的に精密な解説を展開する。


前回の振り返り:産婦(yoledet)の不浄構造と形のない肉の塊(chatichah)


 前回は、ミシュナ『Niddah』3章1節に基づき、産婦(yoledet:ヨレデット)の不浄規定と、胎児の形を成さない「肉の塊(chatichah:ハティハー)」を排出した際の法理的判断を解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】産婦(yoledet)の不浄規定の基本構造

 レビ記12章に基づき、出産後の女性は「不浄期間」と「清めの血の期間」の2段階を経て完全に清い状態に戻る。

①男児出産

 最初の7日間が不浄(tamei)となり、その後の33日間は「tohar(トハル)の血」の期間として、出血があっても清い状態と見なされる。

②女児出産

 最初の14日間が不浄、その後の66日間が「toharの血」の期間となる。

 第1段階(7日または14日)を終えてmikvehに浸かれば夫婦好意は再開出来るが、規定の日数が満了し、神殿で献げ物を終えるまでは、聖なる物に触れられない「贖罪未完了者(mechussar kippurim:メフサル・キップリーム)」という過渡的なステータスにとどまる。

【2】「形のない肉の塊(chatichah)」をめぐる論争

 妊娠中の女性が、人間の形態を成していない肉の組織(chatichah:ハティハー)を排出した場合の扱いについて、2つの対立する見解が示される。

①匿名意見(Tanna Kamma)

 胎児の形がないため「出産の法」は適用されない。従って、「血を伴う場合」のみ月経中の女性(niddah)として不浄になり、血を伴わなければ清い(tahor)状態であると判断する。

②ラビ・ユダ(Rabbi Judah)の見解

 血が見当たらなくても常に不浄(niddah)であると主張する。これは、「出血を伴わずに子宮が開くことはあり得ない(子宮開口と出血の不可分性)」という原則に基づき、目に見えなくても少量の出血があったと見なす為である。

【3】法理適用の背景

 この論争において、Tanna Kammaの見解では、排出物に血が混じっていたとしても「出産の血」とは見なされず、特定のサイクル(niddah/zavah周期)におけるタイミングによってのみ不浄と判断される。

 一方、ラビ・ユダは「子宮からの出血」という事実そのものを重視し、それを一律にniddahの汚れとして扱う。

 『Niddah』3章1節では、「月経」の議論から、さらに「出産」および「妊娠、肉の塊の排出」という、より複雑な身体事象における不浄論へと議論が深化したことになる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Niddah』の法理研究 第4回:産婦(yoledet)の過渡的不浄規定と形のない肉の塊(chatichah)をめぐる子宮開口の法理(3章1節)

https://note.com/mishnah/n/n966fbfb6c374


ミシュナ『Niddah』3章5節における性別不確定者(tumtum/androgyne)の定義


 今回はその続きで口伝律法ミシュナ「Niddah」3章5節である。まずは本文を引用する。

 もし女性がtumtumや両性具有者(androgyne:アンドロギノス)を流産するなら、男児と女児の汚れと清めの期間を持つ。もし彼女がtumtumと男児、または両性具有者と男児を流産するなら、男児と女児の汚れと清めの期間を持つ。しかしもし彼女がtumtumと女児、または両性具有者と女児を流産するなら、女児の汚れと清めの期間を持つ。

(Niddah 3:5)

ハラハーが規定するtumtumとandrogyneの解剖学的識別


 性別に関する身体的特徴という著しく繊細な内容であるが、律法の中ではしばしばtumtum(トゥムトゥム)もandrogyne(アンドロギノス)も出てくるので、どこかで説明しなくてはならない。今回の機会に解説する。まずは両者の定義から述べる。

①tumtum (トゥムトゥム)

 生殖器が厚い膜で覆われた状態で生まれた子供。そのため、性別が不明な状態である。

②androgyne(アンドロギノス)

 男性と女性の両方の生殖器を持つ、いわゆる半陰陽(ふたなり)を指す。膜の下に1組の生殖器が隠されているtumtumとは異なる。

 tumtumもandrogyneも、性別が不明な点では共通している。「Niddah」3章5節では、女性がtumtumかandrogyneを出産した場合の汚れと清めの手続きについて述べている。

性別不確定児の単独・双子出産における不浄(tamei)および清浄(tohar)期間の算出原理


 「男児と女児の汚れと清めの期間を持つ」とあるのは、生まれた子供の性別が男か女か不確実であるため、母親は両方の可能性における最も厳しい制限に従わなければならないことを示している。

