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ミシュナ『Eruvin』の法理研究 第6回:『Eruvin』7章6節における路地共有(shitufei mevoot)の代理人資格、及びヘブライ人女奴隷(出エジプト記21章7~11節)についてのハラハー

*本稿は口伝律法ミシュナ第2部『Moed(モエド)』に属する『Eruvin(エルーヴィン)』の第6回目の解説である。

 『Eruvin(エルーヴィン)』7章6節を網羅的に解説。路地共有(shitufei mevoot)における所有権移転の代理人資格(成人・未成年の定義、学説対立)から、出エジプト記21章7~11節の「ヘブライ人女奴隷の解放条件(思春期の兆候・減価償却)、婚姻義務の法理までをラビ文献に基づき網羅する。


前回の振り返り:『Eruvin』6章1節における「制限者」の法理と路地共有の基本概念


 前回は「Eruvin」第6章1節に基づき、共同中庭において運搬を制限する「制限者」の定義と、路地へと許可範囲を広げる「路地の共有」について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】運搬を制限する「異端規定」と「異邦人」(6章1節)

 共同中庭(chatzer)で安息日に運搬を行うためには、住民全員を一つの世帯と見なす「中庭の合併(eruvei chatzeirot:エルーヴェイ・ハツェイロット)」が必要であるが、特定の隣人がいる場合は制限が生じる。

①異邦人

 宗教的枠組みを共有出来ないので、eruvや権利放棄の手続きをすることは出来ない。そのため、彼らから権利を「賃借」する擬制契約が必要となる。

②サマリア人・サドカイ派

 彼らは口伝律法やラビの権威を否定しているため、彼らと同じ中庭を使用するユダヤ教徒は、通常のeruvの手続きで運搬することは出来ない。

【2】単独居住時における制限の有無(学派の対立)

 異邦人と同居しているユダヤ教徒が1人のみである場合、その異邦人が制限者となるかについて議論がある。

①ラビ・メイル(およびTanna Kamma)

 ユダヤ教徒が1人であっても、異邦人の存在は常に制限となると主張した。

②ラビ・エリエゼル・ベン・ヤコブ

 ユダヤ教徒が2人以上いる場合にのみ、異邦人が制限の原因になると主張した。彼は、異邦人の住居は律法上の「住居」とは見なされず、ユダヤ教徒が1人の場合は権利を賃借する必要はないと主張した。

③最終的な法規定(ハラハー)

ラビ・エリエゼル・ベン・ヤコブの説が採用されており、ユダヤ教徒が1人であれば制限は発生しない。

【3】空間の拡張:路地の共有(shitufei mevoot)

 中庭内だけでなく、より広い「路地(mavoi:マヴォイ)」での運搬を可能にするための法理である。

①概念

 「中庭の合併」は同じ中庭を共有する者たちのための手続きであるが、「路地の共有(shitufei mevoot:シトゥフェイ・メヴォオット)」は、その路地に面するすべての中庭の住民を一単位として統合する手続きである。

②必要性

 ある中庭でeruvが設定されていても、それだけでは路地(他の中庭の住民も利用する場所)へ物を運ぶことは許容されないため、この手続きが必要になる。

【4】祝福の祈り(定型句)


 eruvei chatzeirotやshitufei mevootを設定することは「掟(mitzvah:ミツヴァ)」の実行であるため、祝福を唱える必要がある。

eruvei chatzeirot:「すべての人々が家から家へ、中庭から中庭へ、物を運び出すことが許されますように」という祈りを唱える。

shitufei mevoot:「路地のすべての住民が、中庭から路地へ、路地から中庭へ、物を運び出すことが許されますように」という祈りを唱える。

 これらの内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Eruvin』の法理研究 第5回:『Eruv』6章1節における「制限する者」の法理――サマリア人・サドカイ派の異端規定と異邦人、更に路地共有(shitufei mevoot)の基本概念

https://note.com/mishnah/n/n6fb71566ef6a


ミシュナ『Eruvin』7章6節:路地共有(shitufei mevoot:シトゥフェイ・メヴォオット)の法理


 今回はその続きで、口伝律法ミシュナ「Eruvin」7章6節に入る。まずは本文を引用する。

 どのように路地の為にshitufei mevootをするのだろうか?誰かが1つの樽を置いて宣言する、「これが路地に属するすべての住民のものとなるように。」彼は自分の大人の息子、または娘を通して、彼らに所有権を譲ることが出来る。彼のユダヤ人奴隷または女奴隷、または妻を通しても出来る。しかし彼は彼の未成年の息子または娘、彼の異邦人奴隷または異邦人女奴隷を通して移行することは出来ない、なぜなら彼らの手は彼の手と同じだから。

(Eruvin 7:6)

