細胞の恒常性と電気生理学のMurburn構想による批判的分析
満を持して(?)Murburn構想の全貌を著した論文紹介。提唱者のMurali教授と、「世の中の99.99%に否定されようと私はAIH(会合誘起仮説)を信じる」との名言を残された、我国が真に誇るべき侍科学者こと玉川先生の共著論文である。私は現代医学・生理学論文の9割は戦前科学の焼き直しと思っているが、この論文は数少ない残り1割に属す、まさに最新科学論文である。こういう日本人研究者を見ると嬉しくなる。
玉川先生のお顔が拝見できて大変嬉しく思います。
— Mit-Nak serovar.medicalis (@Mit3279) May 27, 2024
日本人!!世界に誇るべき侍科学者やぞ!!
かの千島先生と同じ岐阜大学の教授であられることに運命を感じざるを得ない。 https://t.co/q12yipPoH2


-2016/09/16 岐阜大学 「研究室から大学はいま」
生命の構成単位である細胞は細胞膜を介して膜電位と呼ばれる微弱な電圧を生み出します。膜電位は細胞活動時に大きく変動し、これは生命活動の現れの一つと考えられています。膜電位発生やその振る舞いのメカニズムの解明は前世紀生命科学分野の主要研究テーマの一つでしたが、今日では、ごく単純に言えば「可動荷電物質が細胞膜を透過する現象」に支配されているという考えが定説となり、解決済みのテーマです。
しかし、20年ほど前、私はこの定説に反する忘れ去られた学説があることを知りました。その学説によれば、膜電位の発生やその振る舞いは「可動荷電物質が細胞構成物質へ吸着固定化される現象」に支配されています。
私は正式な生命科学教育を受けたことは一度もありませんが、自身が学んできた拙い数学や物理、化学の知識を基に考え、定説は誤りなのではないかと考え、以来、その忘れ去られた学説の証明を目標に研究を行っています。
私の研究成果に対しては否定的な評価をいただくことが多く、時には非常に厳しい批判を浴びることもあります。しかし、少数ですが成果を受け入れてくれる研究者もいます。一緒に研究する仲間も現れました。私は、いつかこの学説が認められると信じて、静かな岐阜大学の中で日々研究を行っています。
その「忘れられた学説」ことAIHを私は6,000マイル先の友人(例の1972年WHO論文の暴露で一部界隈で有名な方)から知った。こんな根本レベルで生物学理解に乖離のある人物にスラング英語で医学を罵倒されても一般人には意味不明なので、少しずつ翻訳して理解に努めている。その翻訳マガジンがこちら。
また、同時並行で進めたベシャン追究の結果、AIHは「ベシャンのマイクロザイマス理論を現代理系用語で再解釈し得る唯一の学説」との見解に至った。それは両者が同じ現象を記述していることの確信に加え、ベシャンの発言の中にAIHだけが裏付けるもの(すべてのタンパク質は金属元素と結合状態 / ヘモグロビンはカリウムと結合状態)があった為だ。
さて、2016年時点で学説との出会いが20年前ならばリン博士は勿論御存命(2019年11月死去)なので、互いに面識があるのでは?と思ったらこれだ。

この極少数の者達が発見した新たな真理は今尚人類の大多数には認識されておらず、世界中の高校や大学のカリキュラムでも教えられていない。玉川浩久准教授指導の下、日本の岐阜大学を唯一の例外として、だ。この反響の遅延の主な原因は科学史を振り返れば容易に想像できよう。例えば、物理学者達が(革命的な)気体分子運動論や原子・分子の実在を受け入れるまでには170年の歳月を要した。我々は未だそこまでの遅延には至っていない。とはいえ、本書の一部はこの「暗黒時代」を可能な限り短縮することに捧げている。その目標を達成するため、まず一つの問いから始めよう。
確認してみた所、本稿のテーマであるMurburn構想はAIHの補完的学説のようで、AIHに修正を迫るものでも直接的に関係するものでもない。AIHを研究していた玉川先生にある日Murali教授側が連絡を取り、共同研究の関係となられたようだ。ただでさえAIHすらロクに邦訳されていない中、私は先んじてこの学説に(ADHD的に)手を付けたことになるが(※AIHを要約してくれているので理解が進むという理由もある)、存在を知ってしまったからには拡散しなければ気が済まない。
そんなわけで当然の如く一切の世間の注目を浴びていない 、つまりベシャンのマイクロザイマス理論と同様に「権力者の習慣・情念・利益に反する新たな真理の宿命を経験」しているインド発の革命的学説の紹介である。
~古典的生体エネルギー学に対するMurburn概念の影響~
— Mit-Nak serovar.medicalis (@Mit3279) November 3, 2023
2017~18年にかけて
・電子伝達系
・プロトンポンプ(化学的浸透圧)
・回転ATP合成
が完全に見当違いだと証明した。
これにより、細胞生物学の基盤全体が崩壊し、生物学/生化学の教科書にあるノーベル賞もののアイデアが無効となり→ https://t.co/R3T2OL4uDy
~古典的生体エネルギー学に対するMurburn構想の影響~
2017~18年にかけて
・電子伝達系
・プロトンポンプ(化学的浸透圧)
・回転ATP合成
が完全に見当違いだと証明した。
これにより、細胞生理学の基礎全体が崩壊し、生物学/生化学の教科書にあるノーベル賞級のアイデアが無効となり、そして細胞機能の理解ならびに実験データの解釈に新たな手法が要求されることを意味する。
添付の画像は、古典的生体エネルギー学に対する私の批判論文(PMID: 30643418)が、多くの研究者に読まれたことを表している (この雑誌で最多ダウンロード数を誇るが、論文の出版から数カ月後に廃刊となった!)
