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NPU:究極の生命単位⑤c値変化に伴うタンパク質立体構造変化

↓の続き


2.4. c値および、β-/γカルボキシル基へのK⁺/Na⁺や固定カチオンの選択的吸着

1952年の私の提案は偶像破壊的であった。定説ではイオンは如何なる場でも完全な解離状態であるが、蛙の筋肉等の細胞内K⁺は事実上全て会合状態にあるというものである。より具体的には、全ての細胞内K⁺は主たる筋肉細胞タンパク質たるミオシンのβ-/γ-カルボキシル基(それぞれアスパラギン酸/グルタミン酸残基に担持)と密接な会合状態である[1, p.773-774, 2]。この強力な会合を生む物理的要因が新たに2つ明らかとなり、それをここに引用する。

(i) 溶液に於ける反対符号同士のイオン間の引力はイオン自体の運動エネルギーにより相殺される。一方のイオンが剛直に固定されるとこのエネルギーの半分が喪失し、その結果イオンは、反応する荷電粒子の運動エネルギーを無視できるようにした場合…例えば反対符号に帯電したピスボールのマクロスケールモデル…より、平均的により近くに停滞する。

(ii) イオン固定により類似の電荷を持つイオンの近接配置が可能となり、それはイオン間の反発力が固定を生む共有結合の強度より劣る為である。こうして個々の場が重なり合い、逆符号の遊離イオンに対する集団的な作用力が合計される[1, p.769]。

[1]Ling, G.N. (1952) The role of phosphate in the maintenance of the resting potential and selective ionic accumulation in frog muscle cells. In Phosphorus Metabolism (W.D. McElroy and B. Glass, eds.), Vol. II , p. 748, Johns Hopkins University Press, Baltimore, Maryland.
[2]Ling, G.N. and Ochsenfeld, M.M. (1991) The majority of potassium ions in muscle cells is adsorbed on β- and γ-carboxyl groups of myosin: Potassium-ion-adsorbing carboxyl groups on myosin heads engage in cross-bridge formation during contraction. Physiol. Chem. Phys. & Med NMR 23: 133.  PDFリンク:<Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR>

その後数年間の間にこの簡潔ながら革新的な声明は「吸着サイト固定化による対イオン会合増強の原理 principle of enhanced counter-ion association due to site fixation」と呼ばれた [3-5]。ごく最近、この基本構想は…単純で理解の容易な…統計力学論文へと成熟し、多くの卓越した実験結果と共に発表された[6]。ここでは、完全な解離状態にあるイオンの偏在性という誤信念が誕生した経緯を徹底的に分析している。本稿の読者諸君にはオンライン上で簡単にダウンロードできるこの論文を強く勧める。

[3]Ling GN. The interpretation of selective ionic permeability and cellular potentials in terms of the fixed charge induction hypothesis. J Gen Physiol. 1960;43(5):149-174. doi:10.1085/jgp.43.5.149 ; p.152
[4]Ling, G.N. (1962) A Physical Theory of the Living State: the Association-Induction Hypothesis, Blaisdell Publishing Co., Waltham, MA. ; p.23
[5]Ling, G.N. (2001) Life at the Cell and Below-Cell Level: The Hidden History of a Fundamental Revolution in Biology, Pacific Press, New York. ; p.48-9
[6]Ling, G.N. (2005) An updated and further developed theory and evidence for the close contact one-on-one association of nearly all cell K+ with β-, and γ-carboxyl groups of intracellular proteins. Physiol. Chem. Phys. & Med. NMR 37:1.
 PDFリンク:<Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR>

(i) 固定β-/γ-カルボキシル基との完全会合
(ii)イオン近傍での強力な電磁場による誘電飽和現象[7]
これにより、実効誘電定数が81からほぼ1にまで低下する結果、より小さな(水和)K⁺は、より大きな(水和)Na⁺より遥かに強力な静電引力を経験することになる[6]。ボルツマン分布に従えば、K⁺は固定β-/γ-カルボキシル基に優先的に吸着し、筋肉(等)細胞に選択的に蓄積する。

提案した静電機構は(Ling, 1952)[1]の図6に図解され、また(Ling, 1962)[4]の図4.1Bや、最近出版した記事[8]の付録1にも白黒で複製され、簡単にオンライン上でダウンロードできる。

