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NPU:究極の生命単位⑦情報とエネルギーの長距離輸送

続編

★文献情報

Ling, G. (2007). Nano-protoplasm: The ultimate unit of life. Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR, 39(2), 111–234. https://gilbertling.org/pdf/PCP39-2_ling.pdf

★進捗

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2.7. 情報とエネルギーの長距離輸送の会合誘起(AI)カスケードのメカニズム

情報とエネルギーの長距離輸送に於ける微視的メカニズムは当初からAIHの一部を成していた。当時このメカニズムは間接F効果と呼ばれた。だが翌年に変更が加えられた。混乱を避ける為、最近私はこのメカニズムに新しく名前を付けることにした。「AIカスケード」である。AとIはそれぞれAssociation 会合Induction 誘起の頭文字を指しており、これは相互作用的かつ非減衰的な連鎖反応 カスケードで作用する。

だがその詳細に移る前に、AIカスケードの要となる制御因子や主要吸着体 cardinal adsorbentsの分類を軽く振り返ろう。また、重要な主要吸着体であるATPが自己協同遷移 auto-cooperative transitionsを如何に制御するかも調査しよう。

 2.7.1. 主要吸着体 cardinal adsorbentsの分類

AIHでは、薬剤、ホルモン、Ca²⁺、ATP等、極々低濃度で強力な生理活性を発揮するものをCardinal Adsorbents(主要吸着体)と呼ぶ。これには3タイプ存在する。

  • 分類①…主サイト cardinal siteに結合するが電子的影響は発生しない「電子非依存的主要吸着体 Electron-Indifferent Cardinal adsorbent(EIC)

  • 分類②…結合後に電子を吸引する「電子吸引性主要吸着体 Electron-Withdrawing Cardinal adsorbent(EWC)

  • 分類③…結合後に電子を供与する「電子供与性主要吸着体 Electron-Donating Cardinal adsorbent(EDC)

図5で図示した通り、最重要の主要吸着体はATPである。1952年当初から指摘してきたことである[1, p.777]。

図5

ATPは殆どのナノ原形質 nano-protoplasm(NP)にあり、静止生活状態(図5右)の維持に不可欠である。多くのNP隊(NPU)はATPをADPと無機リン酸塩に分解する。この場合、ATPの主サイトは時にATPase ATP分解酵素として機能するかもしれない。ATP排除に伴い、NPは静止生活状態から活性生活状態(図5左)へと切り替わる。だがしかし、これら細胞のATP濃度は以下2つの再生機構により一定に維持される。

i )酵素「クレアチンキナーゼ」…一部の細胞に大量に貯蔵されるクレアチンリン酸塩を消費してATPを再生[2, p.195]
ii)解糖系と酸化的代謝の最終産物[3]

混乱を避ける為もここで「高エネルギーリン酸結合」という定説と化した誤信念[4]に触れよう。ATPはこの高エネルギーのパッケージを含まない[5]。

ATPが結合するヘモグロビンの主サイトにように、ATPaseの潜在能力を持たない場合もある。この事実が、先述の赤血球細胞質NPの安定性を生み出している。

 2.7.2. AIカスケード2001年版の複製

本節のテーマの重要性を歪めずに要約する難しさから少々風変りな決断をした。即ち、2001年の著書『Life at the Cell and Below-Cell Level 細胞と細胞以下での生命』[6]に掲載した情報とエネルギーの長距離輸送モデルを原則変更せずに…進歩の極初期段階にも拘わらず…ここに転載することである。それには重要な図(図11)の転載も含まれる。

(※訳者注)印刷の都合から1969 Intern. Rev. Cytology 26:1より転載
左列:図11(p. 45) / 右列:図7(p. 16)

図11. タンパク質鎖の制御された自己協同遷移の理論モデル(左列)
一番上の挿入図は図7(会合エネルギーとc値、c’アナログのプロット)(右列)の簡略化である。小さな矢印は電子の移動方向と、主要吸着体(C⁺)の吸着で開始する対イオンやH結合パートナーの交換を指す。BC段左上の大きな矢印は伝播する誘起変化の方向を指す。図は、初期の準安定状態(上段A)から最終的な準安定状態(下段C)への自己協同遷移に於ける中間ステップを指している。C⁺が除去されると3ステップが逆転進行し、その場合矢印方向は全て逆になる([7]より改変)。