路地共有における食料(shituf)の集約と実用的解決策


 この箇所では路地(mavoi)の住民全員で共有する食料(shituf:シトゥフ)をどのように用意し、法的に有効なものとするかが詳しく述べられている。

 路地全体の運搬制限を解除するために、すべての中庭の住民から食料を集めるのは非常に手間がかかる。そのため、ミシュナはより実用的な解決策を規定している。

 路地の住民の一人が、全員分として十分な量の液体(ぶどう酒や油など)が入った樽を用意する。

 関係する住民全員がshitufの所有権を共有する為に、代表者は次のように宣言し、所有権を移転させる。

 この宣言の定型文がミシュナ本文に書いてある「これが路地に属するすべての住民のものとなるように」という文言である。

代理人資格の法的要件(ハラハーにおける成人・未成年の定義)


 さて、所有権を移転させるには、他の住民たちに代わってその権利を受け取る「代理人」が必要となる。

 全員を代理する代理人は、樽を少なくとも1手幅(約8~10センチ)以上持ち上げることで、住民全員の為に所有権を取得する。

 当然ながら、住民全員を代理する代理人は、その樽と中身の液体の元の所有者(代表者)が務めることは出来ない。ミシュナ本文では代理人になる資格のある人、資格のない人を列挙している。

 以下の通りに箇条書きにまとめることが出来る。

(1)代理人の資格のある人

①成人した息子

②成人した娘

③ユダヤ人の男奴隷

④ユダヤ人の女奴隷

⑤妻

 言うまでもなく、成人した息子は管理権限を持っている。そこで住民全員の為の代理権を有効に行使することが出来る。

 成人した女性はbogeret(ボゲレット)と呼ばれ、管理権限を享受している。住民全員の為の代理権を有効に行使することが出来る。

 次の③ユダヤ人の男奴隷、④ユダヤ人の女奴隷については注意を要する。名称では「奴隷」という用語を用いるが、実質的にはユダヤ人奴隷は契約した奉仕者であり、自立した管理権限を享受している。そこで、住民全員の為の代理権を有効に行使することが出来る。

 次に⑤妻について、夫は妻に対する権威を有するが、住民全員の為の代理権まで排除するものではない。

 以上で、有効に代理権を行使出来る立場の者たちについて解説した。

代理人資格のない者と「未成年」を巡る学説対立


 次に有効に代理権を行使出来ない人たちの一覧である。

(2)代理人になる資格のない人

①未成年の息子

②未成年の娘

③異邦人の男奴隷

④異邦人の女奴隷

 まず未成年の息子や娘について、彼らは父親の管理下にあり、彼らの稼いだもの、拾得したものなどは、父親の所有となる。彼らは独立した管理権限を持っていない。

 ただここでの「成人」、「未成年」の定義について、争いがある。次のようにまとめられる。

【Rif、Rambam、Rambanなどの説】

 成人とは男子の場合13歳、女子の場合12歳に達している者を指す。

【Tosafot、Roshなどの説】

 成人とは自ら生計を立てている者を指す。もしも父親に経済的に依存しているなら、彼らはここでは未成年である。

 どちらの見解についても、「Shulchan Aruch」で言及されている。

 次の点がやや複雑である。未成年であっても、自分の父親でない者からであるなら、他の住民を代理して、代理人として所有権の移転を受けることが出来る。この点では全ての専門家が一致している。

 上に挙げた「代理人の資格のある人」の一覧を再掲する。

①成人した息子

②成人した娘

③ユダヤ人の男奴隷

④ユダヤ人の女奴隷

⑤妻

 この内④ユダヤ人の女奴隷は定義上未成年に限られるのである。従ってユダヤ人奴隷であるなら、未成年でも、ここで代理人となることが出来る。勿論、元の所有者が自分の父親である場合は除く。

出エジプト記21章7~11節にみる「ユダヤ人女奴隷」の解放と婚姻法理


 「Eruvin」に関する今回の主な内容は以上であるが、ユダヤ人の女奴隷については、この機会に詳しく解説しておく。以下の解説は主にRashiの注解を参考にしている。

 まずユダヤ人女奴隷に関するトーラ本文を引用する。

 7人が自分の娘を女奴隷として売るならば、彼女は、男奴隷が去るときと同じように去ることはできない。 8もし、主人が彼女を一度自分のものと定めながら、気に入らなくなった場合は、彼女が買い戻されることを許さねばならない。彼は彼女を裏切ったのだから、外国人に売る権利はない。 9もし、彼女を自分の息子のものと定めた場合は、自分の娘と同じように扱わなければならない。 10もし、彼が別の女をめとった場合も、彼女から食事、衣服、夫婦の交わりを減らしてはならない。 11もし、彼がこの三つの事柄を実行しない場合は、彼女は金を支払わずに無償で去ることができる。