 具体的には、次のようになる。

男児規定と女児規定の重複に伴う「26日間のtohar期間」の数理的根拠


①最初の2週間

 女児を出産した可能性を考慮し、14日間はtameiの状態になる。男児の場合は7日間であり、女児出産の方が、規定が厳しいからである。

②その後の26日間

 14日間経過後、さらに26日間のみ「toharの期間」(出血しても汚れと見なされない期間)を保つことが出来る。

 これは、男児出産の場合、第1段階(汚れの期間)が7日間、第2段階(toharの期間)が33日間で、合計40日になることに基づいている。

 tumtumかandrogyneを出産した場合、最初の14日間は第1段階(汚れの期間)になるので、「40 – 14 = 26日間」がtoharの期間になる。その後に出血した場合、産婦はniddahとして次の月経サイクルを始めることになる。

 なお、ミシュナ本文では「出産」とはせずに「流産」としているが、無事に出産した場合も、あるいは不幸にも流産した場合も、両方含んでいる。

双子(男児と性別不確定児)出産における厳格規定の適用


 続きには次のように書かれている。

 しかしもし彼女がtumtumと男児、または両性具有者と男児を流産するなら、男児と女児の汚れと清めの期間を持つ。

(Niddah 3:5)

 この箇所は双子の出産を扱っている。対象は「明確な男児」と「tumtumまたはandrogyne」の双子である。

 この場合「男児と女児の汚れと清めの期間を持つ」と書かれているが、上に説明した「男児を出産した場合、女児を出産した場合の厳しい規定を遵守する」ことを指している。すなわち

①最初の2週間

 「tumtumまたはandrogyne」の出産において、女児を出産した可能性を考慮し、14日間はtameiの状態になる。

②その後の26日間

 「tumtumまたはandrogyne」の出産において、男児を出産した可能性を考慮し、「残り26日間」をtoharの期間として過ごす。

 続きには次のように書かれている。

確定的女児との双子出産時における女児規定(計80日間)の優先則

 しかしもし彼女がtumtumと女児、または両性具有者と女児を流産するなら、女児の汚れと清めの期間を持つ。

(Niddah 3:5)

 この箇所では前の箇所と異なり、「女児とtumtum」または「女児とandrogyne」という組み合わせで双子を流産(または出産)した場合の規定である。

 結論としては、この場合、母親は女児出産の規定(不浄期間とtoharの期間)のみに従えば足りる。双子のうち一人が確実に女児であるため、もう一人の性別が何であれ、女児出産の規定が優先される。

 これは男児と女児の双子を出産した場合、女児出産の規定が守られる事例を考えると分かりやすい。下の箇条書きを見て欲しい。

女児出産の規定:14日間の不浄+66日間の清浄=計80日間

男児出産の規定:7日間の不浄+33日間の清浄=計40日間

 このように見てみると、女児出産の規定は遵守期間という点で「不浄期間」も「toharの期間」も長い。従って男児と女児の双子を出産した場合、結局不浄期間は14日守らなくてはならないし、toharの期間も66日間守らなくてはならない。

 すなわち、双子の一方が確実に女児の場合は、女児出産の規定に従うことになる。

 「女児とtumtum」または「女児とandrogyne」という双子を出産した場合、同じような手続きを踏むという事である。

産道からの「大部分の産出」および「額の露出」による出生判定基準


 続きには次のように書かれている。

 もし胎児の体がバラバラになって出てきたなら、または逆さまに、その大部分が出てきたなら、出生したものと見なされる。

(Niddah 3:5)

 胎児の体の各部がバラバラに出てきた場合、または逆子で出てきた場合、体の大部分が出てきた時点で出生と見なされる。

 続きには次のように書かれている。

 もし通常の仕方で出てきたなら、頭の大部分が出てきたなら、出生したものと見なされる。頭の大部分とは何であろうか?その額が出た時である。

(Niddah 3:5)

 通常の仕方で胎児が出てきた場合、それは頭が先になるが、その場合は額が出てきた時点で出生と見なされる。

 彼らの暦では日没を境に翌日へと移行する。とりわけ金曜日の日没(安息日の到来)を跨ぐ境界線上の事例において、ミシュナが定める「大部分が産道から出たかどうか」という基準は決定的な意味を持つ。

 なぜなら日没前と日没後では遵守期間が1日早く終わるか遅く終わるかを左右するし、割礼は出生から基本的に8日目で行わなくてはならない。

 安息日に割礼は許容されているが、8日目でないのに安息日に割礼を施すことは、安息日のmelachah禁止規定に抵触するので認められない。

 従って、こうした極限状態におけるいても出生と見なす時を厳密に規定することは、ユダヤ法(ハラーハー)の運用において不可欠の要請と言えるのである。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Niddah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nb46479539fed


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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