図11の一番上の挿入図はc値アナログ及びc’値アナログ、互換的 alternative吸着体との関係性のタイプを示している。c値アナログやc’値アナログが高くなればそれぞれa⁺とa⁻が優先される。逆に低くなれば今度はb⁺とb⁻が優先される。

では図11A 段における全ての骨格C=O基(図の"O")と骨格N-H基(図の"H")のc値アナログとc’値アナログが(一番上挿入図の)2のラインにあると仮定しよう。図11B段では、主サイトにEWCが吸着すると、最近接Oサイトから電子を吸引し、そのc値アナログの値を2から1へと減少させる。c値アナログが減少すると、a⁺>b⁺の優先性がa⁺<b⁺に逆転する。結果、元々Oサイトを占めていたa⁺はb⁺に置き換わる。

さて、b⁺はa⁺より弱い電子吸引剤である。従ってa⁺からb⁺の置換で電子が放出される。放出された電子の一部は主サイト-EWC結合に向かう上流へと戻り、その電子吸引効果を増強させる。他の電子は最近接Hサイトに移動し、その正電荷を減少させる為、そのc’値アナログは2から1へと減少する。a⁻>b⁻の優先度がa⁻<b⁻に逆転し、a⁻とb⁻の置換が生じる。b⁻はa⁻より弱い電子供与体である。従ってa⁻からb⁻への置換は電子を吸引する。吸引された電子の一部は上流のOサイトから来て、上流のOサイトのc値アナログを更に減少させる。電子の一部は下流の隣接Oサイトに由来する為、c値アナログは2から1へ減少する。そしてa⁺とb⁺の交換が生じる。図11Cの通り、全てのa⁺とa⁻がそれぞれb⁺とb⁻に置換するまでこのサイクルが繰り返される。

図11に側鎖は表記されていない。図12では短側鎖上の官能基も扱っている。

図12

図12. 2者の互換的状態間の制御的自己協同遷移を図解した図11のモデルの代替図
 図11とは異なり、側鎖が描写されている。図11でO(O=H基)とH(N-H基)と表記したものを1つのユニットにし、箱で囲んでいる。この箱により一対の吸着サイトを1単位とし、その実質的な電子供与活性および電子吸引活性を純変化と一括りに扱う為、理解が容易となる。従って、上向きと下向きの矢印がどちらも同じ長さの場合、その箱は側鎖に何の影響も及ぼさない。
 EWCが主サイトに吸着すると2つの矢印の長さには差異が生まれ、最終的な結果は側鎖の幹の下向き矢印で示される電子吸引となる。但し、これら矢印は全て同じ長さなので、全面的に均質な変化が類似の側鎖全部に発生し、恰も1つの側鎖であるかのように作用することに注意[6]。

図11では、骨格のOとHサイトへの吸着は個別に扱った。しかし、図12では、図11の吸着体a⁺とa⁻(単一アミノ酸残基に属すペプチド基のC=O基とN-H基にそれぞれ吸着)のペアを1つの単位とし、長方形の箱(a)で表している。つまり図12AはEWCが取り込まれる前のタンパク質セグメントを指す。ここで骨格カチオン成分(a⁺)の電子吸引力は長方形の箱の下向き矢印で表され、アニオン成分(a⁻)の電子供与力は上向き矢印となる。

図12Bは同じタンパク質セグメントだが、EWC(W)が主サイトを占拠した後の状態を指す。そこで図11のAからCで説明した一連の事象が生じる。その結果、箱(b)(b⁺とb⁻を合わせたもの)は箱(a)(a⁺とa⁻を合わせたもの)に置換する。Oサイト(カルボニル基:C=O基)は分極率が高いが、Hサイト(イミノ基:N-H基)は低いので、強力なOサイトの電子吸引作用は箱(b)の長い下向き矢印で表している。対する弱いHサイトの電子供与作用は短い上向き矢印で表している。箱(a)から箱(b)に置換する最終的な影響は電子吸引効果である。この電子吸引効果CONHペプチド基ごとに繰り返されており、図12Bの各側鎖に沿った下向き矢印の通り、短側鎖上ある官能基は全て同様の電子吸引の影響を受ける。

ところで、短側鎖上にあるこれら官能基のかなりの数はβ-/γ-カルボキシル基である。その電子密度の低下は即ちc値(当初の高値から)の低下を意味する。結果、一価カチオンA⁺がB⁺に置換する可能性がある。このA⁺からB⁺への置換はそのまま骨格でのaからbへの置換と主サイトでのEWCの吸着を強化する。骨格サイトと短側鎖上の官能基、それぞれの吸着パートナー(a-A⁺、b-B⁺等)を合わせると、図13Bの図解と式⑤に記される自己協同的アセンブリ auto-cooperative assemblyの相互互換的な基本成分となる。