(出21:7~11)

異邦人奴隷(出21章26節)との対比にみるユダヤ人奴隷の3大解放条件


 第一に父親は未成年の娘を売りに出す権限を持っている。

 「彼女は、男奴隷が去るときと同じように去ることはできない」は分かりにくいが、この「男奴隷」とは異邦人奴隷を指している。ユダヤ人の女奴隷は異邦人奴隷と同じ仕方では解放されないことを言っている。

 この点の意味を理解する為には、同じ出エジプト記21章の26節を参照する必要がある。次のように書かれている。

 人が自分の男奴隷あるいは女奴隷の目を打って、目がつぶれた場合、その目の償いとして、その者を自由にして去らせねばならない。

(出21:26)

 異邦人奴隷は身体的な傷害を負わされた場合、解放される。ユダヤ人奴隷の場合は、このような敬意を欠いた仕方は解放の条件とはならない。ユダヤ人女奴隷の場合、解放条件は次の3つのいずれかである。

①6年間奉仕する。

②ヨベルの年が来る。

③思春期の兆候が現れる。

 この内、①については出エジプト記21章2節を、②のヨベルの年については、例えばレビ記 25章 39~41節で確認して欲しい。

 馴染みのないのは③であると思われる。「思春期の兆候が現れる」とは、娘が12歳に達し、かつ陰毛が2本以上生えた状況を指している。

父親の売却権限と「婚姻の内定」


 さて、父親が娘を売る行為は、単なる労働力の売買ではなく、「将来の結婚が前提とされている」。父親に払われた価額は結婚の第1段階(Kiddushin)の為のものである。

 男性が女性を妻として獲得する手段の1つは、金銭の支払いである。主人が父親に支払った金銭はその意味合いを持っている。

 ここで明示されていないが明らかなことは、正式に結婚する時に彼女は奴隷から解放されるということである。また、主人は新たにKiddushinの為に金銭の支払いをしなくてよいという事である。

 しかし実際に家に入れてみると、主人が娘を気に入らないという状況もあり得る。それについてトーラ本文で「気に入らなくなった場合は、彼女が買い戻されることを許さねばならない」と述べている。

 この点、トーラでは「彼は彼女を裏切った」と表現している。同胞の娘を買う場合、彼女を嫁にするのは主人の任意に任せてよいのではなく、1つの掟として果たさなくてはならない義務であることが示されている。

 主人は自分が結婚せず、息子に与えることによって掟を実行することも出来る。この場合、息子は改めてKiddushinの為に金銭の支払いをする必要はない。

 しかし自分で娶ることもせず、息子に与えることもしないなら、主人は娘が買い戻されるのを認めるのみならず、自由になるのを助ける義務がある。そこで主人の家にいた期間は契約した労働者であったかのように計算し、元の購入価格から差し引くことにする。

 例えば100ズズで6年契約として彼女を購入し、2年間働いた場合、彼女は100ズズの3分の1については既に働いたことになる。主人は残りの3分の2の支払いを受けることで、彼女を解放しなくてはならない。

 主人は彼女を転売してはならないし、父親が再度彼女を売ることも出来ない。

三大婚姻義務(食事・衣類・夫婦行為)の不履行と無償解放の仕組み


 出エジプト記21章10節では、主人が別の女性も娶った場合について言っている。すなわち「もし、彼が別の女をめとった場合も、彼女から食事、衣服、夫婦の交わりを減らしてはならない」である。

 この箇所で、主人は元女奴隷であった娘から、以下の3つを減らしてはならないことが命じられている。

・食事

・衣類

・夫婦行為

 この3つである。もしこの掟を忠実に守らないなら、彼女は「金を支払わずに無償で去ることができる」(出21:11)とされている。この箇所は少し説明を要する。

 もしも主人が上記の3つを減らしてしまい、他方で彼女に思春期の兆候が現れたなら、彼女は解放金を支払わずに無償で解放されるという事である。

結論:奴隷身分の超越と家族の一員としての尊厳


 これら一連の規定は、ユダヤ人の女奴隷が単なる労働力ではなく、最終的には家族の一員として迎えられるか、あるいは適切な時期に尊厳を持って解放されるべき存在であることを示している。

 話を戻すが、以上から分かる通り、ユダヤ人女奴隷は本質的に未成年である。従って未成年のユダヤ人奴隷は路地を共有する家主全員の代理人として、所有権の移転を受けることが出来ると解釈されている。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を進めるためのご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Eruvin』法理研究

https://note.com/mishnah/n/ncb2fc95494d1


 全記事の目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.2】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.201〜No.300)

https://note.com/mishnah/n/na80e65fb273e

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334

(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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