ミトコンドリア関連の論文は継続的に増えている一方、私の論文が出版されて以降、化学的浸透圧/プロトン駆動力を扱うものは減少している。これは権威あるNature誌とPubmedの大量の文献で証明されている。
私の追及に反対する者は、自身の名前と資格を公に晒すべきである。歴史は永久に記録しているのだから。ブラインド・レビュアーに居座る偽の専門家達はこれまで卑怯な手段を行使してきた。論文は出版されたが、指導者のせいで人々はそれを受け入れられずにいる。
結果、若い世代は誤ったアイデアを教えられ、重要な臨床/研究データを誤読し続けているのだ。我々は完全に反証されたアイデアを採用し続けることは誤りだというビジョンを明確に把握しなければならない。
一時期Murali教授はTwitter上でミトコンドリア関連アカウントに特攻を仕掛けまくっていたのだが、あまりの無反応を前に諦めたようだ。悲しいかな、最近はもはやログインの形跡すらない。そんな、まさに現代でガリレオ裁判の憂き目に遭っている真っ最中の「医学応用は内容の性質上物理学者との協力が欠かせない」新生理学理論、是非とも物理学者を中心にとくとご覧あれ。
Manoj, K. M., & Tamagawa, H. (2022). Critical analysis of explanations for cellular homeostasis and electrophysiology from murburn perspective. J. Cell. Physiol., 237(1), 421–435. https://doi.org/10.1002/jcp.30578
和訳
要約
現代の細胞電気生理学には根本的レベルで見解の相違がある。生体恒常性の膜理論が細胞膜並びに膜に埋没したタンパク質を主たるプレイヤーと想定する一方、会合誘起 (吸着/バルク相)仮説では溶解タンパク質の水相(細胞質/原形質) が細胞組成とイオンフラックス の重要な決定因子と想定する。第一学派では、膜貫通電位(TMP)並びに選択的イオンポンプチャンネルがその重要な作動原理と考える。後者の理論では、収着/脱着ダイナミクスとバルク相の再配列が決定する。どちらの学派の理論家も、
・マクロ相では電気的中性が保たれ
・TMP(静止/活性状態)は膜を横断したイオン濃度差のみで生じ
・関連タンパク質はこれらの結果に影響を及ぼす/受ける為に大きなコンフォメーション変化を起こすと信じている。この領域への新参者であるMurburn構想は分子的考察からマクロ的観察まで網羅する。イオン濃度差やTMP変異の根拠には
・「実効電荷分離 」
・難解な「"分子-イオン-ラジカル"電子輸送平衡 」を挙げている。古典的な二派の学説を公平に批評した後、本総説では従来まで未解決の問題の観察/考察をポイントごとに分析し、力学的観点から再考を促している。
1. | はじめに
細胞電気生理学は、細胞内の電解質(陽イオンと陰イオン)の調節と変動、そして、そうした現象に由来する電気化学的・物理的プロセスの研究を行うのが一般的である。常に浮上する疑問は『細胞の内外で陽イオンの比率や濃度が異なるのはなぜか?』である。細胞が励起すると細胞膜上で測定される電位差が一過性に変化する理論的根拠とは何か?この分野で目にする有名な用語/概念は以下の通りである。
・Nernst電位(Feiner & McEvoy, 1994)
・静止電位のGoldman-Hodgkin-Katz方程式(Cronin, 1987)
・活動電位のHodgkin-Huxleyモデル(Hodgkin & Huxley, 1952)
科学界には、上記の構想が支持を得るまで膜貫通電位(TMP)の発生源に関する論争があった。TMPは「相を貫通するイオン運動の結果」か「界面イオン吸着の結果」か、対立する学派の間で長年の論争があった問題である。最初の衝突は1918年(Colacicco, 1965)であり、電解質のある油と水の界面に発生する電位の研究で記録されている。「有機物や生体組織による電気の発生は既知の熱力学法則で説明可能か?」この議論でBaur(イオン吸着論者)がBeutner(イオン輸送論者)に譲歩した。数十年後に再燃した議論がFreeman CopeとIan Glynn論争である(TIBS, 1977)。Gilbert LingやRaymond Damadianなどの人物と親交がある米国物理学者のCopeは、イオンポンプは熱力学的に不可能だと述べた。Steven KarlishやJoseph Hoffman等と交流がある、ケンブリッジ拠点の英国生理学者Glynnによると、ポンプ活動を行うタンパク質はJens Skouが分離、つまりポンプ活動が実験的に証明されたと述べた。1982年にCopeが非業の死を遂げたことでこの論争は沈静化したかに思われた。最近になって、一部の熱心な物理学者が持論を支持する多くの議論と証拠を集めたことで再燃している(Bagatolli et al., 2021;Bagatolli & Stock, 2021; Fillafer et al., 2021; Olsen et al., 2020)。
本稿では、関連概念を簡潔かつ公平に再検討し、イオンの状態(恒常性/TMP)とその変動ダイナミクスを司る力と要因に関する様々な研究者間の根本的な認識の相違を図式化する。そして既存データとMurburn構想の生体エネルギー学的観点から得られる今後の発展に関して、評価を得ている学説と疎外的な学説の両方を批判的に分析する。
2. | 有名な学説の分析
細胞電気生理学の歴史上、根本レベルで食い違う2つの学派が存在する。
・古典的膜理論 (CMT):細胞膜機能で細胞内外のイオン濃度差が生じるとする教科書的な定説である。細胞膜の選択的孔/チャンネル、活動ポンプ、リーク/拡散/浸透力にあり、膜を挟んだイオン分布に差が生じ、これが電位差に繋がる。
・会合誘起仮説(AIH):バルク相タンパク質および水の組織化がイオン濃度差の原因と主張する、幾らか排斥されている学派である。膜/バルク相の様々な表面上へのイオン吸着によりイオン分布が内外の相で変動し、電位差の観察に至る。
この領域の研究は諸事情から複雑化している。2つの相を隔てる膜が複数の平衡状態:
(a)電気的平衡(電荷の分布から生じる)
(b)化学的平衡(濃度勾配の差に基づくイオンの拡散移動)
(c)浸透圧平衡(任意の相内にある可溶性粒子の総数に基づく束一的性質)
などが同時に操作可能である点である。また、マイクロナノ次元での多相現象における陽イオン濃度のダイナミクス/フラックスの探求は実験的課題を幾つか提示している。
過去5年間で新理論:Murburn構想が参入した。Murburn構想はシンプルだが深い証拠に基づき、「拡散性活性酸素種(DRS/DROS/ROS:自由電子やスーパーオキシド、ヒドロキシラジカルのようなもの)が細胞プロセスのキープレイヤーであり、内部環境での他の分子/イオン的主役との相互作用平衡が重要な生命を支配する結果を齎す」と主張する。図1とその凡例は、この力学的観点の主な構成要素を提供している。

図1 Murburn構想は、細胞の内外と界面の両方に関連する普遍的酸化還元代謝/生理学パラダイムである。
まず、これはCMTやAIHの観点を否定せず、両者のギャップを補って重複原理として機能する。例を挙げると、細胞外空間(多細胞生物のマトリックス)では、クロライドペルオキシダーゼ(極性菌のヘム-チオレート酵素)を例とする酵素は過酸化物と塩化物を使用し、活性部位へのアクセスの得られない巨大基質を塩素化する拡散性活性酸素種(DRS)を生成する。