図13

図13. 全吸着サイトを吸着体(i)が占める(i)状態から吸着体(j)が占める状態への自己協同遷移2タイプ
 最初のモデル(A)では、周囲の培地に於けるiに対するjの比率を増加させることで「全か無」遷移が生じる。この場合、最初の置換は無限に長い鎖のどこにでも発生する。
 次のモデル(B)では、iとjはどちらも濃度変化を起こさない。自己協同遷移の引き金となるのはEWCの吸着である。Bタイプは図5, 10, 11で提示したモデルである。モデルAと異なり、最初の置換は主サイトのすぐ隣のサイトで発生し、その伝播は所定の方法で方向性を持って進行する[6]。

$${[p_i]_{ad} = \frac{[f]}{2}[1 + \frac{ξ-1}{\sqrt{(ξ-1)^2 + 4ξexp(γ/RT)}} ]}$$・・・⑤

EWCとの相互作用の結果、当初は全面的に高い値を示す骨格C=O基とβ-/γ-カルボキシル基(そして短側鎖上にあるその他官能基)の電子密度は減少する。そして両方の吸着サイトで吸着パートナーの交換が生じる。逆に、タンパク質セグメントの主サイトにEDCが吸着すると、骨格C=O基やβ-/γ-カルボキシル基(そして短側鎖のその他官能基)の電子密度は当初の低い値から増加する。そして両方のサイトで吸着パートナーの交換が逆方向に生じる。

この一貫性 コヒーレンスのお陰で、短側鎖と骨格カルボニル基に協同的に結合する官能基の「一団」全体は一纏まりの単位のように振る舞うのだと言えるかもしれない。同じ原理で遠距離での作用や、主要吸着体の一対多のインパクトが達成される。


だがしかし、このメカニズムは飽くまでプロトタイプであり、可能な限り単純化されたものと言わねばならない。そのため、理想的条件では無限に進行する可能性がある。だが現実には、側鎖が集合することで電子密度の行進が吸収される以上、伝播はどこかで途切れることだろう。結果、情報とエネルギー輸送は…偽性主要吸着体 pseudo-cardinal adsorbentsの吸着で行進が継続しない限り…局所に止まることだろう[8see Ling 2006b, Appendix I]。この単純なプロトタイプモデルからは直接予測できない実験結果に備えてもらうべく、この一節を加えることにした。重要な点は、そうした矛盾する発見は曲がり角の先にある新たな冒険の扉を開く可能性が極めて高いことである。


文献

[1]Ling, G.N. (1952) The role of phosphate in the maintenance of the resting potential and selective ionic accumulation in frog muscle cells. In Phosphorus Metabolism (W.D. McElroy and B. Glass, eds.), Vol. II , p. 748, Johns Hopkins University Press, Baltimore, Maryland.
[2]Ling GN. A Revolution in the Physiology of the Living Cell. Malabar, Fla. : Krieger Pub. Co.; 1992. http://archive.org/details/revolutioninphys0000ling
[3]Ling GN. The physical state of water and ions in living cells and a new theory of the energization of biological work performance by ATP. Mol Cell Biochem. 1977;15(3):159-172. doi:10.1007/BF01734106
[4]Lipmann F. Metabolic Generation and Utilization of Phosphate Bond Energy. In: Advances in Enzymology and Related Areas of Molecular Biology. John Wiley & Sons, Ltd; 1941:99-162. doi:10.1002/9780470122464.ch4
[5]Podolsky RJ, Morales MF. The enthalpy change of adenosine triphosphate hydrolysis. J Biol Chem. 1956;218(2):945-959.
[6]Ling GilbertN. Life at the Cell and Below-Cell Level -The Hidden History of a Fundamental Revolution in Biology. Pacific Press; 2001.
[7]Ling, G. N. “The Role of Inductive Effect in Cooperative Phenomena of Proteins.” Biopolymers Symposia 13 (1964): 91–116.
[8]Ling G. An ultra simple model of protoplasm to test the theory of its long-range coherence and control so far tested (and affirmed) mostly on intact cell(s). Physiol Chem Phys Med NMR. 2006;38(2):105-145
 PDFリンク:<Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR>
 付録1:The Model of the Biological Fixed-Charge System


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