[7]Debye P, Pauling L. The inter-ionic attraction theory of ionized solutes. IV. The influence of variation of dielectric constant on the limiting law for small concentrations. J Am Chem Soc. 1925;47(8):2129-2134. doi:10.1021/ja01685a008
[8]Ling G. An ultra simple model of protoplasm to test the theory of its long-range coherence and control so far tested (and affirmed) mostly on intact cell(s). Physiol Chem Phys Med NMR. 2006;38(2):105-145
 PDFリンク:<Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR>
 付録1:The Model of the Biological Fixed-Charge System

次のステップは、選択的K⁺吸着/脱着が長距離にわたる情報とエネルギーの伝達に重要な役割を果たし、原形質がコヒーレントシステムとして機能する上でこの伝達が不可欠だと示すことだった。この機能的な鎖が如何に作用するかを理解する為に、まずは短距離誘起効果の古典的な例を簡単に復習することから始めよう[10-13]。

[10]Lewis GN. Valence and the Structure of Atoms and Molecules. 2nd ed. Chemical catalog company; 1923. Accessed October 2, 2025. http://archive.org/details/valencestructure0000unse_g2u8
[11]Dewar M. J. S. The Electronic Theory Of Organic Chemistry. The Clarendon Press; 1949. Accessed October 2, 2025. http://archive.org/details/dli.ernet.474828
[12]Calvin M, Branch GEK. The Theory Of Organic Chemistry- An Advanced Course. Prentice-hall Inc.,; 1941. Accessed October 2, 2025. http://archive.org/details/dli.ernet.474954
[13]Chiang, M. and Tai, T. (1963) Scientia sinica 12: 785.

周知の通り酢酸(CH₃COOH)は弱酸性であり、お陰で酢は爽やかな酸味を持つ。だがサラダにトリクロロ酢酸(CCl₃COOH)をかける人物はいないだろう。調味料としては酸味が強すぎる。この酸味の違いは誘起効果に由来する。この通り、どちらの酸も同じカルボキシル基(-COOH)を持ちながら、その酸解離定数(pKa)は全く異なり、それは両者の残りの部分が異なる為だ。酢酸のメチル基(-CH₃)は強力な電子供与体である[14]。結果、酢酸の一価カルボキシル酸素原子は電子密度が高くなり、するとプロトン(H⁺)の保持が強固となってpKaが高くなる。これに対し、ラジカル(CCl₃-)には電気陰性度の高い塩素原子が3つある。結果、ラジカルは自身へ強力に電子を引き寄せ、一価酸素原子の電子密度を低下させる。すると酸素原子は正に帯電したプロトン(H⁺)を放出するようになり、pKaが低くなる[ibid]。

[14]Ling, G.N. (1964) Association-induction hypothesis. Texas Report on Biol. & Med. 22: 244.

この通り、酸性基のpKaとは酸性基と特定のカチオン 陽イオン(H⁺)との相互作用を意味する。その相互作用だけで酸性基の基本的属性は殆ど分からない。「AはBを愛している」などの情報で互いの性格は微塵も分からないことと同様である。二人はトリスタンとイゾルデかもしれないしボニーとクライドかもしれない。根底にある現象を深堀するには独立したパラメータが必要であり、これは1962年に誕生した。これがc値である。

凡有る場で厳密な定義を持つc値([8]⇒p.120-121と付録1の図4.2参照)は一価カルボキシル(...や他のオキソ酸)酸素原子の実効電子密度に関する定量的パラメータである。pKa値が高いとc値も高くなり、pKa値が低いとc値も低くなる。

c値の定義に伴い、(β-/γ-カルボキシル基のような)固定オキソ酸基や(K⁺やNa⁺のような)一価カチオンに加え、その間にある水分子を変数とした理論モデルの構築を進めた。ここでの目的は、固定β-/γ-カルボキシル基に対する一価カチオンの相対的な吸着エネルギーが如何にしてc値で決定されるかの解明であった。

当初は3次元モデルの構築の方が頑健なように思われた。だが実際の所その構築は困難であり、また取り組むに当たって恣意的な仮定が何重にも必要となる為、無意味である。そこで図6に示す通りの線形モデルに落ち着いた。この線形モデルから最終的に導出される絶対値は鵜呑みに出来ないが、相対値は有用であり、必要とするものは全て得られる。