このプロセスは、リグノセルロースの生態学的分解や有機ハロゲン化合物のサイクルを説明する。このようなメカニズムは、微生物が酸化還元代謝に於いて硫黄元素やゴム等の巨大な不溶性基質を利用する方法をも説明する。類似の例が、シトクロムP450(疎水性ヘム-チオレートタンパク質)が肝細胞小胞体で生体異物を代謝する時の生理学にも見受けられる。このような結果はCMTやAIHの範疇にはない。
酸化的/光リン酸化のような生体エネルギー的プロセスの範囲では、複合体Iやシトクロムb複合体に代表される膜貫通型多タンパク質複合体がDRSを生成・相互作用し、還元型ニコチンアミドヌクレオチドや膜貫通型キノール(Q)の利用でATPを合成する。プラストシアニン(Cuタンパク質)、フェレドキシン(FeSタンパク質)、シトクロムc(ヘムタンパク質)等の小さなタンパク質はDRSと平衡状態にあり、プロセスを補助する。酸素のジラジカルがプロセスに於ける電子輸送や反応制御剤として機能し、また外部プロトンがOH結合形成に機能して平衡状態を更に駆動させる。プロセス全体を通じて相を跨ぐ実効電荷分離が生じ、これがTMPダイナミクスにも繋がる。
Murburn構想は、微小分子やタンパク質の構造的多様性、多様な構成要素の全体的分布のプロフィール、プロトン/水/イオン交換ダイナミクスを説明する。例えば、細胞質におけるカルボン酸塩/リン酸塩およびリン酸イオン(Pi)とリン酸との共対は、K⁺/Mg²⁺がNa⁺/Ca²⁺より優勢になることを説明する。これらの側面はAIH説では考慮されず、CMTも説得力ある説明を提供していない。(明確さの為、構成要素間の複雑な相互作用ネットワークと、その動的輸送は示していない。)
(DRSは単に非生産的で病態生理にのみ関与する物質だと研究者の大多数が考えている)。この革新的な洞察を(CMT/AIH学派の探求で発見されたデータとの併用で)使用することで、酸化還元生理学の中核的な問題に対する熱力学的、速度論的、機械的、確率論的に具体的な説明を提供する。Murburn構想はATP-ダイナミクス、熱発生、生体恒常性とTMPを連結させる(Manoj & Bazhin, 2021) 。更に
1)多種多様な生物に酸素が生命の万能薬となる理由の説明
2)種々の生物の多様な生理機能にシアン化合物が少量で急性毒性を発揮する唯一の説明(Manoj et al., 2020)
3)酸化還元代謝の力学的側面…可変化学量論、非典型速度論、様々な基質特異性、速度論的同位体効果、Km-Kd問題等…の解決
4)細胞の「パワー供給」に関する解釈は、細胞プロセスや、関連分子の酸化還元能力との構造機能相関(タンパク質の多量体性と錯体形成)に決定的証拠に基づく方程式の提供
こうして種の起源の自然発生や、生命の進化や形態の多様化に於けるカオスの役割に信頼性の高い理論的根拠を提供する。Murburn構想は電気生理学の領域にイオン差やTMPの発生源/ダイナミクスを理解する為の新たなモダリティを提供する(Manoj et al., 2021b)。Murburn構想に基づく予想が一部、実験的に確認されている(Tamagawa et al., 2021)。新たな視点により、視覚/光受容のシグナル伝達プロセスや網膜構造に関する新たな構造機能相関も提供される(Manoj & Jacob, 2020)。従ってMurburn構想は構成要素の分子特性/次元や、その相互作用/反応(酸化還元代謝)から体系的に構築された合理的説明である。これらはそのまま電気生理学の幅広い分野へと慣習的に分類された巨視的ダイナミクス(物質移動、相転移、電解質移動)にも繋がる。
2.1 | 従来型の説明の詳細
TMPの概念と立脚点、全体的な合理的根拠を総括した所で、ここで2つの学説に際立つ側面を提示し、それが適切か否かを確認するとしよう。
2.1.1 | 定説の膜理論の観点
細胞恒常性とTMP(静止/活動)は主に細胞膜の支配を受けている。これは膜を横断する分子とイオンの輸送調節により達成される。E. Overton、A. Nathansohn、J. Danielliら先駆者の提案に基づき、SingerとNicholsonがタンパク質を埋め込むリン脂質流動二重膜(様々なイオンのチャンネルやポンプとして機能)を提案し、これが現代生物学者に好まれる認識となった(Alberts et al., 2002; Berg et al., 2002; Nelson & Cox, 2004; Voet & Voet, 2011)。静止期では、細胞は特定の溶質を優先的に分布させる特徴を持つ。例えば、赤血球内部はNa⁺に比べてK⁺が豊富な一方、血清中では濃度が逆転する(即ち、血清にはK⁺よりNa⁺が豊富である)。膜理論に従えば、細胞内イオン濃度を調節する主な駆動因子は①受動的イオンチャンネル/輸送体②能動的イオンポンプ/輸送体である。前者は濃度勾配や拡散ベースの膜の方向気孔であり、リーク型(常に開口状態)かゲート型(リガンド結合または機械的/電圧刺激に基づく合図で制御)である。後者はエネルギーを消費しつつ、濃度勾配に逆行して特定のイオンを移動ないし交換させる起電性ポンプとして機能する。この観点では、イオンポンプを機能させるエネルギーの消費は生命の重要な定義を意味する。ATPは、細胞のイオンポンプ活性化に必要なエネルギー源として知られる。膜を横断する様々なイオンの濃度差(...と、その結果生じる電荷の差)がTMPの主要な発生源とされる。これが細胞内に反応をもたらす作用物質であると考えられる。即ち、TMPの生成とその変動は膜を介したイオン輸送の結果として生じる。特に陽イオンはミトコンドリア膜電位に代表される通り、膜を横断する電荷の差の原因とされ、これはプロトンポンプの作用に起因すると信じられている。従ってこの学派では、TMPは膜を介したイオン輸送に直結している。この理論の観点と構成要素を図2に示す。

この観点では、細胞膜と、そこに埋没したタンパク質(ポンプ、キャリア/輸送体、チャンネル/気孔等)は様々な溶質を量化、認識、移動させる”インテリジェントシステム”であり、これが細胞への流入/流出を制御し、恒常性と電気生理をもたらす。図2の通り、能動輸送プロセスではATPを利用する。能動的/受動的一方向輸送体(例:赤血球のグルコース輸送)、共輸送体(例:腸内膜細胞のアミノ酸輸送)、対向輸送体(例:神経細胞の”3Na⁺流出と2K⁺流入”ポンプ)がある。膜チャンネルは構造的に開口(リーク型)している場合もあれば、電圧/リガンド結合/張力ベースのメカニズムで通門(ゲート型)する場合もある。これらの機能の殆どは重要な回路に沿った関連膜タンパク質のコンフォメーションの決定論的変化を伴う。この学派の主張の肝は静止電位のGoldman-Hodgkin-Katz(GHK)モデルであり、(PK/PNa/Pcl等の定数を持つ)可動イオンに対する膜の様々な相対的透過性を仮定する。Hodgkin-Huxley(HH)は神経細胞内に電極を設置し、初めて活動電位を正確に記録したとされ、これにより、単に興奮性(強度-持続時間)を説明する以外にも計測の数学的なモデル化が可能になった。先ほどの議論で引用した共通要素に加え、HHモデルの仮定と主張(後の議論とも関連)で肝となる点は以下の通りである。
陰イオン(塩化物等)はリン脂質膜を通過できない
細胞内K⁺濃度が元々高いほど(選択的イオンポンプの活発なプロセス)、K⁺の膜チャンネルからの漏出や透過、相を横断して平衡化する傾向により静止電位が生じる
活動電位はNa⁺の高流入を伴う膜透過性の逆転で生じる(PNaは静止電位時の0.05から活動電位のピーク時に12.0にまで変化するが、Pkは終始1.0が維持される)。
2.1.2 | 排斥された収着/AIH理論の観点
電位は細胞表面上の薄い層の内部にタンパク質がイオンを吸着すると発生し、この収着プロセスはATPの影響も受ける可能性がある(図3-1)。

この理論では、ATPがカーディナルリガンドとしてタンパク質と結合すると、誘導原理(電子成分をc値で表す)によりそのコンフォメーションを変化させ、結果、そのイオン吸着の特性を変化させる。プロセスの活性化で結合していたATPが加水分解され、イオンの結合親和性の復帰に変化が生じる(図3-2)。これは、ATPの結合がタンパク質全体とその非結合/吸着成分に及ぶ電子密度の再分布をもたらし、複数の結果を誘導する為とされる。
この学派では、水が細胞質内のタンパク質およびイオンの秩序化にも重要な貢献をすると考える(Ling, 1962, 1973, 1992, 1997)。イオンの収着は生物系非生物系のいずれに於いても確立された現象であり、質量作用(化学平衡)の法則の支配を受ける。バイオサイエンス以外に、非生物系の活動電位様スパイクの自発的誘導は非線形物理学研究分野に於いて広く知られる実験的事実である。1980年代に研究委託を受けた吉川グループの研究はその典型例である(Nakajo et al. 1990; Toko et al., 1985; Yoshikawa & Matsubara, 1983; Yoshikawa et al. 1984, 1985, 1988; Yoshikawa, Omochi, & Matsubara, 1986; Yoshikawa, Omochi, Matsubara, & Kourai, 1986)。こうした活動電位の発生に類似の現象の説明に成功した数理モデルもある。電気化学の研究分野でも、同様の現象が繰り返し観察されている(Flasterstein, 1966a, 1966b; Kish et al. 2000)。例えば電解液に浸すと金属表面電位が時間依存的電位スパイクを示す場合がある。つまりLingの説は、非生物系であれどその表面/界面で電位が発生しうることを示唆している。これは明らかに、膜電位の発生は細胞の「生命活動」の結果と公言するCMTと矛盾する。収着ベース理論の支持者は、細胞質液や(種々のタンパク質、生体高分子、有機物やイオンの)懸濁液は様々な吸着プロセスを受ける電解質系と見做すことが可能と主張する。こうした系は幾つかの物理界面(Bockris & Khan, 1993; Brett & Brett, 1993; Kitahara & Watanabe, 1984; Ling, 1962, 1992, 1997)に電気層(例:HelmholtzやGouy-Chapman)を形成することが知られている。このような層系におけるイオンの局在化吸着は、タンパク質電荷による未結合イオンの「テザリング」で可能となる簡素なプロセスと想定される。Lingは活動電位 (..や、リン酸化ダイナミクスの化学的スキーム)の数学モデルを特に提案していないが、AIH学派の支持者の中には以下の説明をする人々がいる。陽イオンの一部が吸着状態、それ以外の陽イオンが遊離状態にある場合、そこで平衡状態を仮定すると、定数KeqはKeq=[AB]/[A⁺][B⁻]が得られる。このような細胞系は質量作用法則や基本熱力学法則により事実上平衡状態を維持することになる。即ち、任意の温度に於いて、A⁺とB⁻の濃度が何等かの理由で平衡状態から逸脱しようと、タンパク質とイオンの間に固有の会合-解離特性が備わるならば、細胞系は再び平衡状態へ達する傾向にある。この投影図が図3-2である。

細胞は先ずSTATE-1の静止期にあり、タンパク質の不動陰イオン と可動陽イオン はタンパク質鎖の近傍にのみ存在する。バルク相の可動イオンの殆どはこうした相互作用には殆ど関係がない。この系に一度外乱(disturbance)が加わると、吸着していた陽イオンの一部はSTATE-2の通りに脱着する。脱着した陽イオンがバルク相へと移動する結果、過剰な正電荷や吸着していた水の殻(※水和殻?)の破壊が生じ、タンパク質鎖近傍のイオンの再組織化が起こる。可動陽イオンと陰イオンの両方がタンパク質鎖近傍へ大量に移動(STATE-3)すると、STATE-2へと戻ることになる。このSTATE-2とSTATE-3の交替が活動電位パルス列を引き起こし、系が徐々に初期状態(STATE-1)に戻ると活動電位は停止する。この学派における活動電位の発生は、単純な物理化学的帰結を介したイオン平衡の自律的達成の結果に過ぎず、「活性化」プロセスではない。
2.1.3 | 活動電位の物理的側面に関する異説
・弛張型 モデル(FitzHugh, 1961)
・音波様ソリトンモデル(Heimburg & Jackson, 2005)
・圧力波 モデル(Rvachev, 2010)
・電気機械波 モデル(El Hady & Machta, 2015)
・統合 モデル(Engelbrecht et al., 2020)
これらの理論は軸索上に伝播するシグナル/インパルスに関する特定の数学的/物理的/実験的側面を扱っている。これ等の理論は(独創的で興味深くはあるが)問題の種々の側面を根本レベルで扱っていない点において包括的概念化になっていないものと考えている。見識ある方であれば、これら学説は活動電位の古典的(Hodgkin-Huxley)モデルの欠陥という単純な事実から浮上するのだと想像できるだろう!(紙面の不足と議論を単純レベルに抑える為、これらの発展についてはここでは言及しない。)
2.2 | 古典的学説の批判的追究と分析、Murburn構想との対照
これら学説の裏付けで引用される証拠は追求せずに、両者にある質的/量的限界に根本的な疑問を投じる。これは、半世紀以上前に提唱されて定着したアイデア達は後世での気付きと共に調和する筈だという信念に由来する。特に過去数年の間に、細胞の酸化還元代謝(反応)、生体恒常性の説明となるプレイヤーとしてMurburn構想が登場した(Manoj & Bazhin, 2021; Manoj. 2020b; Parashar & Manoj, 2021; Parashar et al., 2018)。従って、宣伝中の新説がもたらす洞察に関連して、従来までの説明を再評価する必要がある。
2.2.1 | 関連のイオン/分子およびエネルギー項の膨大な種類や数の無視
如何なる細胞も、少なくとも数百種類の分子(アミノ酸/有機酸/核酸、脂肪/脂質、タンパク質、炭水化物等に属す多様な有機物)や、数十種類のイオン(ナトリウム/カリウム/マグネシウム/カルシウム/塩化物/重炭酸塩/リン酸塩)の細胞内濃度を「瞬時に」制御せねばならない。これら溶質それぞれと優先的に結合する機構が量的な判断を下し、形質膜上のチャンネル/ポンプが処理するとはとても考えにくい。分子/イオンそれぞれの種類ごとに対応する受容体、チャンネル、ポンプ等というものが膜上にあるとすれば、細胞内外で平衡化する大量の分子/イオンをダイナミックに制御できる方法とは何だろうか?タンパク質の埋没した膜の認識および流出入の速度論的な実行可能性はこの点で疑わしい(膜タンパク質の総結合表面積は水性環境中の溶解タンパク質の総表面積より遥かに狭い)。従って膜の選択性のみで現実は説明不可能である。また、膜上での溶質の質的検出ならびに濃度の量的推定には、関係する分子とイオン単位で未知のメカニズムが必要である。更に、これら溶質の濃度を(特にNa⁺/K⁺-ATPaseで)濃度勾配に逆行して維持するにはATPが膨大に必要となるが、計算上これは細胞内の代謝/エネルギー機構では賄えない(Ling, 1992, 1997)。そして赤血球にはミトコンドリアがない以上、基質レベルのリン酸化(解糖系)ではこの非常に費用対効果の悪い活動を維持するのに必要なATPを供給できない。従って活性イオンポンプ説やNa誘導活動電位説は疑わしい。AIHはエネルギー論に関しては比較的同意できるが、膜理論と比較した場合に幾つかのイオンや分子の流出入の選択性を説明できない。つまり、イオン濃度差の説明に関しては両者とも長所と短所がある。