最初のステップでは、吸着エネルギーの理論上の構成要素に纏わる凡有る支配法則や方程式(+それぞれに関連する数値パラメータ)を列挙した。合計で8つのカテゴリのエネルギーが考慮された([8]⇒付録1の式4-4と図4-1参照) 。準備を整えた所で4つのアセンブリそれぞれの総エネルギー値を算定した。アセンブリそれぞれには、一定のc値で相互作用する固定オキソ酸アニオンと特定のカチオンの間にそれぞれ0, 1, 2, 3個の水分子が含まれる。

研究対象のイオンはH⁺, Li⁺, Na⁺, K⁺, Rb⁺, Cs⁺, NH₄⁺であり、ここでNH₄⁺は固定カチオン、リジン残基のε-アミノ基、アルギニン残基のグアニジル基、ポリペプチド鎖末端のα-アミノ基のモデルと見做せる。最後に、各c値に於ける各カチオンの吸着エネルギーをBorn-charging法[8⇒付録1のp.134-141]で計算した。

計算では、固定オキソ酸(カルボキシル)酸素原子に対して異なる分極率を3つ選択したことに注意されたい。後日、ロンドンのD. Reichenberg博士の助言から2.0 x 10⁻²⁴cm³が最適だと確信し、図7に表した最終結果で採用した。この図は様々なc値に於ける7つのイオンそれぞれの吸着エネルギーであり、本稿で以降も随時引用する予定である。次の課題は、ポリペプチド鎖上の遠く離れた部位で生じるオキソ酸基のc値の変化を発見することであった。

図7. 分極率を2.0×10-²⁴cm³、横軸をc値とした一価オキソ酸基に対する一価カチオンの会合エネルギー(kcal/mol)の理論計算値
K⁺はc値=-4.0Åで固定オキソ酸上に-8.3kcal/molの高い負の会合エネルギーを示し、同じc値で僅か-3.3kcal/molの低い負の会合エネルギーを示すNa⁺より優先的に吸着する。だがより高いc値=-2.5Åの場合、負の会合エネルギーが-16kcal/molを示すNa⁺が-13kcal/molのK⁺より高い為、優先度は逆転する。c値の差による優先度の逆転が会合誘起仮説では生理的活動に於いて重要である[4]。

だがその話題の前に、カチオン性基の正電荷には別のc'値というパラメータを導入する必要がある。また、ポリペプチド鎖のCO基やNH基のような双極性基にもc値とc’値の両方に相当するものがある。これらは実効電荷を持たないが双極性である。その極性は短距離でのみ観測され、その範囲内ではCO基の酸素原子は負に帯電しており、強度は"c値アナログ"と呼ぶもので表される。同様に、短距離でのNH基のHはカチオン性であり、その強度は"c'値アナログ"で表される([4]⇒p. 57, [8]⇒p. 118)。

2.5 (i)α-ヘリックス立体配座と(ii)水の配向分極/完全伸長立体配座との間にあるタンパク質二次構造の「全か無」シフト

さて、AmbroseとElliottの的確な洞察…特にElliott…により、合成ポリペプチドを希釈水溶液に溶解させた場合、それぞれ2種の互換的な立体配座 コンフォメーションの内いずれか一方のみをとることが明証された。一方はNH基とCO基はポリペプチド鎖の軸と同一方向…α-ヘリックスの折り畳み foldingのあるべき姿…に向く。方やNH基とCO基がポリペプチド鎖の垂直軸に向き、これは(ランダムコイル配座と時に誤解されるが)完全伸長配座でしかあり得ない[21-23]。端的に、彼らの発見は、図5に図解の通りに水が豊富な環境でナノ原形質が示す2つ(全か無)の互換的な立体配座の存在を強く支持している。

[21]Ambrose EJ, Elliott A. The structure of synthetic polypeptides. II. Investigation with polarized infra-red spectroscopy. Proc Roy Soc. 1951;205(1080):47-60. doi:10.1098/rspa.1951.0016
[22]Elliott A. The infra-red spectra of some optically active and meso-synthetic polypeptides. Proc Roy Soc. 1951;221(1144):104-114. doi:10.1098/rspa.1954.0008
[23]Bamford CH, Elliot A, Hanby WE. Synthetic Polypeptides: Preparation, Structure, and Properties. Academic Press; 1956. Accessed October 2, 2025. http://archive.org/details/syntheticpolypep0000bamf