2.2.2 | イオン濃度差とTMPの発生源および関連性
CMTでは、TMPは膜を介したイオン輸送と濃度差に起因し、エネルギーを消費して発生する。だがこれは既知の物理化学法則の幾つかに違反し、実験情報の説明に関して欠陥がある。そのいくつかを列挙する:
i )界面イオン吸着-脱着プロセスが相/界面間のTMP生成に影響を及ぼすのは間違いない。イオン収着現象は膜理論では全く考慮されていないが、間違いなく確立された現象であり(質量作用の法則の範疇)、生物系非生物系の両方で生じることが認知されている。単純な実験系では、相間/膜電位をイオン吸着の概念で予測が可能である(Tamagawa et al., 2021)。
ii)殆どの細胞内環境はNa⁺に比べてK⁺濃度が高い。Na⁺もK⁺も共に単位正電荷(1.602×10⁻¹⁹C)を持つが、K⁺の方がより大きなサイズと質量を持つ。Hofmeister(離液順列(Hofmeister, 1888))から、K⁺はNa⁺に比較してタンパク質を塩析する傾向が強いと言える。この効果は即ち、イオンが単なる”質点”ではなく、異なる水和特性やタンパク質との優先的相互作用を持つことを意味する。様々なイオンの(タンパク質への)吸着親和性の差異や、水のナノプールの水和殻特性(Edelmann, 2005; Ling, 1962, 1992, 1997; Matveev, 2017; Mentre 1995, Pollack, 2001, Tamagawa & Ikeda, 2018; Tamagawa et al., 2019; Tamagawa et al., 2018)も定説では考慮されていない。結果、物理化学が長らく運用してきた特徴であるイオンの”活性”(…や、機能的濃度)は"electrolytic biological solutions ”や生体恒常性の文脈では理論上も全く扱われていない。
(iii)一部のオルガネラや植物/真菌細胞のTMP発生源は起電性ポンプとされるが、動物細胞では受動的イオン移動(特にK⁺)の重要性が高いとされる(Alberts et al., 2002)。Na⁺ポンプは複数の植物系で存在が確認されず(Pedersen & Palmgren, 2017)、植物細胞もまたNa⁺よりK⁺濃度が高い(Blumwald et al., 2000)。明らかにこの現実はNa-K活性ポンプが不要だと言っている。また、こうした基本的現象には普遍的で省燃費的かつ進化論的に実現可能な物理化学的論理が期待される。
(iv)表1のデータ分析から、一価や二価イオンとTMPとの間に(細胞内外の濃度に関する)具体的な相関関係は得られなかった。この知見は、3Na:2Kの特異的な比率での作用(Voet & Voet, 2011)が想定される、生物学的に決定論的な膜ポンプの作用に合致しない。細胞の構成要素は理論上、「熱力学的かつ確率論的に現実的な」状態の電解物質と捉えるべきである。この観点に立脚し、2種類の動物細胞型に於ける様々なイオン濃度を表1に示す。

静止細胞やオルガネラの膜電位は数mVから数百mVの範囲にあり、膜内は外部より負に帯電すると知られている。例えば、イカの神経細胞や赤血球のTMPはそれぞれー65mV(Purves et al., 2001)とー8.4mV(Cheng et al., 1980)である。これらの値は、2種の細胞それぞれの内外における総遊離イオン濃度差にうまく対応していない。そして文献を精査すれば、多様な細胞に於ける静止期TMPが主要陽イオンの内外分布と直接の相関関係にないことが分かるだろう。例えば、軟骨細胞/赤血球ではー8~10mV、心筋細胞/光受容体ではー40~ー45mv、アストログリアや骨格筋細胞ではー80~ー95mVである。一方、活発な呼吸活動中のミトコンドリアではー180~ー200mVになる。静止期TMPはほぼ常にマイナスだが、系によってイオン分布が微妙に異なる場合、実測値は大きく変動する。Brinleyは過去に静止期と刺激時に於ける主要イオン(Na⁺、K⁺、Cl⁻)の出入差を徹底分析し、そうしたイオン濃度のみでは様々な動物(神経)細胞型の機能は統計的に説明不可能だと示した(Brinley, 1965)。古典的見解(CMT/AIH)はいずれもマクロ相はイオン成分に関連して電荷中和されると考える為、一般に細胞成分は「生命的に決定された状態」と見做され、これは「熱力学的かつ電磁気学的に有り得る状態」とは対照的である。
(v)死細胞や「選択的イオンチャンネル/ポンプを持たない」人工的な膜やタンパク質塊でもTMPが発生する場合がある(Ling, 1973, 1992)。非生物の溶液界面におけるTMP発生と活動電位様現象は物理化学領域で半世紀以上に渡って継続的に報告されてきた。その中でもSidney Foxは、プロテノイドミクロスフィア(アミノ酸混合物の加熱で得る高分子鎖の球状塊)から”活動電位様電気信号”が自発的に発生すると報告した(Haefner, 1992; Ishima et al. 1981; Przybylski & Fox, 1984; Przybylski et al., 1982; Przybylski, 1985; Vaughan et al. 1987)。図4の通り、振幅と時間の尺度に顕著な類似性が容易に見て取れる。プロテノイドミクロスフィアは生物系ではなく、膜チャンネルやポンプを一切持たず、自力で積極的に化学的仕事を行うことはできない。この重要な観察結果から静止電位と活動電位に関する”流行”の説は極論だと言える。

(vi)本稿の著者の一人がLingの説を概念的基礎にした膜貫通/活動電位に関するGoldman-Hodgkin-Katz(GHK)型方程式(Hille, 2001)を開発し、これは十分な実験的証拠で支持された(Tamagawa & Ikeda, 2018; Tamagawa, 2018)。従って時間経過に伴う電位変化を単に数学的にモデル化しようとGHKモデルの基礎となる力学的前提の検証とはならず、理論的基礎もまた力学的に妥当でなければならない(…即ち、方程式の項が状況に応じて現実的な意味を持たねばならない)。
(vii)従来までのTMP/活動電位の説では膜貫通型イオン移動やイオン吸着が考慮された。極めて重要な点は、代謝/生理の重要な帰結である(酸素中心ラジカルが媒介する)相間電子輸送が等閑視されてきたことである。酸素中心拡散性ラジカルは長らくTMPに影響を及ぼす原因候補に指摘されてきた(Scott & Rabito, 1988)。このアイデアはミトコンドリアの代謝生理学的探究で確認され、TMPがATP合成や内部環境中の拡散性活性酸素種(DROS)と直接関係することが分かった(Nicholls, 2004)。最近の研究では、塩と過酸化物による低プロトン濃度の水性混合物では酸素中心ラジカルが簡単に形成されると示されている(Stoin et al., 2013)。こうしたプロセスは生物系だけでなく、死細胞や酸素が関与する還元主義的な系でも観察されるだろう。これに関連し、Murburn構想(Manoj, 2018b)は(内部環境中の分子、未結合イオン、ラジカルの単純な平衡に関与する)電子輸送の学説であり、これは新たな洞察を齎すはずである。この新生理論は細胞の生体エネルギーや恒常性の論理を基礎的な熱力学的視点から説明(Manoj & Bazhin, 2021)しており、能動的/受動的プロセスとこの原理との関連を想定するのは自然なことである。この件について我々は、還元主義的システム内で電子輸送を介した電位スパイク形成が予測可能だと実証することができた(Tamagawa et al., 2021)。
(viii)活動電位のHHモデル第三の前提は、逆転電位の原因としてのNaの内向き方向への移動である。第一に、活動電位の開始時にNa⁺の透過性が変化する機構も理由もHHモデルが提供する説明に分子的/物理的根拠はない。歴史的には、Na⁺を活動電位の前提/理由とする発端はErnest Overton(1902)とAugust Krogh(1946)の研究から推測できる。この前提/理由は
・フラスコモの藻類系モデル(Osterhout 1935, 1936, 1940)
・蟹系モデル(Burke et al., 1953; Fatt & Katz, 1953)
・蛙系モデル(Lorente de No, 1949; Del Castillo & Katz, 1954; Koketsu et al., 1959)
による先駆者達のデータセットでは完全に破綻している。この分野では、Federico Faraciの著作がHHモデルに対する数学的/生物学的な歴史的資料に富む学術的批判を展開しているので強く推薦する(Faraci, 2013, 2020)。そこで1960年代Tasakiら(Tasaki et al., 1965a, 1965b, 1966a, 1966b, 1968)や1980年代初頭のTerakawa(Terakawa, 1980, 1981)等の先駆者達によるイカ神経細胞モデルを挙げ、(細胞内にNa⁺を注入した場合や外部培地にNa⁺がない場合にも!)興奮性(活動電位の誘導/伝導)が無機/有機陽イオンで発生すると結論している。出版物のタイトルの時点でこの事実が誰の目にも明らかだ!Faraciの体系的な探究と十分な裏付けのある書物から、HHモデルが理論的・実験的批判に耐え得る要件を満たさない極論であることは明らかである。HHモデルが未だ流布している現状は、代替となる包括的解決策の不在が原因に他ならないと考える。この点、Murburn説に基づく探究は、イオンポンプをTMP/活動電位現象の主因と見做さず、実効電荷分離を原因と見做すことで解決策になり得る。従って膜可溶性第四級カチオン存在下での「興奮性の逆転」が説明可能である。
2.2.3 | 外的な化学/物理的刺激が局所の内的化学/電気的シグナルへ伝達:TMPと生体恒常性の交絡
全ての細胞は電磁気力でのみ機能する。即ち、究極的に細胞系とは単純な化学配列であり、その構造を使って化学-電気シグナルを伝達、生成、解読する必要がある。この観点から感覚刺激とは以下に大別される。
・化学的刺激(pH, イオン/分子)
・熱的刺激(温度差)
・力学的刺激(圧力、音、応力/歪み、固有受容感覚)
・放射線伝播(紫外線、赤外線、その他可視光線)
・その他電磁場
これら感覚機能の一部は重複する場合もあり、例えば熱感知は赤外線受容、電場感知は化学/イオンフラックスに基づいて行われる。受け取る「感覚」の多様性や受信/作用モジュールの特異性に関係なく、少なくとも単純な電気化学的事象はニューラルネットワークを中継しなければならない。これは軸索に沿う疑似的な電気インパルスと、シナプスで放出される化学物質とが組み合わさり、最終的に動物側に裁量のある制御中枢(神経節や脳)が解読できるシグナルとなる。現代生物学者の大半は、感覚刺激の伝達プロセスの殆どを「タンパク質のコンフォメーション変化」で説明している。例えば、ロドプシンに光刺激が入ると網膜構造が変化し、その結果、結合タンパク質のコンフォメーションが変化し、膜貫通型プロトンポンプの作動に至るとされる。この仮説は最近になって不正確だと判明した(Manoj & Jacob, 2020; Manoj & Manekkathodi, 2021; Manoj, 2018a, 2018b, 2020a, 2020b; Manoj et al., 2018, 2020, Manoj, Parashar, et al., 2019; Manoj, Soman, et al., 2019; Manoj, Bazhin, Jacob, et al., 2021a; Manoj, Bazhin, & Tamagawa, 2021b; Manoj, Gideon, et al., 2021c)。では特定の受信源から発信される純粋な物理的シグナル(触覚/音/光)が化学-電気的シグナル(活動電位)として伝達・中継され、別の部位への到達が志向される方法とは何だろうか?何故「イオンリップル」は途中で消失も失速もしないのだろうか?我々のチームの一人が、ヒト網膜における光受容プロセスの新モデルを提案した(Manoj & Jacob, 2020)。このモデルは、光と葉緑体の生体色素との相互作用の説明の為に新たに提唱された光エネルギー伝達プロセスに合致する(Manoj & Manekkathodi, 2021)。このような最近の進歩は明らかにCMTやAIHの範疇を超えており、生体恒常性や電気生理学に於けるMurburn構想の役割を示唆している。生細胞/組織や内部環境は主に分子やイオンで構成される。だが少量とはいえ相当量のラジカルが不可避に存在し、これは生命現象に重要な役割を果たす可能性がある。最近、代謝的および生理学的結果の幾つかが酸素中心ラジカルとイオンの反応中間体を通じて進行することが実証された(先述のManojiグループ)。最近、ミトコンドリアのTMP発生源がミトコンドリア内正電荷の定常状態不足 に起因し(正電荷プロトンの排泄ではない!)、オルガネラ内で進行中の簡易代謝プロセスの結果と示された。また、恒常性維持プロセスとTMPが代謝活動から生じる束一的性質のダイナミクスによって複雑に絡み合っていることが示された(Manoj, Parashar, et al., 2019; Manoj, Soman, et al., 2019; Manoj & Bazhin, 2021)。こうした発見は議論に全く新たな視点を提供し、Murburn界面現象が視点の異なるCMTやAIHを統一する可能性がある。
2.2.4 | 細胞の体積に対する表面積の変化の問題/水の流出入の問題
細胞内への過剰な水分吸収に付随する体積と表面積の増加は膜理論では説明できない。臨界点を超えて体積と表面積が増加すると隙間や穴が生じ、バリアや境界の完全性が損なわれる(そして細胞を”殺す”はずである)。そうした甚大な変化を生細胞が受容する事実は膜理論にとっては埒外の問題である。この場合、バルク相やゾル-ゲル中心理論の方が魅力的である。また(20世紀前半の)Jacques Loebの研究は、膜のような明確な外縁のないゲルベースシステムが電位差を生み出す可能性を示した。この見解の支持者には過去にはDimitri Nasonovが、最近ならGerry Pollackが挙げられ、彼等の知見/主張はこの議論の文脈において重要である。水とイオンの流れは膜貫通ポリンやイオンチャンネルが促進する可能性があり、これはAIHでは未対応である。例えば、褐色脂肪細胞の脱共役タンパク質(UCP)はアシルキャリアタンパク質としても知られる。これら膜通過孔領域はリジンやアルギニン等の正電荷を帯びた残基で満たされている(Manoj et al., 2018)。水の生成と消費は非常にダイナミックな日常的生理プロセスであり(Frenkel-Pinter et al., 2021)、細胞/オルガネラが超分子的管理の介入なくどうやって一定に保つのか、CMTでは明らかではない。この点について我々のチームの一人が