X線結晶構造解析技術の進歩により、多くの結晶性タンパク質の三次元構造が緻密に解明されてきた。だが、X線結晶学は鋭い剣のように利点と欠点がある。あまり良くないのは、X線が大量に放出する「絶対」を鵜呑みにし過ぎる場合である(3章以降参照)。「相対」を抽出できれば良い。最良の「相対」の中でもChou & Fasman[24], Tanaka & cheraga[25], Garnierら[26]が発表した、アミノ酸α-ヘリックスポテンシャル を形成し得る機構で知られる3セットが私の最適解である。

[24]Chou PY, Fasman GD. Prediction of the secondary structure of proteins from their amino acid sequence. Adv Enzymol Relat Areas Mol Biol. 1978;47:45-148. doi:10.1002/9780470122921.ch2
[25]Tanaka S, Scheraga HA. Statistical mechanical treatment of protein conformation. III. Prediction of protein conformation based on a three-state model. Macromol. 1976;9(1):168-182. doi:10.1021/ma60049a028
[26]Garnier J, Osguthorpe DJ, Robson B. Analysis of the accuracy and implications of simple methods for predicting the secondary structure of globular proteins. J Mol Biol. 1978;120(1):97-120. doi:10.1016/0022-2836(78)90297-8

さて、ペプチド基ではカルボニル基(CO)は分極率が高く、イミノ基(NH)は低いことで知られる[27, 28]。この知識に基づき、アミノ酸残基のカルボニル酸素原子の実効電荷密度がその残基のα-ヘリックスポテンシャルを決定するものと想定した[29]。

[27]Cannon CG. The interactions and structure of the -CONH- group in amides and polyamides. Mikrochim Acta. 1955;43(2):555-588. doi:10.1007/BF01235027
[28]Mizushima SI, Tsuboi M, Shimanouchi T, Tsuda Y. Spectroscopic investigation of the strength of hydrogen bonds formed by amides. Spectrochimica Acta. 1955;7:100-107. doi:10.1016/0371-1951(55)80012-4.
[29]Ling GN, Ochsenfeld MM. Membrane lipid layers vs. Polarized water dominated by fixed ions: A comparative study of the effects of three macrocyclic ionophores on the K⁺ permeability of frog skeletal muscle, frog ovarian eggs, and human erythrocytes. Physiol Chem Phys Med NMR. 1986;18:109-124.
 PDFリンク:<Physiological Chemistry and Physics and Medical NMR>

20個のアミノ酸残基によるそれぞれ独立したα-ヘリックスポテンシャル3セットと、それぞれに対応するカルボン酸のpKa値(酢酸-グリシン/n-プロピオン酸-アラニン)の間には+0.75以上の正の線形相関が確立されている(表2)。

この正の相関が示すことは以下の通りだ。強力な電子供与性の側鎖はポリペプチド鎖上に残基自身のカルボニル基の高いc値アナログを生み出す。カルボニル基のc値アナログが増加すると、ポリペプチド鎖に沿う何れかの第3アミド基とH結合するのに有利となり、それによりα-ヘリックスの折り畳みが形成される。一方、弱い電子供与性の側鎖は残基自身のカルボニル基のc値アナログを低値にする。カルボニル基のc値アナログ値が低い場合、完全伸長配座の仮説に有利である。完全伸長配座のポリペプチドは多層の水分子を分極し配向させる…この現象は次節で更に考察する。

この相関研究は即ち、強力な電子供与性側鎖が支配的なポリペプチド鎖(のセグメント)は図5左の立体配座に対応することを示している。これはα-ヘリックスの折り畳み形成に有利である。

図5左(活性生活状態)

逆に弱い電子供与性側鎖が支配的なポリペプチド鎖のセグメントは図5右の立体配座が想定される。これは完全伸長配座に有利であり、多層の水分子を分極・配向させる。

図5右(静止生活状態)

また、c値が変化すれば優先される立体配座もまた変化する…「全か無」の様式で。この変化は図7(+この後の図11)に図解したc値変化に伴うβ-/γ-カルボキシル基の吸着パートナーの変化に類似する。

総括すると、現在、β-/γ-カルボキシル基と同様、骨格NH基とCO基にも(2つの)互換的なパートナーが存在するという証拠を得ている。一つ、何れか一方向に3残基ずつ離れた骨格CO基とNH基とα-ヘリックスH結合を形成する。もう一つ、完全伸長配座をとり、多層の水分子を分極・配向させる。

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