・好気呼吸(Manoj et al., 2019, 2019; Manoj & Bazhin, 2021)
・酸素発生型光合成(Manoj et al., 2021a, 2021c; Manoj & Manekkathodi, 2021)
・異物代謝(Parashar & Manoj, 2021)
などの日常生理に関する「Murburn束一的酸化還元恒常性維持機構」を提案した。この提案により、関連の生理現象に関しても再検討する必要性がある。
2.2.5 | 膜通門のメカニズムと原因対結果の問題
TMPの発生源が膜を挟んだイオン濃度差と仮定し、それがイオンの膜を横断する駆動力だという説は直観に反し、熱力学的に支持できない。我々の一人が、ミトコンドリア生理学のプロトンポンプの文脈でこの仮説を事実上否定した(Manoj & Bazhin, 2021; Manoj et al., 2018, 2019, 2019; Manoj, 2018a)。電圧依存性の膜タンパク質通過孔は神経インパルスの伝播では重要な説明因子である。電圧がどのように膜通過孔の隙間に変化/影響を及ぼすかは分かっていない。これに関連する重大な問題は、人気の信念体系がこれら仮定の両方を前提にしていることである。即ち、TMPは膜通過孔の開口部に制御され、膜通過孔の開口部もまた電圧で制御されるということだ。この錯綜は非論理的な”catch 22”や” ツークツワンク”に繋がる。ミトコンドリア生理学に於いて、TMPはミトコンドリア内部の代謝活動(電子輸送)の結果として生じ、内部の反応を発生させる原動力ではない(Manoj & Bazhin, 2021)。こうして「馬と荷車(車夫と車両)」の帰属は刷新された。同様の混乱は電気生理学領域にも蔓延している可能性は極めて高い。また、人気のモデルでは、分極した神経細胞の膜をごく類似の陽イオンが双方向かつ同時に移行するという受け入れ難い主張が認められている。こうした流動は生命決定論的仮説/モデルでのみ支持され、電気化学の基本概念としては到底受け入れ難い。これは決定論的義務に他ならず、このようなプロセスに熱力学的根拠は殆ど存在しない。この件については別の研究で詳述する。
2.2.6 | 細胞の用量反応様式
細胞の刺激応答能はその構造/構成と外部環境変化の感知法に依存する。生理学的プロセス(…の結果)は4つのモダリティを介する。
・「全か無か」のデジタル型
・閾値駆動型操作
・離散的な異端型
・段階調整的な等級型のアナログ様式
CMTとAIHの説明ではこうしたタイプのプロセス/結果を同時に扱うことはできない(また、こうした異端を遺伝子制御で起こすこともできない)。これは図5に表す通り、単純な反応やリガンド-受容体、酵素-基質に基づく相互作用、認識/量的判断の戦略では限られた結果しか得られない為である。

(a)一方向への線形増加/減少(例:単純な一次反応)
(b)双曲線(例:ミカエリスメンテン漸近線)とシグモイド曲線(例:酵素のアロステリック活性/阻害)
(c)双方向性ベル型曲線(例:pHに対する酵素の活性プロファイル)や任意の反応物に対する実質的な零次反応(例:ラジカル反応)
(d)従来説明不可能であった、最適値が離散的な濃度の多相線/曲線
我々は最近、こうしたホルミシス的な独特の反応(多相線/曲線)がリン脂質界面の”murburn”電子輸送で生じる可能性を発表した(Parashar et al., 2018)。少量で急性毒性を発揮するシアン化アニオンがこの文脈で特に重要である(シアン化物は強力な神経機能阻害剤でもある!)。このイオンは、内部環境の分子やイオン同士でのプロトン/電子交換による高速相互作用平衡を伴う触媒機構を介して作用することが示された(古典的な1:1化学量論的結合様式ではない!)(Manoj et al., 2020; Parashar et al., 2014)。これらの発見は、murburn電子輸送平衡が活動性、恒常性、そして電気生理学的な現象において決定的役割を果たすことを示している。CMTもAIHもこうした進歩には対処不可能である以上、力学的スキームを拡張して新たなアイデアに組み込む必要がある。
2.2.7 | ミエリン鞘神経細胞における「跳躍伝導」の謎
動物の軸索コアの直径平均は様々だが、0.5μ以上(イカの巨大軸索を例に数百μまで)が一般的であり、ミエリン髄鞘は(在れば)ランヴィエ絞輪を除いてどの側面でも0.3μmの厚みに達する(Graf von Keyserlingk & Schramm, 1984)。ランヴィエ絞輪とは、軸索を被覆する数十μから数百μに渡る様々な長さの鞘と鞘の間にある1~2μmの間隙である(Arancibia-Carcamo et al., 2017)。ミエリン髄鞘を持つ細胞は髄鞘のない細胞(25m/s)より遥かに迅速に神経インパルスを伝導することが知られている(250m/s)。この観察をHHモデルの「ケーブル理論」で推論すると、ミエリンの被覆による絶縁状態によりその領域の静電容量が減少および抵抗が増加し、「ノードからノードへの電位の跳躍」が生じる。この説明は、神経膜に沿う静電容量と伝導性(...が、神経線維周辺部で正電荷と負電荷を決定論的に交代させる)が神経インパルス伝播の主因とするHHモデル自体の基礎的仮定と相反する。また、神経線維-髄鞘-ノードの寸法や、そこでのタンパク質やイオンの分布に関する現代の知識を考慮すると、その伝導に必要となるチャンネルやイオンもなく活動電位が数百μの距離を「跳躍」する方法をGHKモデルでは説明できない。従って神経細胞の正確な構造が解明される遥か以前に提唱されたGHK/HHモデルでは神経細胞に於ける構造機能相関を十分に説明できない。この点、新たな代替案(例:ソリトンモデル)もまた多様なシグナルが機械波へ変換される仕組みや、髄鞘化神経でインパルスの伝導が迅速化する理由、シナプスで生じる現象の説明などには不足である(Fox, 2018; Heimburg論文に関するエディターレター参照)。
2.2.8 | 雑多な未解決問題
(a)膜タンパク質を介したイオンのポンピング/チャネリングの選択性に関して、CMT学派が現在に至るまでに提供してきた構造的根拠は十分な説得力を持たない。即ち、Na⁺-K⁺-ATPaseは3Na⁺を細胞内から外側へ、2K⁺を細胞外から内側へと、同時に対向輸送できるような構造的側面を持たないようである。
(b)カーディナルリガンドとしてのATPの結合がNa/K結合親和性を変化させ(Olsen et al., 2020)、また、こうした事象が水の格子構造にも強力に作用すること(Thoke et al., 2015, 2017)をAIH支持者は蛍光技術を用いたサッカロミセス酵母系で示しているが、この効果/推論、そしてLingの元々の仮説が全生物系に関連することを裏付けるには、より網羅的な技術/データが必要であろう。
(c)神経インパルス伝導に於いて膜通過孔開口部の全体的な同期/適時選択が種々の寸法の異なる線維で発生する機構は何か?また活動電位のpropagation/collationが分岐線維に沿って生じる(生理学的に機能している神経細胞で指摘)のは何故か?
(d)あるシグナルだけが活動電位に変換され、他は段階的電位が維持される理由と機構とは?
(e)最も重要なのは、膜界面における選択的分子ポンプが分子進化の概念に巨大な問題を孕ませることである。即ち、現在の認識では「還元不可能に複雑な 」イオンポンプ機構の存在が生命の発生と維持の前提になることである。所謂「Na⁺/K⁺ポンプ」とは3つの相(膜内部-膜-膜外部)で調整される7分子逐次 反応/(タンパク質+ATP+3Na⁺+2K⁺)である!このあり得ない必要条件を満たす方法が想像できない。
2.3 | 要約: 現時点の情報は包括的説明へと変形せねばならない
CMTとAIHは互いに認識/見解の相違や不満があれど、共通の信念がある。
1)イオン濃度差に影響する関連タンパク質はATPに結合し、重要なコンフォメーション変化を起こす
2)電気的中性の法則は任意の相では常に正しい
3)TMPはイオン濃度差のみに支配される。
この3点に関して、古典的学派に基づくTMP発生の基準を理解することが重要である(図6)。

1~2の溶質が膜で左(内側)と右(外側)の2相の区画へと分配/分離される場合(便宜上、内外の体積は等しいものとする)、4つの単純なシナリオが発生する。
A. 2相で溶質濃度が等しい
B. 2相で任意の溶質濃度に差がある
C. 濃度の等しい/異なる2つの溶質に2相で性質の差が生じる
D. B,C等が(細胞のように)混在するケース
ではCMTとAIHの本質的原理と、(TMP発生源に関する)電気生理学のmurburnの提案を図7に示す(murburn電気生理学の詳細は別項にて[Manoj et al., 2021])。

上段中央は膜を挟んだ細胞の内外を表すスキームを表し、両側とも電気的中性で、それぞれの相には陽イオンと陰イオンが等しく3つずつ含まれている。この静止期から、生理学で普遍的な正味負のTMP(静止期)が3つのプロセスを経て説明される。
(下段中央)膜理論では、TMPは膜に埋没したタンパク質(黒のハート)が陽イオン(プロトンやNa⁺)を積極的に押し出すことで発生し、外側に過剰な陽イオンを齎す。
(下段左)AIHでは、電位差はバルク相にある負に帯電した吸着剤(黒の雲)の存在により発生し、吸着剤が内側の陽イオンに結合して除去し、その結果、内側に過剰な陰イオンが生じる。
従ってCMTとAIHどちらの観点であれ、TMPの発生源は安定したイオン/分子の内外の分布差にある。Murburnの見解では、
(下段右)自由電子や、内部環境中の一過性のラジカルがTMPにも貢献する。イオンベースの電位差を否定するものではなく、任意の相での一過性の実効電荷分離(膜に付着して止まる黒の立方体…適切な成分で触媒される)を候補に追加するものである。
これが自由電子の形成に発展し、酸素分子のような種に取り込まれるとスーパーオキシドとなる。こうしたプロセスは内部環境中の様々な分子、未結合イオン、一過性のラジカルの間で相互作用平衡を齎すだろう。また、正味負のTMP生成にも発展し、様々な変数に基づくダイナミックな変動を受けることもある(Manoj et al., 2021b)。膜界面で機能するタンパク質の幾つかはmurburn構想の実効電荷分離の原理で進化をしてきた。これはミトコンドリアや葉緑体、小胞体系で実証されている通りである(Gideon et al., 2020, 2021)。つまり、murburn原理は相の電気的中性に固執せず、静電現象や電子輸送 現象を細胞電気生理学の説明に於ける重要な側面と認識する。Murburnでは、系が任意の時点で電気的中性に到達するべく奮闘することは認めるが、プロセス全体に於ける開始期や過渡期にもそれは想定しない!これは着手すべき巨大な規準であり、観察データの理論化と分析に全く新たな視点を提供するものである。イオン分布データの簡単な調査と分析結果から、CMTやAIHに基づく般化の一部には、あらゆる場面に応用するには正確ではない可能性を示している。更に私見を述べるなら、CMTが時に極論に見える一方、AIHは(未解決問題を放置したまま)一部の問題への対応に不足があるように思われる。特に細胞質のK⁺とMg²⁺の選択性だが、我々は最近、これは「リン酸塩/カルボン酸塩によるイオン対の可溶化」に起因し、タンパク質とATPの結合そのものではないと発表した(Manoj et al., 2021b)。
3| 結論
羅列した明確な問題点の数々により、生体恒常性とTMPに関する現代生理学の学説には、物理化学的基礎、裏付けのある観察結果や進化の原則と一致しない側面があると示した。生理学者の拠り所であるCMTは、特徴の明確なタンパク質とその関連領域の説明が確かに魅力的である。だがCMTのイオンポンプの構成要素は「還元不能な複雑さ 」であり、その核心部分は決定論的である。従って細胞生理学の学説として独占権は主張できない。
物理学者による「状態ベース」のマクロ的アプローチは単純だが不足もあり、生命の複雑な酸化還元には対応できていない。AIHの提供する証拠とマクロモデルは現段階で発展途上であり、CMTやMurburn構想に互換性のある領域に相乗効果を発揮するかもしれない。また、細胞膜を介したイオン輸送、界面イオン吸着、実効電荷分離がTMPに寄与する証拠もある。更に、一部のマクロな観察が幾つかのミクロなプロセスから生じることもある。それに(本総説で指摘する通り)CMTとAIHには共通点もある以上、互いに排他的でもない。従って確執は終止符を打たねばならず、相乗効果を推進するべきである。化学的なMurburn構想(バルク相やリン脂質界面での確率的電子移動がミクロ/マクロ的変化を起こす)は「プロトンポンプ」的概念を引き継いでいる。この新たな観点は、分子の主役である構造-機能相関や、様々な細胞内酸化還元プロセスのダイナミクスを具体的に説明し得る。この構想によって、界面電子移動もまたTMPや活動電位に寄与することが可能と予想される。以上、Murburn構想は、AIHやCMTが生み出す不足を埋め、様々な代謝・吸着現象ならびに膜関連の電気生理学的プロセスと融合する可能性がある。
オマケ
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